氷の底の一時
雪と氷に閉ざされた32階層。
リアさんとポルンと離ればなれになった、僕とクウデリアは氷の裂け目の底にいた。
よくわからない能力しかない僕と回復魔法しかできないクウデリア。
戦闘力は、ほぼ皆無と言っていい2人。
この魔物に襲われたらやばいっていう今の状況も酷いけど、クウデリアと2人きりって状況のほうが僕には辛い。
その理由は簡単だ。
だって、自覚も記憶もないけど僕はクウデリアの胸を触ってしまったらしい。
残念ながら証拠もある。
僕の新しい能力、《おっぱい耐性(手)》、これ以上の証拠はないだろう。
「アルル、どうしたんですの?」
「いや、僕の能力がなんか勝手に増えていて、自分でも戸惑っているというか、なんというか」
「どんな能力が増えましたの?」
言えない。
13歳の聖女とまで呼ばれる王女に、あなたの胸を鷲掴みにして、《おっぱい耐性(手)》が増えましたなんて。
僕には言えない。
「…………落下の衝撃で、《衝撃耐性(手)》って能力が増えました」
嘘ではない。
僕は落下の衝撃で、《衝撃耐性(手)》も獲得していた。
「アルル、なんで、そんなに汗をかいてるんですの?」
「僕、暑がりなんで気にしないでください」
「えーと、私たち、今極寒の地にいるはずなんですけど、それでも暑いんですの。私は寒いくらいですのに」
クウデリアが周囲の氷壁を見ながら、ちょっとだけ呆れているように言いながら、少し寒そうに体を震わせる。
確かにクウデリアの唇と手の指先は色を失いかけていた。
まだ大丈夫だけど、少し温めたほうがいいな。
僕は魔法のポーチから、鍋を取り出す。
29階層で採取していた香草を煮出して、カップに移すとクウデリアに渡す。
「クウデリア様、指を温めながらゆっくり飲んでいてください。僕はどこか上がれるところがないか少し探してみますね」
「アルル、気を付けて」
クレバスの底を一周しても残念ながら上に登れそうなところはなかった。
リアさんとポルンも心配だけど、僕たちのほうが状況としては不味いかもしれない。
「うーん、リアさんたち心配しているだろうな。せめて、ロープとかあれば良かったんだけど」
僕は、クウデリアの元に戻る。
クウデリアは、お茶の入ったコップを両手で大事そうに持ちながら僕を笑顔で迎えてくれた。
「クウデリア様、すみません。上に登れるような場所は見つけられませんでした」
「アルル、謝らないでいいですの」
クウデリアが優しく微笑んでくれる。
こんな状況なのに弱音をはくわけでもなく文句を言うわけでもなく微笑んでくれるなんて強い子だと思う。
「ご苦労様でしたの。アルルも寒かったはずですし、これ飲んで温まってほしいですの」
クウデリアが持っていたお茶を渡してくれる。
僕が淹れたお茶と少し色が違うから、クウデリアに預けていた魔法のポーチから香草を取り出して僕にために入れ直してくれたのかもしれない。
色はしっかりと紅茶のように着いているし、香りの中に上品だけどスパイシーな香辛料のような匂いも混ざっている。
せっかくのクウデリアの心遣いなので、有り難く頂くことにする。
「いただきます」
あっ、美味しい。
クウデリア独自のブレンドなんだろうけど、見た目より優しい味で飲みやすかった。
まさにクウデリアの優しさを顕しているようだ。
自分のために他の人が淹れてくれたお茶なんて、ひょっとしたら僕の人生で初めてかもしれない。
僕はお茶を一口飲んで、体も心も温まるのを感じた。
「クウデリア様の味がしますね」
「えっ、それって、洗うことが出来なかったので、私が使用したカップをそのまま使ってしまったんですが、そうですか…………私の味がしちゃいましたか」
クウデリアの顔が、今までで一番紅く染まっている。
あれ、僕はまた失礼なことを言っちゃったっけ?
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