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隣国王子視点

side ベリル・ゴシュナイト


『ベリル様、図々しい願いだとは自覚しております。ですが、どうか助けてください』


久しぶりに見た彼女は、泥と汗で汚れていた。


しかし、汚れていてなお、彼女の美しさや誇り高さは損なわれることはなかった。



彼女と初めて会ったのは、彼女が10歳のときだった。


友好国であるエアル王国との国交樹立400年を記念するパーティーで、国王に次期王妃だと紹介を受けた。


あの、自分で考えることを放棄し侍従に甘やかされている王子の婚約者なだけに、期待などしていなかった。


しかし、彼女はあの王子にら勿体無いほど素晴らしい少女だった。


あの年で既に、自分の立場と役割を自覚していた。


彼女に好感を覚えた私は、すぐに彼女と文通を始めた。


短い内容ながら、彼女の手紙からはエアル王国の内情がよくわかった。


20の誕生日を迎え、父から王位を受け継いだ。


彼女からは、国王就任の祝いの手紙がジェイド王子と連名で届いた。


連名にはなっているが、きっとジェイド王子は私に祝いの言葉を贈ることなど露にも思い付かないだろう。


手紙からは、クォーツ令嬢の苦労が読み取れる。


「ん?」


手紙を読み進めると、おかしな部分が多数あることに気づいた。


それらを解読していくと、恐ろしいことがわかった。


エアル王国のバレンシア国務大臣とアートルム神教国が手を組み、エアル王国を乗っ取った後に、我が国を侵略する計画が企てられていると書かれていた。


マリンの手紙には、我が国にいる内通者を止めてほしい旨が書かれていた。


私は、読み終わったマリンからの手紙を燃やし、すぐに内通者を探し始めた。


内通者は上手く隠れているらしく、なかなか見つからない。


やっとのことで見つけた内通者に、驚いた。


農務大臣のセレアルだった。


先王の時代、豪農だったセレアルは、貴族や国を説得し資金を集め、実りが多くなるように、多くの穀物の品種改良や農地改革に成功した。


その手腕を見越し、私は彼を農務大臣に任命した。


そんなセレアルが日に日に元気を無くしていく。


セレアルに声をかけると、セレアルは泣き出し私に赦しを請いだ。


バレンシア国務大臣とアートルム神教国国王に国を裏切るように要請されていること、要請を受けた場合、爵位を与えること。もし、要請を断った場合セレアルが開拓した土地と、そこで働く人々に危害を加えると脅されていることを話してくれた。


その話を聞いて、私は怒りに震えた。


私は正直者に話してくれたセレアルを赦し、そしてその話に乗った振りをするようセレアルに要請し、そこで聞いたり知り得たことを報告するよう言った。


セレアルは表情を引き締め、私の言葉に頷いた。


その後、セレアルから逐一報告が送られてきた。


そこで知り得た情報によると、主にセレアルと接触をしているのがバレンシア国務大臣の家に使える執事長であること、マリンとジェイドが仲違いをしていることがわかった。


マリンとジェイドが仲違いしている理由が、ジェイドが他の女性に熱を上げているためと知った時は、流石に頭を抱えた。



バレンシア国務大臣たちに悟られないように情報を集めていたある日、マリンが一人の友を連れて訪れてきた。


品のあるドレスは破れ、顔は汗と泥で汚れていた。


汚れきっているマリンを見て驚いた私は、慌てて湯の準備をするようにまわりに命じた。


マリン達に着替えてくるよう言うが、マリンは床に膝を付き、頭を下げた


「ベリル様、図々しい願いだとは自覚しております。ですが、どうか助けてください」


そんなマリンに驚き、立つように言った。


王妃となる女性が、やすやすと他国の王に頭を下げるものではない。


椅子にマリンと友を座らせた。


彼女達に温かい飲み物を出すと、彼女たちは一気に飲み干し、エアル国内の内情を話し始めた。


ジェイドの学院内での暗殺を防ぐことができたこと。


マリンはジェイドに婚約を破棄されたあげく国を追い出されてしまったこと。


国家転覆の計画はまだ進んでいること。


マリンとその友は淡々と話したが、一緒に来た友は、マリンの婚約破棄の話になったとたん、鬼のような形相になった。


その形相に恐れおののいたことは、一生の秘密だ。


国を追い出されて尚、国のために奔走する彼女に『なぜ、そこまで奔走するのか』問いかけた。


「私は、ジェイド様を今でも愛しております。例え、ジェイド様が私を既に愛していなくとも、私はジェイド様が傷つく姿も、死ぬ姿も見たくありません」


大切な人に裏切られても、微笑むことのできる彼女を美しいと思った。


彼女の願いを叶えたいと思った。


しかし、自分で考えることもせず、感情だけでマリンを追い出したジェイド王子の手助けをすることに、抵抗がある。


そこで、私は2つの条件をマリンに提示した。


一つ目は私の願いを叶えるために、マリンにはたらいて貰うこと。


二つ目は私がジェイド王子からの要請が無い限り協力はしないこと。


マリンの友は二つの条件を聞いて眉間に皺が寄った。マリンは反対に涼しい表情で二つ返事をした。


マリンの友が

「あのバカ王子が、マリンの意図を理解するとは思えません」


自国の王子を扱き下ろした。


まぁ、マリンの友の言葉に同感だが…………


「あら?私が愛した人ですよ?それに、私の従兄弟と幼なじみが側にいるのよ?

きっと、大丈夫よ」


晴れやかな表情で、鈴のような声でコロコロ笑う彼女に呆れてしまった。


泊まるよう勧めるが、まだやることがあると二人は言い、颯爽と去っていった。


二人が去って数ヵ月後、ジェイド王子の名代となのる青年が訪れてきた。


謁見の間に行くと、そこにはマリンに似た青年がいた。


青年はジェイド王子からの書状を持ってきていた。


その書状には、エアル王国の内情の他に、自分のせいで汚名を被せてしまったマリンの、名誉の回復をしたいことが書かれていた。


書状を読んで、思わず笑みがこぼれた。


マリンの先見の明に、改めて感心した。


私はジェイド王子の名代に二つ返事をした。


名代は豆鉄砲をくらった鳩のような表情になった。


その表情に声をあげ笑い、名代にジェイド王子の手助けをせる旨を書いた書状を渡した。


三ヶ月後、エアル王国で貴族会議が開かれることになった。


その知らせを受け、私はセレアルと騎士団にバレンシア国務大臣の執事長を捕らえることを命じた。


警戒することなくセレアルの屋敷にやって来た執事長を騎士団は容易く捕まえる事ができた。


捕まえて直ぐ、エアル王国へ向かい馬車を走らせた。首都に近い教会で、バレンシア国務大臣たちに気づかれないように神官の格好に着替えた。


神官の格好に着替えた私は、ルカという下級神官と共に首都に入った。


所々で検問を受けたが、ルカという下級神官の顔を見るなり、検問官たちはあわてて私達を通した。


王宮に隣接している教会に着くと、ジェイド王子の名代の青年……マーレが待っていた。


私達四人は、教会から王宮に続く隠し通路を通って貴族会議が開かれている大広間の前まで来た。


「ベリル様、お願いします」


ジェイド王子の声を合図に、大広間に入った。


大広間では、老獪な貴族たちと対等に渡り合えているジェイド王子の姿があった。


その姿に、目を細めた。


きっと、この姿こそマリンが見たかったジェイド王子の姿なのだと思った。


執事長をエアル王国の騎士達に引き渡した後、私は貴族会議の閉幕を待たずに会場を後にした。


会議後、何か行われたらしいが、それは私には関係の無いことだ。



自分の城へ帰ると、マリンは私の満足のいく……それ以上の結果を出してくれていた。


その御礼に、何か欲しいものはないか聞くと


「ジェイド様は強くありません。そのため、支えとなる王妃が必要です。私の生死がわからないと、きっとジェイド様は新しい王妃を迎え入れることができません。


なので


私達のことを殺してください」


マリンの言葉に、マリンの友も頷いた。


マリンの言葉に、驚いたが同時に納得した。

彼女達は国を離れてなお国のために行動をしている。


私は、彼女たちの願いを叶えるべく、彼女達を殺すことにした。






彼女達の喪が明けて一年後、私は結婚式を上げることになった。


「汝は、国王ベリルを生涯愛することを誓いますか?」


「はい、誓いますか」


私の隣で神に誓いを立てる彼女は、とても美しかった。


「それでは、誓いのキスをお願いします」


神官の言葉に、栗色の髪から垂れるベールを上げ、その唇に口をつけた。



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