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白銀の奴隷  作者: エセル
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君を忘れない3


「ひどい目にあった。」


俺をひどい目に合わせたシオンは隣で静かに寝ている。

彼女の俺に対する愛情はハッキリ言って異常だろう。

シオンは俺が忘れていてもと言っていた。

だが、俺には彼女との記憶は一切思い出せない。

シオンの寝顔を盗み見る、彼女の顔は俺の婚約者であったダリアとよく似ている。

瓜二つと言ってもいいだろう。

ダリアと過ごしていたと思っていたことが実はシオンだったのか?

いや、ありえないだろう。シオンは獣人だ。

特徴的な耳と尻尾、そして何よりも髪色が違う。

ダリアはこの国ではありふれた金色の髪をしている。

シオンは銀に近い薄紫、これだけ特徴的なのは珍しい。

……銀に近い薄紫?


―――もう逢えないかもしれない。


そう言っていたのは誰だ?


―――絶対にまた会える。再開したら―――。


自分の言葉なのに最後が思い出せない。

思い出せ。約束したのは何だ?

思い出せ。約束したのは誰とだ?


「グレン?」


隣から俺を労るような声が聞こえる。

あの日と同じ声、優しく語りかけてきたのは―――。


「それ以上は未だ思い出さないほうが良い。」


二人しかいないはずの寝室に突如割って入った凛とした声。

この声は覚えている。この人は俺の……。


「師匠?」

「正解。」


声がしたほうに顔を向けると、開け放たれた扉のすぐ近くに銀髪の狐の獣人が立っていた。

この人はユウヒ・シロガネ、俺の師匠で……嗚呼、何故忘れていたのか、彼はシオンの父親だ。


「お父様、乙女の部屋で無断で入るとはいい度胸ですね。」

「乙女?グレンに女にしてもらったのだろう?なら問題あるまい。」


その発言には問題あると思う。

シオンは顔を真赤にすると、手元にあった枕を師匠に思いっきり投げつけた。

師匠は飄々とした顔で枕を片手で受け止める。


「積もる話もあるだろう。着替えたらダイニングにおいで。朝食を取りながら話をするとしよう。」


枕を俺に投げ返し、何事もなかったかのように部屋から出ていく。


「お父様、どうやってこの家に入ったのだろうか。ここに住んでることも知らないはずなのに。」


どう考えても不法侵入です。師匠だからしょうがないけど。


服と下着は彼女のものを借りることにした。

胸のサイズまでほぼ一緒だったのは良かったことなのか悪いことなのか。

ちなみにシオンの胸は平たいと言っておこう。

服を着た俺達はダイニングに向かう。テーブルに用意された朝食が空腹感を刺激する。

そういえば師匠には料理も教えてもらったな。

それだけじゃない、剣術に魔術、狩りや野外での生活の仕方など様々なことを。

その時は疑問に思わなかったが、これらは王族が学ぶべき事じゃないのも多かった。


「マリアに頼まれていたからね、君が一人でも生きていけるようにと。」


師匠は人の心を読まないでほしい。しかし母上が師匠に頼んでいた?

王族であるなら王位継承を外れたとしても臣下に下るだけで、一人で生きていく術など要らないはずだ。

まるで今回のことを予知していたような―――。


「とにかく冷める前に朝食を食べよう。座って。」


俺の思考を断ち切るように師匠が発言する。

師匠の作った朝食は大変美味しかったです。


朝食を食べ終わった俺たちに師匠が珈琲を振る舞う。

紅茶と違って珈琲は入れる手間も値段も段違いだと言うのに、この人は本当に謎が多い。


「さて、どこから話をしようか。」

「お父様が何故ここにいるのか、ご説明を。」


シオンから怒ったような声が響く。

自分の父親が不法侵入して、剰え年頃の裸を見たからな。彼女が起こるのも無理はないだろう。


「レーメは先読みの異能を持っている。」

「お母様が?」

「あぁ、この地で魔王が復活する。それ自体はどうでもいいんだけどね。」


聖女の神託と一緒か。しかし、魔王が復活してもいいとは。


「そもそも、一口に魔王と言ってもいろんなモノがいる。世界を滅ぼすモノから、ただ単に力を持っただけのモノ。いいかい魔王が生まれるということは世界の均衡が聖に傾いているから生じるんだ。つまり……。」

「お父様それ長くなりますよね?」

「むっ、まぁいい。結論から言うならたとえ魔王が生まれたとしても、力を振るうことがなければ何も問題はないということだよ。」

「俺が次代の魔王になったとしてもですか?」


シオンが驚いて俺の方を向く。彼女は知らなかったのか。


「そんなグレンが魔王だなんて。」

「力があることは悪いことばかりじゃない、問題はそれを御しきれないことなんだ。」

「もし、力を扱いきれなければ?」

「それがレーメの先読みだね『シオンの大切な人が闇に飲まれるのを見ました。』レーメはそう言っていた。」


闇に飲まれるとはまた曖昧な。隣でゴクリと唾を飲む音が聞こえる。


「私はその未来を回避するためにここに来た。」

「また師匠と修業をするということですか?」


師匠はその問いに首を横に振って否定する。

立ち上がり俺の隣まで歩いてくると肩に手を置き、魔術を発動させる。


「どうやらアイテムの譲渡はうまくいったようだね。」


師匠から教えてもらった次元収納の魔術のインベントリを確認する。

かなり多くのアイテムが増えていた。


「それは私とレーメからの餞別だ、武器防具は私から衣類はレーメだね。それとオマケして多少の金銭と食料と魔術具を。」

「餞別……?」

「これから起こることに必要になるから。」


何が起こるというのだろうか、少し説明を省きすぎでは?


「これから君に試練が降りかかる。最初の試練の内容は……。嗚呼、これ以上は駄目か。」

「お父様?」

「すまないね、知りすぎれば未来はその分だけ不確定に動く。」


言わないのではなく言えないのか。

この先、どんな試練が待ち受けているのだろうか。


「最初の試練は未だ少し先だ、時が来れば何れ分かる。それまでは今の自分の力量を再確認すると良い。なにせ身体が変わってしまったからね。」


たしかにそれは一理ある。

男のときと比べて筋肉は衰えていないものの、手脚のリーチと身長がだいぶ縮んだからな。


「この街にも冒険者ギルドがある、そこで依頼をこなして過ごせばいい経験になるだろう。」

「分かりました。」

「うん、良い返事だ。そして最後に―――。」


師匠は肩に置いていた手を俺の頭に乗せると。


「今日からブレイズ・ソーシャと名乗ると良い。君の亡き母からの最後の餞別だ。」

「母上が?」

「あぁ、君の本当の名前だ。女になるのは予想してなかったから男の名前だけど。それでも彼女が一生懸命に考えた名前だ。」

「はい、大切にします。」

「ブレイズは高温の炎のこと。高温の炎は蒼色をしている君の瞳のようなね。ソーシャはマリアの前世での姓だ。」


母上の前世の記憶があるのは幼い頃、子守唄のように聞かせてもらった。

こことは違う世界の記憶、大切な人以外には誰にも聞かせたことがないと言っていた。


「それじゃ私はもう行くよ。」

「お父様は側に居てくれないのですか?」


シオンが悲しそうな声で尋ねる。

師匠がシオンの頭に手を乗せて、幼子をあやすように撫でる。


「私が近くにいることでも未来は不確定に動く。大丈夫、私が力を貸さなくても君たちは立派に育ったのだから。」


君たちの未来は明るいと師匠はそう残して扉の向こうへ消えていった。


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