72 俺がリノアと町中を見て歩いていると、見覚えのあるものを見つけたんだが
「ほら、リノア、手を繋いでいろよ。じゃないと逸れちゃうから」
この先は小さい俺たちじゃ人込みの中を掻き分けながら歩くような感じになっていくことになるだろう。
気を抜けばすぐに迷子コース一直線だ。
「いいの?」
リノアが遠慮がちに聞いてくる。
普段、リノアが俺の服の裾や袖を掴んでくるのを嫌そうにしてたから、最近は少しずつ減らそうとしていたみたいだけど、流石にこの混雑具合だ。
7歳と6歳の子供二人じゃ簡単に人の波に埋もれてはぐれてしまうであろうことが容易に想像が付く。
前世も俺は弟だったので、どちらかと言えば、落ち着きのなさからよく迷子になって兄貴に怒られていたクチだから確信をもって言える。
今回の場合、逸れてしまえば知らない土地の分、俺はともかくリノアは宿に帰れなくなる可能性が高い。
しっかりしてはいるけれど、まだ6歳だし、町中を見てもリノアは可愛い方なので人攫いも心配しなければならない。
ここは俺がちゃんとしないといけないだろう。
「ああ、人が多いからな。リノアは慣れてないだろ。離すなよ」
「うん大丈夫、離さないよ」
何だか、リノアが物凄く上機嫌になった気がする。
大丈夫かな?
小さい子どもが、こういうテンションの上がり方をすると、あちこちに興味を惹かれて動き回り迷子になりそうなんだよな。
……前世の自分の経験談なんだけど。
「でも、「リノアは慣れてないだろ」って、変なの。フォルトちゃんだって慣れてないでしょ」
これだけの人が集まっているのは村のお祭りか、何かの集会くらいで、しかも村の人は全員知り合いと言っていい人たちだ。
大勢の見知らぬ人たちがいる場所に来るのは初めてだと思って心配して思わず言ったんだけど、ちょっと失敗した。
「えっ、ああ、うん、そうだね。俺もリノアから離れないように気を付けるよ」
「クスクス、任せて!」
やはり上機嫌にクスクス笑う。
やれやれ、何とか誤魔化せたかな?
それからも二人していろいろな屋台や露店を見て回った。
野菜を売っている所や果物を売っている所。
花を売っている所や服を売っている所。
髪飾りや変な骨でできているような飾りを並べている露店。
子どもの冷やかしと思われ、邪険にあしらわれるかと思ったけど、意外とそれほどでもなかった。
中にはあからさまに邪魔そうな雰囲気を出してくる人もいたけれど、そういうところはさっさと通り過ぎればいい話で。
ほかにも見る店はたくさんあったからな。
そんな風に、前世の商店街を流すような感じで歩いていると、ふとあるものが目に留まった。
「あれは」
「どうしたのフォルトちゃん?」
リノアが俺の様子に気づいて俺が見ている方向を凝視する。
いかにも高級衣料品店という感じの石造りの店の前に一台の馬車が停まっている。
「あれってキサナティア様の馬車だよね?」
「ああ、たぶん間違いないと思う」
俺もリノアも、他の貴族の馬車なんて見たことがないけれど、見覚えのある馬車だと直感で思ったし。
護衛の人はいないみたいだ。
ベーシウスさんやエニムさんも店の中かな? それとも馬車の中で待機かな?
ベーシウスさんには会いたい気分はあるけれど、たぶん町中で平民の俺たちが貴族やその護衛の騎士様に気安く声をかけるなんてことできないだろうな。
うーん、そう考えると近くを通り過ぎて、下手にかかわるとまずい気がする。
「一本脇の道から回っていこうか?」
「うん、そうだね」
リノアも同じ気持ちだったらしい。
ラドンツの町に来る前も、もしかしたら同い年の女の子同士なんだから、仲良くなれるんじゃないの? と言ってみたんだけど、やっぱり、その辺は子どもながらに無意識(むいしきに距離感というものを感じ取っているのかもしれない。
そして、俺たちはそういうと少し回り道をすることにした。
少し細い道で静かだけど、貴族のお嬢様が訪れるような高級店の裏側なんだから問題はないと思う。
高級店の連なる道を避け裏道に入る。
一本道を隔てただけなのに、店の裏側は今は出入りをする人もいないのか思った以上に人気が全くない。
とはいえ、静かなだけで高級店の裏側だけあって、治安が悪いようには見えないので安心する。
まあ、日本でも大きな店の通りの裏側なんて静かなところが結構あったからこんなものだろう。
どうせすぐ元のお店の表通りに戻るし。
「何だろうあれ?」
リノアの呟きに俺もリノアの視線の先に目をやる。
すると、一軒の店の裏手から、袋を担いだ男が出て来るところだった。
「なんだ、ただ荷物を運び出しているだけじゃないか」
「でも、あれ、袋から飛び出してるの」
「んっ?」
よく見れば、袋から細くて白い小さな足、子供の足が片方飛び出していた。
「え!?」
女の子用の白い靴。
酷く見覚えのある靴。
(あれはキサナティア様の靴だよ!)
リノアが俺に小声で言った。
やっぱり!




