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53 おれが馬車を見ていて、良いことを思いついたんだが

「それにしても、改めて驚いたぞ。ベーシウスが騎士になっていたなんて」

「ああ、さっきも少し言ったが、お前たちがラドンツから離れてすぐに、貴族の依頼を受けることがあってな、その後、専属護衛になってキサナティアお嬢様が生まれると同時に騎士に取り立てられたんだよ」

「そうか、出世じゃないか。モレットたちも元気でやっているのか?」

「ああ、それぞれにな」

 先に沢へ降りて身支度をすることになったメンバーを見送ってから、馬車の見張りにと残ったオズベルト父さんとベーシウスさんと俺はそれぞれ、全体を見渡せる場所で、岩の上に腰を下ろしたり、木にもたれかかったりしながら、各々少し力を緩めていた。

 俺は時間つぶしで何の気なしにプラプラと辺りを歩き回っている。

 そのうちオズベルト父さんとベーシウスさんは世間話、というか近況を話し始めた。

 それでも流石さすが、二人とも冒険者経験が豊富なだけに、力を緩めていながらも、辺りへの警戒けいかいおこたっていないという気配は伝わってくる。

「それにしても確かに、お前の技は護衛向きだから貴族のお嬢様の専属護衛というのは適任だな」

「護衛向きって?」

 俺がひょっこりと口を挟む。

「こらフォルト」

「いいって。俺は体術を使った剣技を得意にしててな。狭い室内でも戦えるんだよ」

「へえ、凄いね!」

「ありがとうな」

 ベーシウスさんがニカッと笑う。

「今度、教えてください」

「こら、フォルト! お前は」

「はっはっはっ、機会があったらな」

「まったく。にしても、村に寄ったなら尋ねてくれれば、昔馴染むかしなじみにナーザもよろこんだろうにな」

「それについては本当にすまんな、護衛任務中だったんでな。少し事情があって離れる訳にはいかなかったんだよ」

「……そうだな。仕方ないか」

 その後再び話始めた大人二人から離れて、俺は貴族の馬車の周りを見て回っていた。

「フォルト、貴族の馬車にむやみにさわるんじゃないぞ」

 それを目の端にとらえたオズベルトとおさんが注意してくる。

「は~い!」

 俺は素直に返事を返しておいた。

 そして、改めて貴族の馬車を見てみる。

 う~ん、ぬかるんだみぞから重たい馬車を出す方法か……。

 重たい……。

 あっ!

 そういえば。

 前に、女神様たちの地下神殿を見つけた時に、たおれていた巨大神像を空間収納に入れて元に戻したことがあったっけ。

 あの時は空間収納の中身を全部出してからじゃないとギリギリ入らなかったけど、これくらいの大きさなら今でも、何とかなるかも。

 ただ、生物が入っていたりすると、空間収納には入れることが出来ないけど、今は中に人はいないし、引っ張っていた馬も繋がれていない。

 今までに、いろいろ試してみてわかったことは、中にある程度の大きさの生物がいて、密閉された状態のものは収納できないという事だ。

 逆に言えば袋みたいに空いているものの中であれば、袋だけを空間収納に入れることも出来るという事になる。

 まだ、曖昧あいまいなところも多いけど、多分自分のレベルが低いという事なのだと思っている。

 これはチャンスなのでは?

 ただ、一つ問題があるとすれば、Bランク冒険者のオズベルト父さんと熟練の騎士のベーシウスさんの目をどうやって逸らすかという事だ。

二人とも話しながらも周囲には警戒しているのは充分わかるし、さて、どうやって少しの間気をらそうかな?

 う~ん。

 えっと、前世で、田舎いなかじいちゃんの家で、よく見ていた時代劇とかで良くあった手は……。

 そうだ!

 俺は二人の視界からそっと離れ、二人から見て、誰も載っていない馬車のかくれるような位置に異動する。

 で、えーっと、手順はっと。


 空間収納に一時的に馬車を格納して少しだけ位置をずらして再配置。


 さてと、後は父さんと父さんの知り合いのベーシウスさんの注意を少しの間逸らすだけだな。

 俺は空間収納から、適当な大きさの石ころをそっと取り出して、二人の見えない所から馬車を大きく超えるような角度に向かって野球の遠投の要領で森の中に落ちた時出来るだけ大きな音が出る様に茂みに向かって投げた。


 ガサササッ!


 なかなかいい感じの音が出たと思う。

「「んっ?」」

 投げてすぐ、馬車の横から二人の様子を伺うと二人が揃って馬車とは反対の森の方を見ている。

「何だ今の音は?」

「俺が見てこよう」

「頼むオズベルト。俺はこの辺りを警戒する」 

 予想通り、二人ともいい反応をしているおかげで、ちゃんと石が草むらに飛び込んでいった音に気付いてくれた。

 よしっ!

 オズベルト父さんとベーシウスさんは馬車のある方とは反対の方を警戒し、こちらに背を向けている。

 さてと。

 それでもベーシウスさんは残っているので、気配とかは探っているかもしれないけど、一瞬なら。

  時間とタイミングの勝負!

 俺は右手を馬車にかざし、空間収納の中に入れ、すぐさま少し前にずらした位置、溝にギリギリはまっていない位置に再出現させた。

 ……。

(よし! 成功!)

 俺はそっと息をく。


 ガサガサガサッ


 「!!!」

 一息ついた次の瞬間。

 突然、俺の背後の森から音が聞こえてきた。

(見られた!?)

 全身が固まる。

 森を抜け、現れたのは。

 御者ぎょしゃのロイドさんと馬だった。

 それに反応してかベーシウスさんもこちらを向いている。

 俺は一気に全身に冷や汗をかくのを自覚していた。

「ロイド、キサナティアお嬢様たちはまだ沢か?」

「はい。水浴をなさりたいようでしたので」

 どうやら、馬の身支度を終え、御者ぎょしゃのロイドさんが、馬を連れて一足先に戻ってきたようだ。

「そうか」

 よかった。

 どちらにも気づかれていないみたいだ。

 そっと胸をでおろす。

「こっちには何もなさそうだ。小動物でも通ったのだろう」

 それからオズベルト父さんもすぐに戻ってきた。


「きゃああああ!!」


「「!!!」」

 甲高かんだかい大人の女性のさけび声がひびく。

 まず騎士のエニムさんじゃないだろうから、おそらくはメイドのクレールさんだろう。

「ロイドはここに残って馬車を見ていてくれ!」

「分かりました!」

「フォルトも……」

 こういう状況はデミスとアグレインの時で経験済みだ。

 俺はおそらくオズベルト父さんが御者ぎょしゃのロイドさんと一緒に残っているようにと言う前に森に向かって走り出していた。

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