表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

55/77

55 俺が怪しい影を見つけて、そっと回り込んでみたんだが

 森の奥、河原のある方から、女性の悲鳴がした。

 おそらくはメイドのクレールさんのものだろう。

 その悲鳴を聞いて、真っ先に森をりてみたら、ヒューク司祭たちが水浴びをしに行った河原で、何者かにおそわれていた。

 野盗かと思ったが、やけに動きが直線的だ。

 ただまっすぐに突っ込んでいっているだけ。

 何か動きが変だと思い、よく見てみれば、それは前世で良く映像などで見たことのある死人(ゾンビ)そのものだった。

 実際に本物の死人(ゾンビ)を見て一瞬足がすくんだけど、メイドのクレールさんの悲鳴で我に返ることが出来、石を投げて援護をしていると、やがてオズベルト父さんとベーシウスさんが追い付いてきて、後は任せて森から出ないようにと言われる。

 それでも、二人がヒューク司祭たちに合流するまでには少し時間があるため、自分にも何かできないかと思い、石をゾンビに投げ続けてゾンビを牽制けんせいし、ヒューク司祭と女騎士のエニムさんの援護をしていた。

 確か、教会で習った、この世界のゾンビの弱点は頭をつぶすか首を切り離すことだったはずだ。

 一応、これでもコントロールには自信がある。

 ゾンビの頭部をねらって何球か投げていると、オズベルト父さん達がヒューク司祭たちに合流し、加勢に入ろうとしているのが見えた。

 ホッと安堵あんどの息を付く。

「んっ、?」

 すると、その少し離れた森の中、まだいるのか、フードをかぶったゾンビらしき影を見つけた。

 今の所動き出す様子はないし、オズベルト父さんとベーシウスさんがヒューク司祭たちに合流したから、余裕も出来るのかもしれないけど、これ以上数が増えて場が混乱してもまずいだろう。

 要はあっちは合流させなければ良いわけだ。

「森からでなければいいんだよね」

 俺はそうつぶやくと気配を殺すようにして森の中を移動し始めた。

 自分にだって牽制けんせいくらいはできる。

 アグレインのおじいちゃんのボライゼ師匠から剣技も習ってきた。

 森の中を静かに進みながら、ふと、前世を思い出す。

 前世のクラスメイトたちの話で良く異世界系の話が出ていた。

 俺はあまり詳しくはなかったから、どちらかというと聞き役にてっしていたけど、その中にゾンビの話も良く出てきていた。

 クラスメイトの中の一人がゾンビ関係の話が好きで、外国のB級ホラーのゾンビモノを熱く語っていたのが、うっすらだけど記憶に残っている。

 何でも、字幕を読んでいると、会話の内容がいい加減で面白いんだそうだ。

 って、この情報は今は何の役にも立たないか。

 それはおいておいても、俺でも流石にゾンビくらいは知っている。

 ただ、クラスメイトも言っていたが、その作品、ゲームや映像などで特徴がかなり違ってくる。

 生者の生気に引き寄せられてくるとか、目が悪く音に反応するとか、動きが遅かったり、逆に素早かったり筋力のリミッターを無視して力が異常に強かったり、知力を持ち合わせていたりと様々だ。

 中にはみつかれたり、傷付けられたりすると、その傷口からウィルスが感染して生きているうちにゾンビ化するなんていうおそろしいものまである。

 教会の授業でヒューク司祭から習ったこの世界のゾンビはさいわいと言うべきか、移動する速度はそれ程早くはないが、かといってゆっくりでもない。

 力は普通の人間よりは強くなるらしい。

 それは筋肉の繊維せんいのダメージを無視することになるからなので、やがては腕が動かなくなるらしいが、それでも向かってくるという。

 これもさいわいな事だが、みつかれたり、引っ掛かれて傷付けられたとしても、生者であれば、生きているうちにゾンビ化していくことはないそうだ。

 この話をしたとき、ヒューク司祭は俺に。

「フォルト君はなかなかおそろしい発想をしますね。そんな状況なら、おそらく、国の軍が動いても歯が立たないでしょう。それどころか、軍が丸ごとゾンビになって襲ってくるなんてこともあるかもしれません」

 と言っていた。

 それを周りで聞いていた女子たちがおびえていたのを覚えている。

 そんな中、気の強いシスカに涙目で文句を言われたのが印象的だったっけ。

 ただ、みつかれたり、傷付けられたりした状態で死んで放置されていると、どういうわけか、魔核のない人間族にも関わらず、魔力がまりゾンビ化することがあるらしい。

 だから傷口は出来るだけ早くきれいに洗うなり、浄化の魔法をかけてもらうなりをしておくのが常識なのだそうだ。

 火葬にすればいいじゃないかと思うかもしれないけれど、火葬にするのにも燃料となるまきがそれなりの量必要となる。

 その余裕がある時なら良いが、そういうのはまれだそうで、そのため、この世界の葬式は土葬が一般的だ。

 俺は剣の師匠であるアグレインのお爺ちゃんのボライゼ師匠の教えや、狩りを教えてくれているオズベルト父さんの言っていた事を思い出しつつ、気配を殺し、動かずにいるゾンビの近くまで移動していく。

 近くなってくると、茂みの音などで気取られる可能性があるので、木に飛び上がって、そこから木から木の枝へと飛び移る。

 いよいよ間近という所で、一旦止まり、呼吸をととのえる。

 ここからはタイミングが勝負だ。

 次の枝に移ったら、素早く石をゾンビの頭目掛けて投げ、そのまま飛び降りざまに木の棒で頭を殴りつける。

 木の上から石を投げる事は狩りの時にもやっているのでれている。

 さいわい、最後になる枝はかなり太く安定していそうなので、石を投げるのには問題なさそうだ。

 問題は木の棒で殴りかかることだ。

 いくら体重を乗せ、高いところからの打ち下ろしでも威力いりょくが足りるかどうか。

 ヒューク司祭みたいに、うまくつぶせればたおせるが、いくら前世の転生をしてくれた薄紫ツインテール天使のパスティエルが、この世界の基準より能力を上げてくれているとはいえ、子どもの力だ。

 それにあのメイスは以前に見せてもらったけど、何かしらヒューク司祭がほどこしているのだろうし。

 たぶん、聖職者だし、今回みたいに余裕のない時を見越して、対アンデット対策をしてあるんじゃないかな。

 俺の力で、どこまでやれるか?

 でも、やるしかない!

 (いくぞ!)

 俺は枝をって、最後の枝へと飛び移った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ