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第五夜 

2017.11.7 大幅改稿

 城へと戻る途中、百姫は馬上で左京ノ進の背中に掴まりながら、昨夜起きた出来事を話して聞かせた。自分が天狐の血を引いていること、大蛇に呪いをかけられたこと、破邪の矢のこと。

 話している百姫自身も本当に起きたことなのか疑うほど奇妙な話だったが、左京ノ進は黙って耳を傾けた。

「私がついていながら、姫さまをお助けできなかった。従者失格です」

「いや、こうやってまた城に戻れるだけでも有難い。またお父様とも会える」


「しかし奇妙な話です。他の者に話してもきっと狐に化かされたのだと笑うことでしょう」

「やはり誰も信じてくれぬか……」


 百姫が元気なくうなだれるのを感じた左京ノ進は少し間をおいて答えた。


「例えもし万人が姫様を疑おうとも、私だけは最後まで百姫様を信じます」


 その言葉を聞いて百姫は思わず目頭が熱くなった。悟られぬよう袖でそっと涙を拭うと左京ノ進に尋ねた。


「父上は信じてくださるだろうか」

「大殿ならきっと信じてくださるはずです。そして大蛇討伐の命を出されるでしょう。そのときは私も姫様の盾となり御身を必ずお守りいたします」

「約束だぞ」

「はい」


その時、百姫の腹の虫が鳴った。左京ノ進はおもわず笑ってしまった。


「何がおかしい? 」

「いやはや、やはり百姫様はたいしたお方です」


左京ノ進は堪えていたものを一気に吐き出すように大声で笑った。


「わ、笑うな!左京」


百姫は顔を真っ赤にして怒鳴った。


「お前も同じ事を考えておったで有ろう。先ほどから腹の虫が鳴いておったぞ」

「はは、聞こえておりましたか。では急いで城に帰りましょう。嫁入り前のお姫様がいつまでもそのようなお姿で外に居ては大殿に怒られてしまいます」


 百姫は改めて自分の姿を確認した。確かに着物は大蛇の攻撃を受けて至る所が破れていた。百姫はあらわになった白い肌をそそくさと隠すと顔を赤らめた。


「は、早く城へ帰ろうぞ。父上も心配されているだろうしな」

「では飛ばしますからしっかり掴まっていてください」


 左京の進は馬の横腹を強く蹴ると、いっそう速く馬を走らせた。



 日が高くなり昼時を迎える頃、二人はお城に到着した。左京ノ進は馬上から二人の門番に呼びかけた。


「姫様のお戻りである。門を開けてもらえぬか」


 両脇にいた門番は顔を合わせ小さく頷いたが、次の瞬間、槍の穂先を左京ノ進の方へと突き出した。


「何をする。無礼な!こちらは百姫様に在らせらせるぞ」


 しかし門番たちは表情一つ変えずに言った。


「姫様の名を騙るとは不届きな奴だ!」


 その様子を見ていた百姫は馬から降りて門番たちに訴えた。門番たちは一瞬百姫に目をやったが、槍を構えたまま収めようとする気配はない。


「私が百姫じゃ!お前たちは私の顔を忘れたのか?」

「そのようなボロを着た姫が何処にいる。何者かに連れ去られていた姫様は、左京ノ進殿に救出され先ほど帰城された」

「そんな馬鹿な!」


 左京ノ進は目を大きく見開くと大声をあげた。


「馬鹿はお前たちだ」


突然城内から聞き覚えのある声がした。門番の背後から現れたのは、なんと左京ノ進だった。自分の姿を目の前にして、左京ノ進は思わず狼狽えた。


「こやつらは百姫と私に成り替わり、城内に忍び込もうとする妖怪変化に間違いない。ひっ捕らえて大殿に報告せよ」

「な、何を言う!そいつこそが妖怪変化だ!お前達もそのような戯言に惑わされるな! 」


 二人の左京ノ進が言い争う姿を目にして、百姫はただその場に立ち尽くすしかなかった。


「仕方ない。ではこの刃でその偽者を叩き斬ってやる。そうすればどちらが本物かすぐに判るだろう」


 左京ノ進が太刀に手をかけたのを目にした百姫は慌てて制した。


「止めなさい左京!ここは一旦退きましょう!」

「こいつらは我らに成りすました妖なのです!何としてでも正体を暴かねば! 」

「悔しいが今はとにかくここを離れるのだ」

 

 そう言うと姫は馬に飛び乗った。左京ノ進は手綱を握りしめたまましばらく睨み付けていたが、門番が再び穂先をこちらに向けたのでその場を立ち去った。


 背後を警戒しながら馬を飛ばしたが、追手が来る様子はなかった。城が見えなくなり確認するとようやく左京ノ進は手綱を緩めた。馬を降りて百姫も降りたところで左京ノ進は尋ねた。


「先ほどはどうして止めたのですか。もう少しであいつの正体を暴けたかもしれないのに」

「もう血は見たくはないのだ。城内の者の血も、もちろん左京ノ進の血も……」


 百姫は少し震えていた。それを見た左京ノ進は一度深く呼吸をして自分を落ち着かせた。


「わかりました……ならば別の方法を考えましょう。しかし自ら城に乗り込むとは、いったい奴らは何を企んでいるのでしょうか」


 左京ノ進はしばらく腕を組んで考えていたが、何か思いついた様子で大きく目を見開いた。


「どうした左京。何か思いついたのか」

「私に成りすましていたあの男の行動……おかしいと思いませんか」


 百姫は首をかしげた。


「そうか? 私にはわからなかったが」

「もし大蛇がまだ姫様のお命に執着しているのなら、我々を追って来たはずですよね」

「確かにそうだな。でも追って来ることもなく簡単に諦めた……」

「おそらく先ほどは姫さまのお命を狙うよりも自分たちの正体を暴かれることを恐れたのでしょう」

「私の命よりも奪いたいもの……まさか」


 静かに頷いた左京ノ進を見て百姫は立ち上がった。


「すぐに城に戻って、この事を父上にお伝えしなければ! 」

「姫様!いけません! 」

「なぜじゃ、奴らの狙いがこの国とわかった今、やることは一つしかなかろう! 」

「奴らの狙いがこの国だとしても、お命が狙われていることに変わりはありません!今行っても奴らの罠に嵌められるだけです! 」


 百姫はやり場のない怒りを抑えきれず、その場にうずくまった。


「なら、どうすれば良いのだ! このまま指をくわえて見過ごせと言うのか? 」


 しばらくの沈黙の後、左京ノ進が口を開いた。


「残念ですがすぐに城に戻ることは難しいでしょう。とりあえずはどこかに身を寄せ、何か案を練らないと」

「身を寄せるところ?何か心当たりがあるのか?」

「町外れに古い寺があります。そこの住職ならきっと力になってくれるでしょう」

「それは以前、お前が親代わりに育ててくれたと言っていた方か? 」

「はい。孤児だった私を我が子のように育ててくれた人です。ちょっと変わり者ですが」


 百姫は嬉しそうに語る左京ノ進を見て、その人物に早く会いたくなった。


「お主がそう言うなら間違いなさそうだな。ではそこへ参ろう」

「はい! 急いで参りましょう」


 左京ノ進は嬉しそうに頷くと、古寺へと向けて馬を飛ばした。

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