表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
境界に眠る光 ━はじまりの外の世界へ━  作者: くいたん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/156

第53話 ひとやすみ 【挿絵あり】

遺構の内側は、外気よりもわずかにあたたかい。


風も角が取れたようにやさしく流れていて、張りつめていた空気がゆっくりほどけていく。





ザーラは肩の荷を下ろすようにして荷物を地面へ置く。


周囲を一度見渡してから、ここで休むと静かに告げる。





ルティはその言葉を聞いた途端、ぱっと顔を明るくして元気よく、こくんとうなずく。


先ほどまで抱えていた不安の影を、まるで置き去りにしたかのように消してしまう。



安全だと理解した瞬間に緊張がほどけ、抑えていた好奇心が一気に表へ出てくる。


いかにも子どもらしい反応だった。




彼女は軽い足取りで遺構の中をとことこと歩き回る。


壁に触れては小さく声を上げ、また別の場所へと興味を移していく。




ザーラはその様子を見ながら、思わず小さく息を吐き、張りつめていた心がわずかにゆるむのを感じていた。



一方でリオンは、少し距離を取った場所に腰を下ろす。



周囲の気配を探るように目を巡らせながらも、無意識にルティの動きを追っている。






◇◇◇◇◇◇◇◇


やがてザーラが簡単な食事の支度を整え、小さな鍋を地面に置くと、温かな匂いが静かに広がる。




それに気づいたルティの目がきらりと輝く。


待ちきれない様子で駆け寄ろうとするが、途中でふと足を止める。




何かを思い出したように自分の手を見つめる。


それから服の中をごそごそと探り、小さなスプーンを取り出す。




大切にしまっていたそれをぎゅっと握りしめる。


姿勢を正してその場に座る。


小さな声ながらもきちんと「いただきます」と口にする。



その丁寧な仕草に、ザーラの手が一瞬止まり、リオンもまた無言でその様子を見つめる。



ルティは一口ずつゆっくりと食べ進める。


こぼさないように気をつけながら、食べるという行為そのものを大事にしているようだった。




「おいしい」とぽつりとこぼれた言葉は、静かな空間にじんわりと染み込む。


聞く者の胸にも柔らかく残る。




ザーラはわずかに目を伏せ、リオンも何も言わないまま、ほんの少しだけ表情をゆるめる。




◇◇◇◇◇◇◇◇


食事を終えたルティは、満足と安心に包まれた。


自然とザーラの隣へ寄り、ぴたりと体を預ける。




やがてそのまま力を抜いて寄りかかり、「ねむい」と半分閉じた目でつぶやく。


ザーラは小さくため息をつきながらも、その頭をそっと撫でる。




ルティは気持ちよさそうに微かに笑い、そのままさらに体を寄せ、完全に身を任せていく。




少ししてから、今度はもう片方の手をゆっくりと伸ばし、眠たげな声でリオンにも隣に来るよう促す。




リオンは一瞬ためらいを見せるが、結局はゆっくりと近づき、距離を保ちながら腰を下ろす。


挿絵(By みてみん)




しかしルティはそれでは満足せず、もぞもぞと体を動かしてさらに近づき、彼の腕にぴたりと寄り添う。




その瞬間、リオンの体はわずかに固まるが、振り払うことはせず、そのまま静かに受け入れる。




ほどなくしてルティは安心しきった様子で眠りに落ち、穏やかな寝息を立て始める。




腕に伝わるぬくもりと重みを感じながら、リオンはほんのわずかに力を抜く。






◇◇◇◇◇◇◇◇



やがて遺構の内側にも夜の気配が満ち、外界とは切り離されたような静寂が訪れる。



壁に刻まれた光だけがやさしく揺れている。




ルティはザーラの肩に寄り添ったまま深く眠り込む。


その手は無意識のうちにリオンの服をつかんで離さない。




ザーラはその様子を見て小さく「信じているのね」とつぶやく。


リオンは答えないまま、静かに視線を落とす。



そのとき、遺構の光がほんのわずかに揺らぎ、壁の模様がゆっくりと流れるように変化し始める。




異変に気づいたリオンの目が細くなり、「来るな」と低く漏らすが、その意味を問う間もなく、ルティの体がびくりと震える。



彼女は目を覚まさないまま苦しげにうなされ、「いや……こわい……」と小さくつぶやく。



ザーラはすぐに彼女を強く抱き寄せ、必死に落ち着かせようとするが、空気は次第に歪みを帯びていく。



リオンはその異変を見据えながら、「夢じゃない」と断言し、さらに低い声で「これは開きかけている」と告げる。



ルティの周囲に集まる光は次第に渦を巻く。


遺構そのものが呼応するように輝きを増していく。




それが彼女を守ろうとしているのか、それともどこかへ導こうとしているのか。


——その答えは、まだ誰にもわからなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ