66 俺がようやく、ラドンツの町に入れたんだが
少しずつラドンツの町に近づいてくると、門の前に馬車の行列ができているのが見えてくる。
恐らくは町への入場のための検問待ちの列といったところだろうか。
初めての経験だ。
何もあるわけではないけれど、今からちょっと緊張する。
前世、テレビで外国の税関の番組なんかを何度か見たことがあるけど、この世界では同じ国内であっても大きな町では行なわれているようだ。
ああ、でも国内線でもゲートはあるか。
ちょっと舞い上がっているみたいだ俺。
「これは大分待つことになりそうですね」
「そうですな」
馬車を一旦止めて、前でヒューク司祭とオズベルト父さんが話している。
「ヒューク司祭、オズベルト、どうする? 襲撃やトラブルを助けてもらったし、同行者という事で、貴族門から同行させることも出来るが?」
そこにベーシウス様が近づいてきた。
ああ、そうか。
貴族様は行列待ちとかしなくても専用の入り口みたいなものがあるわけなんだ。
まあ、想像は出来るけど。
「いや、今回要件が教会がらみなものでな。下手に貴族とのかかわりをアピールしない方がいいだろう」
だけど、オズベルト父さんはしばらく考えを巡らせてから、その申し出を断った。
「……そうだな」
ベーシウス様も、顎に手を当てて、少し考えてから、納得したように一つ大きく頷いた。
「大丈夫ですよ。教会からの召喚状がありますから、検閲で長引くことはありませんし」
ヒューク司祭も同意見のようだ。
「そうか」
「それにあの子たちに、ちゃんとした入り方を見せておかないと」
「そうだったな。では、我々は先に行くことにする。世話になったな」
そう言うとベーシウス様はこちらを向いた。
「フォルト、リノア、短い期間だったが、ある程度の要点は教えたつもりだ。ちゃんと覚えておけよ」
「「はい! ありがとうございました!」」
俺とリノアは馬車の荷台の上にいたけど、立ち上がって深々とお辞儀をした。
本当に良い経験が出来たと思う。
この先、あんな機会が巡ってくることはまずないだろうし。
「いい返事だ。身体に気を付けろよ。じゃあな」
そう言って、いつものニカッとした笑顔を見せると、キサナティアお嬢様の馬車へと戻っていった。
森の木々が少し揺れる。
それから、ゆっくりとキサナティアお嬢様の馬車は走り出す。
その時何となく視線を感じたような気がしたけど、多分、気のせいだよな。
……自意識過剰かな、俺?
それから、俺たちの馬車も少し休憩を取ってから、ラドンツの入場門に向かって走り出した。
馬車の列はそこそこあったので、それなりに待つことにはなった。
これ、昔の日本で言うなら関所かな?
なんてことを馬車の荷台の上で頬杖を付きながら考えつつ、待つことしばし。
やっと俺たちの馬車の番がやってきた。
ヒューク司祭の言っていた通り、教会からの召喚状を見せたら、あっさりと通してもらえた。
もっと、こう、荷物検査とか、身分確認とかが厳しいのかなと思っていたけど、ちょっと拍子抜けだ。
まあ、国内だからということもあるし、意外と緩いのかもしれない。
それか、教会の信用がそれだけこの世界では高いという事にもなるかもな。
信仰により、本当に魔法という力を与えてくれるわけだから、それも納得か。
そして、いよいよラドンツの町の中へと入っていく。
「うわああ!」
「すごーい!」
石造りの頑丈そうな壁と門を潜り開けた光景に思わず圧倒される。
ラドンツの町は俺がこの世界に転生して初めての大きな町と言える。
「外国だ!」
この世界の俺にとっては「外国」ではないのだけれども、やはり外国に来たようなイメージを受ける。
昔のヨーロッパの街並みのイメージそのものが目の前に広がっていた。
レジャーランドのセットなんかでいくつかは実際に見たことがあったけど、やっぱりリアルさが違う。
「フォルト、お前、何言ってるんだ?」
「あっ、いやあ、別に。パスレク村とは大違いだからさ」
「外国ですか? 確かにパスレク村とはかなり違うので、初めて見るフォルト君たちにはそう見えても仕方がないのかもしれませんね」
「そうか。そうだな、お前たちにとってみれば、初めての大きな町だもんな」
う~ん、まあ、こっちの世界の町は初めてではあるんだけど、町を見たことがないわけじゃないし、もっと発展していた街を見てきたこともあるからなあ。
と、言うか、そういう所で暮らしていたわけだし。
ただ、完全に西洋風に近い街並みは直には初めて見たことになる。
パスレク村は確かに建物は洋風と言っていいのだろうけど、どこか雰囲気が田舎のお爺ちゃんお婆ちゃんの家のあった所を思い起こさせたので、前世の記憶を取り戻した時、懐かしい感じと共にすんなりと馴染んでいた。
記憶を取り戻さなくても、5年間育ってきたせいかもしれない。
でも、この風景はまるで違って見えた。
石畳の道とか煉瓦造りの街並みとかセットじゃない本物の重厚感を感じる。
どんなものがあるのか?




