第十二戒『救いの手』
「くそっ…ッ!!」
散らかった無数のポキポキを蹴りつける。ついには壁にひびをいれてしまった。
―――どうしちまったんだあたしは…!
なんで…青梅和なんかに……
人にはされたくないこととかあるんだよ…!
こんなに動揺させられるのはいつぶりだろうか。
恐らくあの日は逆に冷静にというか、精神が死んだようなもんだった。
…それとこれとは全く違う感じだな。 あれは失った感覚。今のは手に入りそうな目標を必死に拒む感覚。これが案外つらいってわけだ…
並べていいものじゃない。今のがよっぽど下らねえ。下らなすぎるから珍しく未経験なんだ。
…なんだろう、さっきから思考が巡らない。
違う…巡らない訳じゃないがこれはきっとあたしがわざと…
――…って噂をすれば青梅和が!!
校長室から帰ってきてまだ間もないだろう…疲れている。
タイミングが悪い。もう少し後なら正面から向き合わずに済んだのだが。
あたしの読心術が完全に機能していない今、正しい読みとは判断しづらいが…
なんかいつにも増して困った顔してる気がする。いつもこんな顔だから違和感は無い。
「………」
「…何?」
――……うっ
観察しすぎたのか怪しまれてしまった。
目を点にしてクエスチョンマークを浮かべる青梅和…だったが今はあたしの方がよっぽど変に映るんじゃないか?
だってな…
「…なんか郁…震えてない…?」
…いきなり目の前で止まって観察されて、震えだす…これがあたしのやらかしたことだ。理解不能だよな。
――…どうしよう、こういう時って…どうすれば……
――こんなときに頭が真っ白に………
…本当に真っ白になってた。なんの文字も浮かばない。頭の中が全部白紙になった。
こうなったとき人間はどうなるのか?
選択肢すら浮かばないから、選ばないことを選ぶ。つまり大半の人はこうなる。
逃げる。
「えっ…ちょ!?何で逃げるの!!?」
*****
「はぁ…」
昨日は結局何も話せなかったし…
逃げちまったし…
逃げるのは楽だけど、後がいろいろ辛くなる…。謝らなきゃいけねーのか、前のこと説明しなきゃいけねーのかとかむしろ悩むことが増えるわけだからな。
とにかく今は佐倉水玉を捕らえる…それなら青梅和関係なくやれるだろ?
「おー…とうとう来たね!!」
「待ち構えるとは…どんだけ楽しみにしてんだよ 今日こそてめぇを潰す…っ」
「えーっ?この前やられそうになってたじゃーん!」
…それもそうだが、まあいい線まで行ってたのは確か。気持ちが落ち着いた今なら勝てる可能性だって高い。
あの時はあと一歩のところだったが弾の威力で負けただろう――
「…ん?その盾どうしたの?なんで血がついちゃってるの?」
「…!!!」
この血の痕は恐らく右手…
くそっ…
確実だ……
「…場所が悪い変えよ 「えーーーいっ!」 えっ…ちょ…待て…ええぇえぇぇええ!!?」
「あははははーー!」
「くっ…おい後ろくらい見とけよ!!ぶつかるぞ!?」
…ん?
今のは注意しない方があたしには好都合だったはずなのに…あたしがわざわざ注意したってか!?
このままほかっておけば水玉は勝手に転んだだろうに…
…チッ、悪い癖だな。損なことしちまった。
「おーコンプリ!!イッエーーーイ!!…郁ちゃんどーしたの?」
「うっ…」
なんか何もピンとこない。ボーッとしていた訳では無かったが、なんというのだろうか…
「早くしないと水玉アメ&海外版アイテム売り切れちゃうぞ☆」
「いらねーよ…」
さっきから自分の気持ちがごちゃごちゃにされていて、本当の気持ちが見つけられないような…しっくりこないわけだ。
「そんなキミにはこうだー!!」
『ドドドドドン!』
銃声があがる。
…また先手を打たれた…!!畜生全然気持ち落ち着いてねえじゃねえか!!?また元通りかよ…
「ハアァアアァァッ!!!!!!」
「ヤアァアアァァッ☆☆☆☆☆☆☆」
ああ…所詮あたしはこうなんだ。
一度暴走しちまえば…――
「…あぁもう!!全部全部全部全部!全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部…消えちまえ!!!!!!」
「わぁぁっ!」
「…行けるッ!!」
もう止まることはできない。
「うわぁお…!!?…え?」
『キィィィィン…』
「もうやめなよ、水玉、郁」
そんなあたしを止めてくれる人がいない限り。
「…お…う……め……」
こんな私に救いの手を差し伸べてくれるなんて人が、いない限り。
「青梅………和……っ」
私にとって救いの手でも、彼女にとっては空気を吸うくらいの、だからこの食い違いが、私を狂わせた。




