サイド:エルリック
今回は悪徳王子エルリックの話になります。
本日中にもう1話本編のほうを投稿できたらと思います。
ダンジョンから帰還して数日。
この日、この国の第6王子であるエルリックは荒れていた。
「ちくしょうっ!」
力任せに自室のテーブルを蹴り上げるエルリック。
テーブルに置かれた酒杯や書類が散らばり、小姓が無表情で片付けを始める。
「くそがっ!」
あたり散らされるエルリック付きの文官たちも顔を青くしていた。
そんな不穏な空気が渦巻くエルリックの執務室に入ってくる美女がいた。
王宮魔術師のセレーナだ。
「エルリック王子、どうされたのですか?」
「ああ、セレーナか」
「この間までのダンジョン探索について、国王陛下から何か言われたのですか?」
「親父からは、ダンジョン記録の写本の紛失を多少咎められた程度でなんともなかったんだがな……あのキーエンスがな」
「キーエンス第1王子ですか?」
キーエンスはこの国の第1王子で、今のところ未来の国王の地位に1番近い人物だ。
自分にも他人にも厳しい性格の人物で、ダンジョン攻略は45階層。
歴代3位を記録している。
槍の腕もなかなかで植物魔法にも精通している。
多少冷徹な面はあるものの、黒髪黒目の常に冷静な眼差しで顔も整っているため、粗暴で傲慢な人物の多い王族の中、国民人気も高い。
粗暴で名を馳せるエルリックとはえらい違いだ。
「あのやろうが俺様のダンジョン報告を聞いて無様だなと笑いやがったのさ」
エルリックが苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「たしかに奴は45階層まで行ったとはいえ、俺の倍以上の時間がかかったくせに」
セレーナはエルリックに気付かれないように溜め息を付く。
エルリックは歴代でも類をみないほど多くの騎士を連れだっていき全滅させ、キーエンスは自身の抱える少数精鋭の近衛騎士からの選抜メンバー数人での攻略でほぼ無傷で全員帰還。
内容としてもエルリックの完敗であった。
だが、この場でその事を指摘して、エルリックの更なる不興を買おうという人物は皆無である。
「王子、そういえばダンジョン内に残してきた騎士たちですがどうしましょう?」
セレーナは話題を変えるべく話を振る。
「ああ? 騎士どもだと? あんな奴らもう全滅しているのではないか」
「そうかもしれませんし、そうではないかもしれません。誰も彼らが全滅しているのを確認はしていないのですから」
「どういうことだ? 奴らが生きていれば何か問題でもあるのか?」
エルリックは顔をしかめる。
そんなエルリックにセレーナが説明を始める。
「もし、今回王子とともにダンジョンに挑戦した騎士たちの誰かが生き残っていれば、多少の問題が起こるかもしれませんわ」
エルリックはダンジョン内での自身の行軍の様子をかなり誇張して国王に報告を行っていた。
どれだけ騎士たちが無能だったか、どれだけ自分が勇敢さと有能さを発揮して皆を導こうとしていたのか。
最後の火竜との死闘は、最後まで残らせろと命令する自分を無理矢理に騎士たちが引き下がらせ、セレーナに託したのだと美談めいたものにまで仕立て上げていた。
王子や王女の中には、あのエルリックがそんなことするわけはないと分かっている者が少なくない人数いたが証拠はない。
だが、今回生き残っている者がいれば、エルリックたちの嘘がバレる。
実際に嘘がバレたところで実害があるわけではないが、王族にとって見栄や体裁は、時として命より大事なものである。
そんな自身の醜聞を言い触らされることを自尊心の塊のエルリックが我慢できるわけはない。
「王子、もし生き残りがいた場合、どういたしましょう?」
もし自分の醜聞を流されたくなければ生き残った者を買収して自分の手駒として仲間に引き込むなど、いろいろな方法がある。
だが、セレーナはエルリックが選ぶであろう手段は見当がついていた。
それに伴う手配も、実はもう済んでいる。
あとは、今も熟考する主の言葉を待つだけ。
「…………殺せ」
エルリックは不敵に嗤うと、セレーナに静かに命じるのだった。
読んでくださり、ありがとうございます。
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