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47 俺が馬車での旅の途中、暇を持て余したんだが

 馬車での旅も3日目。

 今日の天気はくもり

 心なしか道の左右に広がる森は緑色がいように見えるし、空気も湿しめって重たく感じる。

 前方に広がる道はどこまでも続いているように先には森以外何もなく、まだまだ目的地には遠そうだ。

 のんびりとした旅路。

 というか、馬車に乗って景色を見ているだけだと、両側に木々が広がっているだけで殆ど代わり映えのしないため、ひまを持て余し始めてきていて、身体を動かすことが好きな俺としてはそろそろきてきた。

 それにしても、思ったよりも馬車がれる。

 前世みたいに、ゴム製の空気タイヤとかサスペンションなんてものが発明されていないみたいだから、振動が直接伝わってくるのが原因なんだけど。

 正直、ずっとこれに載っているとお尻が痛くなってくる。

 2週間に一度くらい来る行商人のおじさんは毎日こういうのに乗って座り続けでいるんだから、大変だろうなと思う。

(そうだ!)

 俺は荷台に立ち上がると、片足立ちでバランスを取って目を閉じて集中を始めた。

 目を開けている時よりも足の裏からガタガタとした感覚がより伝わってくる。

 バランスを取る訓練には結構いい感じだ。

 安定したところで目を開ける。

「何やっているのフォルトちゃん?」

 見ると、隣りに座っていたリノアが俺の行動を見上げつつたずねてきた。

「平衡感覚と集中力の鍛錬たんれんだよ。ひまだし」

「へえ、じゃあ、わたしもやってみる」

 片足立ちで木剣を振るのはリノアもボライゼ師匠の鍛錬たんれんに参加していたから知っているので、すぐに俺の言っていることを理解したらしく、リノアも隣に立って真似まねし出した。

 正直そこまで大きい荷馬車ではないし、荷物も積んでいるので荷台はそれ程広くはないけど、子供が二人なら十分問題ない。

 行きがけにパスレク村の人たちからオズベルト父さん達がいろいろ頼まれていたようなので、帰りは荷台に荷物がいっぱいになっているかもしれないけど。

 俺もお土産みやげを考えないといけないだろうか。

 そういえば、前世ヨーロッパのある国ではお土産みやげの風習がないところがあるって聞いたことがあったっけ。

 この世界ではどうだろうか?

 とりあえず、あると考えて。

 ナーザ母さん、アムルト兄さんにハワルト兄さん、デミスにアグレイン、シスカにククル……。

 意外と多いな。

 おこづかいとかないし。

 どうしようか?

 そんなことを考えながら、少しふらふらしながらも二人して荷台の上に立ってバランスを取っていると、前から声がかかる。

「こら、フォルト、それにリノアちゃんも。荷台で立ち上がってあそぶんじゃない。あぶないだろ」

 荷台に振り向いたオズベルト父さんに怒られた。

 そこまでスピードを出しているわけではないけれど、軽く走っている自転車くらいのスピードは出ていると思う。

 しかも、道は前世の舗装された道路と違い、土がむき出しになり、長年馬車が行き来して踏み固められたのであろうわだちあとが目立つ地面でガタガタになっている。

 所々、大きな石が出ているのも見えた。

 その荷台の上で立って、ささえもなくバランスをとっているのだから、確かにあぶないとはおもう。

 でも、こういうの、結構面白いんだよな。

「えっ、ひまだし、これ、ガタガタ揺れて、立っているとバランスとらないといけないから、結構面白いよ」

 体幹をやしなう訓練にもなるし。

 隣を見れば、リノアも俺と同じように、両手を広げ、軽く足を広げて器用に立っている。

 やはり、なんだか楽しそうだ。

 リノアも結構バランス感覚が良い

「いいから、二人とも危ないから大人しく座っていなさい」

「「は~い、ごめんなさ~い!」」

 二人して声をそろえてあやまる。

 怒られたので、仕方なく大人しく荷台の開いたところに座る。

 リノアも俺の隣に座りこんだ。

 それにしても、怒られたのにもかかわらずリノアはニコニコと楽しそうだな。

 俺の方を見たリノアが「怒られちゃったね」といった感じでチロッと舌を出す。

 俺もそれに肩をすくめてこたえた。

 その後、二人して笑顔になる。

「やれやれまったく。妙に静かにしていると思えば」

「子供は何でも遊びにしますからね」

 前に向き直り、あきれて溜め息を付いているオズベルト父さんの横でヒューク司祭が馬の手綱をにぎりながらほがらかに言う。

「まったく、まだ旅は始まったばかりだというのに、これでは先が思いやられる」

「ふっふっふっ、馬車での旅の難点の道の悪さも、子供たちにかかれば、バランスを取る遊びですか」

 おおっ、なんか、漫画雑誌の10週打ち切りのような言葉がオズベルト父さんから出た。

 ちょっと吹き出しそうになる。

「フォルトちゃん、楽しそうだね」

 俺が前世のことを思い出して心の中で笑いそうになっていると、隣りに座ったリノアが、俺の顔を見て気になったのか言う。

 今のはちょっと意味が違うけど、それをリノアに言っても分からないだろうな。

「リノアもだろ」

「うん!」

 なので、適当に話を合わせておく。

「子供には退屈でしょう。そんなことに二人を巻き込んでしまい申し訳ありません。オズベルトさんも」

 それから、ヒューク司祭が申し訳なさそうに言う。

「元はうちの子たちが原因ですし、あまり気にしすぎないでください」

「ありがとうございます。そう言っていただけると助かります」

 それからまた、馬車に揺られる時間がしばらく過ぎる。

「おや? 少し、雲行きがあやしくなってきましたね」

「これは、早めに雨をしのげる場所で野宿の準備を始めた方が良さそうだな」

「そうですね」

 言われて、遠くの空を見れば確かに、元々くもりだったけど、前方から黒雲が立ち込めてきていて雲行きがあやしくなってきていた。

 この分だと、夕方くらいには雨になりそうだ。

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[気になる点] >「【並行】感覚と集中力の鍛錬だよ。暇だし」 >【体感】を養う訓練にもなるし。  隣を見れば、リノアも俺と同じように、両手を広げ、軽く足を広げて器用に立っている。 どちらもバラン…
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