70 俺が飲み物を飲んでいる間に、話は進んでいるんだが
オルレライン司教の部屋に入ると、立派な木製の机の向こう側に、穏やかに微笑みを湛えて、こちらを見ている上品そうな初老の女性が座っていた。
この人がオルレライン司教なんだ。
やっぱり、校長先生みたいだな。
そして、オルレライン司教が、このラドンツの教会の最高位になるそうだ。
ちなみに、ここにたどり着く前、廊下を歩きながらエメンズ司祭に聞いたんだけど、あのゴズレグ大司祭は別のところで大司祭になってから、ラドンツの教会に移ってきたらしい。
どうも、前の教会で問題を起こしたみたいだけど、思わず納得してしまった。
如何にも、我儘で、自分勝手で、権力を笠に着ている御貴族様の御曹司って感じだったもんな。
それとは対照的に、目の前にいるオルレライン司教は誠実そうな感じがする。
何となく気苦労が絶えない人といった印象を受ける。
貴族の権力や賄賂で地位を与えたりするような感じにはとても見えない。
まあ、世の中や大人の事情ってヤツは必ずしもそうとも限らないかもしれないけど。
少なくとも今の段階ではそう見える。
基本的に教会は貴族の影響を受けないということになっている筈だ。
あくまで建前のことだろうとは思うけどさ。
前世だって、そう言った話がないわけじゃなかったし。
歴史の授業でも、そんな話はいくつか出ていたしね。
殆ど覚えてないけどさ。
だけど、そのくらいは俺でも、何となく理解しているつもりだ。
「まぁまぁ、小さいのに、遠いところをよく来てくれましたね。ヒューク司祭も久しぶりですね」
オルレライン司教は立ち上がり、柔和な笑みで、俺達子どもを優しく出迎えてくれた。
「御無沙汰をしております、オルレライン司教」
ヒューク司祭の挨拶も、先ほど廊下ですれ違ったゴスレグ大司祭に対するものとは明らかに違う、丁寧な口調で、そこには尊敬の念が込められているのを感じる。
それから、オルレライン司教は机の上に置いてあった小さなベルを鳴らして人を呼び、俺たちを机の前の応接セットのようなところに招いてくれて飲み物を出してくれた。
中身は柑橘系の果汁水で、搾りたてという感じで、よく冷えていてとても美味しかった。
面白いのは、藁のような、植物の茎のような、ストローが付いてきたという所だ。
吸うと、ちゃんと飲むことが出来る。
うーん、流石と言うべきか。
自然派だね。
俺とリノアが両手で容器を抱えて果汁水を飲んでいると、話は進んでいた。
「本来はこちらから出向かなければいけない事案なのに、呼び出してしまって申し訳ないですね」
「いえ、元々私だけの仮説でしたし」
「そのことに関して、教会も体面を気にしているのよ。だから、ドーザリブの教会から調査団を派遣するのにも時間がかかっているのよ」
ああ、組織の面子というヤツかな?
「そうでしょうね」
「そちらは親御さんでしょうか? 子どもたちを呼び出してしまって申し訳ありません」
「こちらのフォルトの父のオズベルトです。仕方ありません。事情は大よそ察しております」
「まあ……お察しの通り、情けない話ですが、我がドーザリブ王国には長い間、女神姉妹の遣いとなる者が現れておりません。そこに来てヒューク司祭の唱えていた神殿の発見です。しかもその功労者が子ども二人と言うではないですか。一人は男の子だといっても、藁をも掴む思いなのですよ教会は」
聖職者が藁をも掴む思いって、迷える子羊たちが、集団で溺死するぞ。
「ほかにも女神姉妹の遣いとなるかもしれない候補はいないのですか?」
「いえ、何組かはいることにはいるのですが、何れも神託を受けたわけでもなく、神力やスキルと言ったものが発現したわけでもなく、決定打に欠けておりまして」
「げふっげふっげふっ」
「フォルトちゃん、だいじょうぶ?」
リノアが、咄嗟に机の上に容器を置いて背中をさすってくれる。
ぐふっ、それって、妙な力を持っていることがバレるとヤバいヤツじゃ。
「まあまあ」
「コレ、使い慣れてなくって、喉に飲み物が入っちゃった。げふっげふっ」
嘘だけど、誤魔化すように無理に説明して置く。
「ほらフォルト、無理して喋らなくていいから。ゆっくり飲み物を飲みなさい」
「はい」
双子女神の遣いってことはずっと巫女で姉妹じゃないかなと思っていたんだけど、違うのかな?
俺は男の子だからと、と高を括っていたけど、なんだか雲行きが怪しくなってきてないか?
俺の背中に冷や汗が流れる。
「その子たちには少し話を聞かせてもらったら、基本的にはこちらの報告待ちなだけですし。後は自由に行動して良いですから、しばらくゆっくりとドーザリブ見物でもしていくと良いわ」
これって、ますます空間収納の事はバレちゃマズいってことでは?




