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此岸の大地~現実に実在しうる異世界転生~  作者: KVIN
最終章 グリンセイランド編
39/40

第39話 真実の横顔

 † † †


「ボクの中にね、もうひとり、誰かいる気がするの」


 そう言ったら、姉さんは少し困ったような顔をして──

 でも嬉しそうに笑ってこう言ったんだ。


「ふふっ……それ、もしかして“友達”かもね? リディが心の中に作った、大切な子」


 ──母を亡くして、継母との折り合いも悪かった頃。


 幼い“ライデル”は、しばしば“ボク”と話をしていたらしい。その声は微かで、けれどたしかに、どこかにずっとあったんだ。


「お姉ちゃんの秘密の場所を、教えてあげるね」


 静かにささやく森の中を進むと、ボクはふと、そんな声を思い出す。やさしくて、穏やかな、そんな声──


 ビュウッと、強い風が吹き、ボクの背中を押した。


「ふふっ、姉さん、焦らないで。そんなに強く押したら転んじゃうよ」


 † † †


 やがて、こけに覆われ、静かに水をたたえた洞窟が姿を現した。


「ここも、すっかり水に沈んじゃったね……」


 あの森の奥の洞窟。姉さんだけが知っていた『秘密の図書館』。地震のあとに現れたそれは、一千万年前の超古代文明の痕跡だった。


「この石板、不思議な感じでしょ? チッカケイソっていうんだって。数千万年経っても形を保つみたい。そこに人工言語が刻まれてるの。一週間もあれば覚えられるんだよ」


 笑いながら話していた、姉さんの顔を思い出す。


「ここには、いろんな文章があったんだぁ。古代の記録、当時の文化、そして物語も。語り継がれるような名作から、当時流行していた小説まで、色々な物語が残されていたの。推理小説、学校での青春…… “ライデル”はね、その中でも“異世界転生”の物語が好きだったの。『もしこの世界が全部夢なら』って」


「なぜ超古代文明は滅びたか知ってる?」


 ふいに、姉さんの声が風のように問いかけてくる。


「……子どもが、生めなくなったから、でしょ?」


「うん。そういう感染症かんせんしょうだったの。すごく静かに、でも確実に、彼らの未来を奪った。それを悟った彼らは、自分たちのすべてを遠い未来に残そうとしたの。……この図書館に、ね」


 彼らが託した記録。姉さんが何年も何年もかけて読み解いた断片。それを“ライデル”は夢中で読み漁った。辛い現実から目を背けるように、超古代文明の生活や文化を学び、物語の世界へ逃げ込んでいった。


 そして……あの日。


 魔王軍の侵攻。姉さんの死。“ライデル”の心は、砕けてしまった。“ライデル”の時間はそこで凍り付き。世界は彼を置き去りにした。


 そして──“ボク”が生まれた。


 物語のように、『二十一世紀の地球で生きていた記憶を持つ人格』である“ボク”。


 “ボク”が目を覚ましたとき、そこは見知らぬ世界だった。剣があり、お城があり、血と信仰と戦争に塗れた世界。住んでいた地球とは何もかもが違っていたんだ。


「うん。でもね、あなたは転生したんじゃない。『記録』を読んで、信じたの。それが“ボク”を創ったのよ」

「一千万年前の物語や記録。それがあなたが自分の記憶と信じていたもの」


 “ボク”が前世と思っていた『記憶』は、全部この図書館と、姉さんが遺してくれた『記録』から来ていたんだね。


「……そうね。あなたは物語の中に転生したんじゃない。あなたという人格が、この現実の世界に転生してきたの。一千万年前の物語の中から」


 ありがとう、セシリア……姉さん……


「どういたしまして。……でも、まだ終わりじゃないよ。ほんとうの“キミ”を取り戻して」


 彼女の声は、もう風の中に消えていた。



 † † †



 ──姉さん、ほんとうのボクって、なんだっけ?


 “ライデル”はもういないんだよ……?


 ボクのなりたいボク。それはたしかにあるんだ。


 でも、たいせつなものが足りないんだ。


 ボクのなりたいボク。その隣にはいつもたいせつな人がいるんだ……


 でも、もうその人もいなくなってしまった……


 会いたい


 会いたいよ


 ルティ


 君は、どこにいるの?


 風は、もう応えてはくれなかった。

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