最終話 おかえり
最終章 エピローグ──
† † †
サーナだよ。
あれからもう三年。
聖オルビア帝国の戦争も、ヴィシアム連合王国の内乱も一応の終息を迎えて、世界は平和を取り戻したように見える。もちろん裏では、帝国と連合王国が火花を散らしてるけど、間に挟まれたアクィターナ公国が、うまく緩衝材になってるみたい。
ビバ! パクス=アクィターニア!
あたしはというと、相変わらずっ! 商隊のみんなで、西へ東へ大忙し! 仲間と音楽と甘い物! これさえあれば生きていけるってもんさ!
なんと大陸間貿易も許可されて、船も手に入れたんだよ! まぁ、散々お国のために働いたからねぇ……
† † †
──そうそう、なんとナギが騎士修道会を辞めて、うちの商隊に入ったんだー
驚きだよね!? あたしも最初は、「まさか内偵!?」とか思ったんだけど!
うん、なぜ睨む、ナギ。
まぁ、色々あったからね……ナギも想うところがあったんだろうね。 今では頼りになる相棒だよっ!
こらアーニャ! ヤキモチやかない!
† † †
あの男── ダインザール。
あのあと一命を取り留めて、捕虜になったらしい。あいつの家族が、家が傾くくらいの莫大な身代金を払って、解放されたとか。
あんな奴でも、誰かにとっては大切な家族だったってことかな。
え? リディとグラハムは、どうしてるかって?
んっふっふー、みんな気になるよねー
ちょっと待ってて、今ちょうど会いにいくところだから──
† † †
フォン! フォン! フォン!
朝靄の中、教会の裏手に、風を切る音が響く。
フォン! フォン! フォン!
いつもと同じ時間。いつもと同じテンポで。
ここは南部小大陸。海を望む小高い丘にある、小さな教会。
フォン! フォン! フォン!
最後の一振りまで全く同じ。まるでそこに何者の意志も介在しないように。
「──相変わらず真面目だね。 もう騎士じゃないんでしょ?」
声をかけると、振り向いた彼の銀灰色の瞳がやわらかく揺れた。
「──サーナ。 来てくれて嬉しいよ」
「ん。 リディ、久しぶり」
ライデルはこの小さな教会で暮らしていた。
──そう、ルティが眠る、この教会で。
「まったく! 何か湿っぽいな!」
遅れてグラハムとナギが、街から荷物を抱えてやってくる。
グラハムは麓の街で暮らしていて、よくライデルの様子を見に来ているようだ。
† † †
南部小大陸では、三年目に死者を悼むミサを執り行う。
──そう、今日はルティが亡くなってから、ちょうど三年目の日。
皆で祈りを捧げ、静かに食卓を囲んだ。
でも、誰もルティの話をしようとしなかった。
見かねたあたしが、アーシャ=ヤームでの、“リディとルティのあまぁ~い逢瀬♪” を歌に乗せて暴露すると……!
慌てるリディ、ニヤけるグラハム、ため息のナギ。
……ちょっとだけ、あの頃が戻ってきた気がした。
でも、隣で微笑む彼女はいない。
† † †
昼下がり、鐘楼の上で海を眺める。
静かに並んで座るボクとサーナの間を、潮風が優しく通り過ぎた。
「こうしてると、思い出すよね」
「ん?」
「アーシャ=ヤームでの、リディとルティのイチャコラ」
「……ブフゥッ!」
予想外の返しに、思わず吹き出す。
「……サーナぁ」
「ねぇ、リディ」
「そろそろ、見つけてあげなよ」
「……え?」
「ルティのこと」
そういって振り返ったサーナの瞳が、真っ直ぐにボクを見る。
「……生きてるよ、ルティは」
沈黙──
「ルティは生きてる」
「だから、貴方はあの男を前にして、剣を収めたんでしょう?」
──銀灰色の瞳に映る景色が、みるみる変わっていく。
「……うん。そうだね」
「たしかに、生きてる」
「ふふっ、こんなところに隠れてたんだね、ルティ……」
「……輪廻、だね」
「うん……」
──素敵な、輪廻転生だよ。
† † †
やわらかな風が吹いた。
リィィン──
鈴の音が鳴り、ボクは確かに聴いたんだ──
そして、ボクは風に答えた。
ただいま。って
お読みいただき、ありがとうございました。良かったら☆マークで評価いただければと存じます。
本作の転生設定を簡潔にまとめると──
1. 旧人類(現在の私たち)は滅亡前に「知の図書館」を残す
2. 一千万年後、新たに生まれた種族(今回はエルフ)がその蔵書に触れる
3. その知識を基に、二十一世紀人の記憶を帯びた別人格が発現する
4. 別人格は覚醒後、見知らぬ世界と他人の記憶を前に、自身が前世の記憶を持つ転生者だと誤認する
これにより、異世界転生のテンプレと同じ状態となるというトリックでした。
少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。




