主人公視点②
男爵家での生活は熾烈なものだった。
男爵家の子供として引き取られたにもかかわらず、私は使用人以下の扱いを受けた。
使用人たちに水をかけられ、男爵夫人には熱したアイロンを腕に当てられた。
男爵は男でない私を徹底的に無視した。
一年後、16になった私は貴族があつまる学院へ行くことになった。
貴族たちが集まる学院に行きたくなく、男爵に懇願するが受け入れてもらえなかった。
入学式当日、寝る暇も食べる暇も与えられなかった私は貧相な体に、ブカブカの制服を身につけて入学式に出席しなければならなかった。
案の定、会場に入るなり公爵令嬢に絡まれてしまった。
『学院から出ていけ』
と言われたが、私だって好きでここにいるわけでない。悔しさのあまり、会場を飛び出してしまった。
勢いで会場を飛び出してしまった私は、会場への帰り道がわからず途方にくれていた。
「どうかしましたか?」
その時、後ろから声をかけられた。
振り返るとそこには、青い目をした、月の光のような銀髪をした少女と、太陽のような金髪の少女がいた。
その瞳には嘲りがなく、母と同じい優しい光で輝いていた。
「実は……」
思わず身の上話をしてしまった。
望んでいないのに、男爵家に引き取られたこと
会場でいじわるを言われたこと
私のつっかえつっかえの話を、彼女たちは真剣に聞いてくれた。
全て話し終えると、彼女達は一緒に会場に行こうと行ってくれた。
会場では別々の場所に座ることになった。名前を聞いてなかったことに気づいたが、すぐに彼女の名前を知ることができた。
銀髪の彼女はマリン・クォーツ様
金髪の彼女はミランダ・アンバー様。
彼女たちのことをもっと知りたいと思い、隣に座っていたご令嬢に話しかけた。
隣のご令嬢は、驚いた表情をしたが、朗らかな表情で教えてくれた。
マリン様が次期王妃になる方ということ、そのマリン様の一番の親友が、アンバー財務大臣の娘であるミランダ様であること。
それらは、貴族の間では常識であること。
貴族の常識を知らなかったことを恥じ、顔が真っ赤になった。
そんな私を隣に座っていた令嬢は嘲笑う訳でもなく、
「他にわからないことがあったらお聞きになって」
と言ってくれた。
マリンたちと仲よくなった後に、改めて挨拶を交わして知ったが、彼女はクォーツ宰相の補佐を担当しているモルガンナイト子爵の妹で、隣国のベリン国王の遠縁に当たる女性だった。
半日しか学院にいなかったが、貴族の中にも庶民に優しい貴族がいることを知って、心が暖かくなった。
彼女たちと学院で会えることを希望にして、男爵家での生活を乗りきろうと思っていた。
しかし、男爵家での生活は呆気なく終わった。
男爵家に乗り込んで来た学院の先生たちが、私に荷物をまとめるよう言ってきた。理由を聞いたら、男爵家からでは通学に時間が掛かるため、勉学に支障をきたす畏れがある。そのため、私は空いている職員用の宿舎へ引っ越すことが決まったらしい。
最初、男爵は反対したが、『学院長であるスピネル侯爵が決めたこと』と先生が言えば、男爵は押し黙ってしまった。
この男は自分より弱いものに強く、自分より強いものに弱い。
学院長の名前を出されたら、あの男は大人しく従うしかない。
職員用の宿舎には、質素だがベッドと勉強机が備え付けられていた。
男爵家に引き取られて以来、初めて人間らしい生活ができることをよろこんだ。




