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40 俺がもっと勉強しなければと、心に誓ったのだが

 オズベルト父さんたちが、アストランの森から帰ってきた。

 結果から言うと、結局、今回は森に魔物はいなかったそうだ。

 オズベルト父さんたちの成果としてはイノシシが1匹とウサギが2匹。

 それはそれで、十分な収穫なんだけど。

 今回だけではなく、見回りを強化してから今日まで、他の見回りに参加した人たちからも魔物を見たという報告は出ていない。

 それどころか、狩りや採取で森に入った他のパスレク村の人たちからも魔物を見たという話は聞くことはなかった。

 正直に言うと、急に魔物がたくさん出るようにならなくて良かったという反面、せっかく、俺の空間収納の『福袋』の能力が生かすことができない状況を残念に思う。

 あの時の直後はちょっとした冒険を味わえたという興奮こうふんから気分が高揚こうようしていて、これからは魔物が出てくると喜んだりもしたが、でも冷静になり、やっぱり、村が安全なのは大事なことだと素直に思えるので今はこの思いを我慢する。

 それにアストランの森にも魔物がいることは確認できたのだから、あせることはない。

 だから今はもし将来、冒険者になった時、魔物をちゃんと倒せるようにもっときたえておこう。

 それに知識も大切だから、もっと学んでおかないと。

 そう静かに誓った。

 この前みたいなことは御免だから。

 そんな中、俺たちは普段通り、家の手伝いをしたり、教会に勉強しに行ったりしていた。

 今日も教会の中に皆がそろっている。

 まだヒューク先生とミリアーナ先生が来る前。

 俺とデミスとアグレインで立ち話をしていた。

「フォルト、ずりいよな」

「そうそう、去年、俺たちのときは森の奥に入るの止めたくせに」

「悪かったよ。けど、ヒューク司祭が気になって後を追いかけただけで、別にイノシシを退治しにいったわけじゃないからな」

「それで、魔物を退治したのか?」

「無茶言うなよ。そんなの簡単にできるわけないだろが」

「なんだよフォルト、せっかく剣を習っているんだから、こうバシッと」

「そうそう、こう」

 二人して剣を振ったり、蹴りを繰り出す仕草をする。

「相手は大人の冒険者が何人かいないとたおせないような6本腕の熊のアシュランベアや群れでおそってきた巨大なアリの形をしたボムビックアントだぞ」

 俺がデミスやアグレインに反論するとデミスもアグレインも急に真剣そうな顔つきになった。

「そうか」

「そうだよな」

 デミスもアグレインも子供らしく勇ましい発言はしたが、一年前のアルマジラットの件を思い出してか、冷静に納得していた。

 ボライゼ師匠から剣を習い始めてデミスもアグレインもそれなりに上達してきたが、それがゆえに自分たちの力量がある程度判断できるようになったみたいで、以前の行動が如何いかに無謀なことだったか理解しているようだ。

 加えて、この教会でヒューク司祭から、魔物についての知識も教えてもらっているし。

 もっと子供っぽく、前みたいに虚勢きょせいを張ってくるかと思ってたけど、去年に比べて随分と精神的に成長している気がする。

 この世界の子供は大体10歳でほとんどの子が進路が決まると言っていい。

 ごく一部の子ども、例えば貴族や商売をしている子、よっぽどの才がある子なんかが学校に通うことができるらしいが、町ならともかく村にいる子たちは早くから親の手伝いという形で家の仕事を継ぐことになる。

 うちはアムルト兄さんが10歳になったんだけど、狩りを生業なりわいとしているオズベルト父さんの後を継ぐのではなく、作物を育てることをしたいらしく、近所のヘンダーソンさんのところの手伝いをしている。

 もともとアムルト兄さんは動物の解体とかも苦手だったし、オズベルト父さんもナーザ母さんも、無理に狩りの仕事を継がせるつもりはなかったようで、アムルト兄さんが畑仕事に着くことはすんなりと決まった。

「はい、皆さん、始めますよ!」

「みんな、席についてね」

 程なくして、いつも通りヒューク司祭とミリアーナさんが教室代わりの礼拝室に入ってくる。

 おっと、ヒューク先生とミリアーナ先生だった。

「「は~い!」」

 いつものように皆が席に座り、ヒューク先生が一番前の教壇みたいな台に、ミリアーナ先生が一番後ろに立つ。

 俺が6才を迎え、リノアも誕生日を迎えてから一緒にヒューク先生の元で読み書きなどの勉強を見てもらうことになってから数か月。

 一応、転生前にあの薄紫髪ツインテール少女天使に。

   ~   ~   ~

「あとご一緒に言語理解も如何ですか?」

「……何かトレーに乗って出て来そうだな」

   ~   ~   ~

 と言う様な感じでフライドポテト感覚で付けて貰っているから、一通りの読み書きは既に出来たりする。

 けど、この世界の事を知る良い機会なので、俺は積極的にヒューク先生の話に耳を傾けていた。

 教えてくれる場所は教会の礼拝れいはい室で、一番前の中心に丁度教壇のように台があり、真ん中を通路に左右に長椅子が十列並んでいる。

 6歳から9歳までと多少幅のある子どもたちが30人くらい集まってヒューク先生の話を聞く。

 礼拝室の長椅子は机が付いているわけではないから、基本的にはヒューク司祭が壇の机に開いて見せてくれる本の絵を見ながら説明を聞いて覚えていく形式になる。

 あとは学習の進度によって別れたりもするかな。

 ここ最近は徐々に絵を見て聞いているだけの授業から、文字を見て覚えるものへと変わってきている。

 最初は全然分からないフリをしなければならないのがちょっと面倒臭いかな。

 やっぱり不自然だといろいろあやしまれることになりそうだし。

「ヘヘン、フォルト、俺が読み書き教えてやるぜ!」

「なら、俺は20までの数え方だ!」

「いいって自分でやるから

「遠慮すんなって」

「そうだよ。俺たち一歳年上なんだからな」

 さっきの精神的に成長している云々(うんぬん)の話は前言撤回(てっかい)だ。

 二人とも何を張り合っているんだか……。

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