コボルト
僕とリアさんは草原と森の広がる29階層にいる。
現在、成り行きで助けることになったコボルトの子供を見つめる僕たち。
「アルル、助けておいてなんなんだが、このコボルトはどうする。……殺すべきか?」
「いや、危ないところを助けて喜ばせといて、そのあとすぐに殺すというのは、さすがに人としてどうなんでしょうか、リアさん」
「王子殿下なら、そのようなことも喜んでするだろうがな」
「あー、バカ王子なら、やりそうっていうか、好きそうですよね。そういうの」
「ふむ、間違いなく王子殿下の好みだろう」
まだクビと確認してない以上、一応王宮騎士のリアさんだけど、その言動に遠慮はない。
僕らをダンジョンに置き去りにしたバカ王子は完璧なクズ。
これは僕とリアさんの共通認識だ。
「リアさん、僕は間近でコボルトを見たのは初めてなんですけど、コボルトも子供だと可愛いですね」
まだ子供のコボルトは本当に可愛かった。
全身がふわふわの毛で覆われていて、尻尾もモフモフ。
子犬が2本足で立っている感じで、身長だって僕の腰までしかない。
これを可愛くないという奴がいたら、そいつはバカ王子と同じクズ野郎だろう。
バカ王子と29階層を進んでいたときには、こちらに敵意剥き出しで襲ってきた大人のコボルトを騎士さんたちが容赦なく切り殺していたけど、あれはお互い様だ。
誰が何と言おうと、あどけない視線を向ける無抵抗な可愛い子供のコボルトを殺すのは僕の良心が痛む。
「ポル?」と、変わった鳴き声で首を傾げるコボルト。
えっ。可愛すぎでしょ!
絶対に無理!
僕にはこの子を殺せません。
隣のリアさんを見る。
リアさんも首を横にふっている。
「リアさん、このまま逃がしちゃだめですか?」
「ふむ、父にも騎士として弱き者の命を無闇に奪うというのは間違っていると教わった。今回はそうするのが正しいのかもしれないな」
リアさんも賛成してくれて安心する。
「ん、この子、怪我してるな」
コボルトは足に怪我をしていて、僕は手持ちの傷薬を塗って治療する。
これくらいのサービスはいいだろう。
「これで良し、と」
最初は不思議そうにしていたコボルトだったけど、薬が効いてくると、コボルトは嬉しそうに尻尾を振っている。
そして、コボルトは治療してくれた僕の服をくいくいと引っ張ってくる。
「我々をどこかに案内しようとしているのか?」
「ごめんね、さすがに魔物の君と一緒に行くというのは僕たちにはできないんだ」
「ポル?」
コボルトはしょんぼりしている。
だけど、もし大人のコボルトと遭遇したら戦闘になるはずだ。
僕たちが殺し合うのをこの子に見せるのは可愛そうだ。
だけど、尻尾も垂らして、全身で悲しみを表現しているコボルトを見ていると僕の決意が揺らぎそうだ。
それはリアさんも同じみたいだ。
「……まあ、少しついて行くくらいなら、いいのではないか」
「……そうですね」
僕らはコボルトの可愛さに敗北する。
「ポルル!」
嬉しそうに尻尾を振るコボルト。
こうして僕たちはコボルトの子供を連れだって歩きだした。
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