騎士見習い視点①
side グレン・ルチアーノ
『大きくなったら、立派な騎士になって王様と王妃様を守る』
それが、幼い頃からの夢だった。
学院卒業後、俺は騎士団に入団した。しかし、配属されたのは、希望していた第一騎士団でもなく、叔父が団長を勤める情報局特務部隊でもなく、特殊近衛部隊だった。
別名、「御飾り近衛」「王子のお友達部隊」と呼ばれている部隊だ。
騎士として活躍のできない閑職部隊だ。
代々将軍職を歴任しているルチアーノ侯爵嫡男の俺が、いきなり閑職に配属された理由はわかっている。
次期王妃のマリンを断罪し、国から追い出したからだ。
俺とマリンの家はそれぞれ、武のルチアーノ、文のクォーツと言われ双璧をなしている。
きっと、マリンを追い出したことに、嫌がらせとしてクォーツ家が俺の騎士団入に横やりを入れたのであろう。
全く、クォーツ家に言われたからと言って、俺を閑職に配属するとは、しっかりしろよ親父。
親父に文句を言いたいが、卒業パーティーの行われた夜以降、一度も会っていない。
閑職に追いやられたとは言え、マリンを追い出したことについては、全く後悔はしていない。
あいつは、カレンを傷つけたのだから。
俺とマリン、マーレを含めた3人は幼馴染だ。
家同士、親父同士が国の重要なポジションに就いているため、自然と幼い頃から交流があった。
マリンに初めて会ったのは、3歳のときだった。
月の光のような銀髪、青空のような青い目のマリンに、俺は恋に落ちた。
しかし、その恋心を伝えることなく、終わりを告げた。
マリンが次期王妃に選ばれたからだ。
悔しかった。いままで望んだことは全て叶っていたから。しかし、その一方で誇らしかった。
歴史に名を残し、家庭教師がいつも誇らしげに語っていた、我が国の王妃たちの功績の数々。
それに、マリンが選ばれたことに幼馴染として本当に誇らしかった。
マリンを近くで護れるように、立派な騎士になろうと誓った。
俺が騎士として着々と実力をつけ、学院入学と同時に見習い騎士になることができ、学院内の王子の警護を任せられることになった。
誇らしかった
嬉しかった
これで、マリンのことを守れると思った。
きっとマリンも喜んでくれると思った。
しかし、マリンは喜んでくれなかった。
『貴方はなぜこんなところにいるのですか?早く、王子の側に戻りなさい』
『私を守る必要はありません』
『はぁ・・・こんなところで油を売っていないで、ジェイド様をお守りしなさい』
など、冷たい言葉と態度で俺を邪険にした。
ショックだった
しかし、俺はめげなかった。
何度も何度でも、マリンを守ろうとした。
その度に、マリンは冷たい態度を俺にとった。ひと月も過ぎると、俺の姿を見ると、ため息しかつかなくなった。
いくら俺でも、俺自身を否定するようなため息に、精神的に参ってしまった。
そんな時に、カレンに出会った。
放課後、生徒会室に呼ばれた王子を待っている間、時間潰しのために、滅多に行かない北の庭に行くことにした。
北の庭は校舎から遠く、また日当たりも悪いため、艶やか草木が何も生えていないため、生徒には不人気の庭だ。
北の庭に行くと、「はっ」「えいっ」といった女性の声が聞こえた。
木の影からそっと覗くと、そこに居たのがカレンだった。
カレンは一心不乱に素振りをしていた。
栗色の髪を乱しながら、剣を振るう姿に好感を持った。
この国では、剣術は貴族の嗜みとされているため、貴族の子女には必ず身につけなければならない教養だ。
だが、この学院の多くの令嬢は剣を使う機会はそう多くない。そのため、令嬢たちは剣術の授業を形だけ受けているだけだった。
そんな中、カレンは違っていた。
毎回、剣術の先生の剣を振るう姿を榛色の目で真剣に見つめていた。
剣術の授業があった日は必ず、人気のない庭で先生の動きを思い出しながら一人剣を振っていた。
俺は、いつもカレンの努力を木の影から見守っていた。
雨の日も、風の強い日も、一人努力を続けている、そんな姿がいじらしくなり、ある日声をかけた。
「左脇が開いている」
「きゃっ」
急に声を掛けたせいか、カレンは剣を落としてしまった。
剣を拾い、カレンに手渡すと、カレンは『ありがとう』とはにかみながら笑顔で、俺にお礼言ってくれた。
その笑顔に恋に落ちた。
どうやら俺は、自分では気付かないうちに、マリンの冷たい態度に精神的にに参っていたらしい。
そんな中で、カレンのやさしさは、太陽のように俺の心を暖かく照らしてくれた。
カレンの優しさが体に、心に染み渡る。
俺がカレンに恋に落ちるのは必然的なことだった。
それから、俺は時間を見つけては、カレンの剣術の自主練習に付き合った。
平日はもちろん休日も可能な限り付き合った。
カレンは筋が良いのか、直ぐに上達していった。剣術の授業で先生に誉められることが多くなっていった。そんなカレンが誇らしかった。
だがある日、カレンの剣が折られているのを見てしまった。
カレンは悲しそうな表情をして、剣を抱き締めた。
心当たりが無いか聴くと、カレンは顔を横にふった。
それからも、カレンの私物が壊されたり失くなったりすることが続いた。
俺はカレンを守るために、可能な限りカレンの側にいることに決めた。
カレンは「自分は大丈夫だから・・・グレン様は、ジェイド様をお守りしてください」と強がっていた。
確かに、俺は王子であるジェイドを守るための騎士。カレンを守るにも限界があった。
どうするか悩んでいると、ジェイドがカレンをエスコートしながら歩いている姿を目にした。
失恋した悲しみと同時に喜びがこみ上げた。
ジェイドとカレンが一緒にいれば、俺は王子を守りながらカレンを守ることができるからだ。
俺はカレンをジェイドの側に連れていった。
いつも厳しい表情のジェイドは、カレンが側に来るとやさしい表情になった。
マーレやルカの話によると、カレンもジェイドのことを好いているとのことだ。
好きあっている二人が一緒にいることができ、俺も二人を守ることができ・・・
とても幸せだった。
だか、そんな幸せは長く続かなかった。
カレンが何者かに、階段から突き落とされたのだ。
幸いカレンに怪我はなかった。
安堵と後悔がこみ上げた。カレンを守ると決めたのに、俺がカレンの側にいなかったかがために、カレンは死にそうになったのだ。
責任を取るべく、俺たちは必死にカレンを付き落とした犯人を探した。
しかし、階段には犯人に繋がるようなものは何も落ちてなく、生徒からの聞き取りも犯人に繋がるもはなかった。
犯人が見つからず、悶々と過ごしていた。
卒業パーティーの一週間前、卒業パーティーの警備の相談で、ジェイドの執務室を訪れたとき、ジェイドの侍従が慌てた様子で執務室に入ってきた。その手には小荷物があった。
ジェイドは侍従が確認して中が開いている荷物を受け取った。
ジェイドと一緒に中身を確認すると、その中にはマリンがカレンを突き落とした証拠が入っていた。
いや、階段から突き落としたそれだけではなく、マリンがカレンに行った数々の証拠も入っていた。
怒りのあまり、剣を強く握りしめマリンの元へ向かおうした。
しかし、ジェイドに止められた。
「卒業パーティーまでに、悔い改め罪を認めればマリンを許そう」
ジェイドを怒りを抑えながら、そう言った。
あぁ、なんてこの王子は慈悲深いのだろうか。
大切な女性を傷つけた者を許そうとするなんて。
この王子に仕えることを誇りに思った。
マリンが卒業パーティー迄に、カレンに謝れば俺もマリンを許そうと思った。
だが、マリンはカレンに謝ることをしなかった。それどころか、マリンは氷のような冷たい目で、パーティー会場を見渡しパーティーに集まった生徒たちを萎縮させていた。
卒業パーティーで、マリンの罪を公衆の前で顕にしたときでさえ、その態度は変わらなかった。
「大人しく、罪を認めろ」
不遜な態度に、思わずマリンを怒鳴った。
マリンはそれでも冷え冷えとする眼差しで、俺たちを見ていた。
あぁ
もう、俺が愛し守りたいと思っていたマリンの姿はどこにもなかった。
マリンは罪を認めないまま、パーティーの途中で会場を去った。
俺は卒業パーティー後、泣き崩れたカレンを宿舎に送り届けた。
部屋に入っていく姿は、とても儚く今にも消えてしまいそうなほどだった。
それが、最後にカレンを見た姿だった。
次の日、ジェイドの侍従がカレンの宿舎を訪れると、そこにカレンの姿はなかった。
血眼になって国中を探したが、カレンの足どりさえ掴めなかった。
続きます




