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EDEN's Order(エデンズオーダー)  作者: 後出 書
ディアブロ・カルテル 篇
66/194

アイラ強化大作戦③

「この厨房での料理も今日で最後か。うっし、いっちょ気合い入れてやってやらぁ!」


 いつものバンダナを頭に巻いたデュランは冷蔵庫の中身を全て取り出して次々と料理を仕上げていく。


 辛みを効かせた四川料理。海産物をふんだんに使った上海料理。野菜や肉の滋味を活かしながらもあっさりとした味付けが特徴の広東料理。肉、野菜、魚介、小麦や米など保存していた全ての材料は数十種類の料理へと姿を変えた。その量はまるで満漢全席。これだけあればジェイルタウン全員とまではいかないが、少なくとも外に集まっている連中全員の腹は満たす事が出来る。


 給仕がいない為、シェフ自ら作った側から外のテーブルへと運び出す。連中の様子を伺うと、言いつけ通り危なくないよう細心の注意を払いながら下手なりにも一生懸命アイラに各々の戦闘技術を身振り手振り教えていた。


「どうだお前ら。上手くやれてるか?」


 全ての料理を外に運び出したデュランはアイラへ指導していた連中に話しかける。


「いやぁ、それがですね……」


 バング兄弟の兄、ライガンは申し訳なさそうに答えた。


「俺の戦い方はご覧の通り長身と怪力あってのものなんで、お嬢に教えられることが無いんですよ」


 兄に続いて弟のココも口を開く。


「俺も兄貴と同じでさぁ。両手鎌の扱いを教えようにも実際に鎌を持たせて怪我でもしちまったらと思うと上手く教えられねぇんですわ。俺らだけじゃねぇ。ジョージの噛みつきもまだ永久歯が生え揃ってねぇお嬢の歯じゃ後々の歯並びに影響が出るだろうし、ケリーの爆弾制作も特殊な知識が必要。ハンスに至っては人体改造で手に入れたガトリング砲の威力が強さの大半なもんで、子供用の護身にゃ向いてませんぜ。サマンサのピッキング技術ならまぁなんとかって感じでしょうが、いらんでしょ?」


「あぁ、いらねーな。つーか揃いも揃って成果無しってのはどういうこった。悪逆非道と名高いジェイルタウンの住人として恥ずかしくねーのかよ」


(一番強えーアンタが教えりゃいいだろ……)


 そんな不満を黙って押し殺す悪人どもの中で、一人だけ手を挙げて発言を求める者がいた。


「チ、チャンプ。一ついいかい?」


 役立たずの一人、ガトリングビーストのハンスである。牙戦の際に逆鱗に触れて死にかけて以来、すっかりデュランに萎縮してしまっている様子であった。


「なんだ、言ってみろ」


「うちのハニーみたいに鞭なら女の力でも鍛錬すりゃあモノになると思うんだが、どうだろうか」

 

 確かに一理ある、とデュランは思った。 


 ハンスの相棒であるベル・トリーヴァは女の身でありながらその鞭捌きでは右に出るものはいない名手である。鞭を自身の手足のように操り、繰り出す変幻自在かつ縦横無尽な技の数々は非常に厄介。加えて、鞭という武器の威力は一発打たれれば大の男ですら悶絶するほどの苦痛を与える。時間はかかるだろうが、女の力でも修練次第で充分に護身に役立つことは間違いない。


「冴えてるじゃねぇかハンス。よし、お前はメシを食っていいぞ」


「うぉぉぉ! やったぁぁぁ!」

 

「その前に早速ベルを連れてこい」


「いや、それが今ハニーは氷室に捕まったせいで投獄中でして……」


「……やっぱテメーもお預けだ」


「うぉぉぉ! そんなぁぁぁ!」


「その氷室刑事に頼んでみたらどうだい?」


 ふいに背後から聞こえた第三者の声。


 声の方へ振り返ると、一人だけテーブルに着いて出来たての料理に箸を伸ばしているイルミナがそこにいた。


「うーん、美味しい。どれもこれも絶品だ。これがしばらく食べれなくなると思うと、いやはや泣けてくるね」


「おい、なに勝手に食ってやがるイルミナ」


「おや? 報酬に見合う情報は伝えたはずだが?」


「氷室がどうたらって言ってやがったな。アイラにあの妙な剣術を学ばせろって言うのか?」


 咀嚼していたチンゲン菜の炒め物を飲み込むと箸をデュランに向けてイルミナは答える。


「半分ハズレで半分正解」


「相変わらずわけわかんねー物言いしやがって。食って構わねぇから最後までちゃんと教えやがれ」


「正しくは鬼節神明流じゃなく、剣道を教えてもらうのさ」


「ケンドー? なんだそりゃ」


「刀が廃れ、サムライがいなくなった日本で剣術が競技用に一般化された武道さ。刃物を使わず稽古を行なうから安全だし、何より心身鍛錬で青少年の健全な人間形成に用いられていることから護身を兼ねた習い事としては合格ラインだと思うよ。それに氷室刑事は普通の剣道も五段を持ってるみたいだしダメ元で頼んでみたらいいんじゃないかな。まぁ、彼の性格を見ると人間形成にはあまり期待は出来そうもないが、アイラは元々良い子だし問題ないだろう」


 極東の島国にそんな文化があったとは初耳だった。確かに自分と互角に渡り合える氷室の剣術ならばこれ以上ない護身術になる。しかもなにより青少年向きであるならば、強さの取っ掛かりとしてもハードルは低い。まさにデュランが求めていた答えの模範解答である。


「とりあえず難しい考え事は後にして、せっかくの料理だ。あったかい内に食べないか? 僕一人じゃこれだけの量は食べきれないよ」


「しゃーねぇーな。イルミナに感謝しろよ。お前ら全員食っていいぞ。その代わり、引越しの時はテメーら全員手伝えよ。せめて荷物運びくらいは出来るだろ」


 こうしてデュランは、アイラ強化への大きな手掛かりと引越し手伝い人工の両方を確保したのだった。

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