緊急会議①
北ヨーロッパに位置するノルウェー王国。
首都オスロに巨大な要塞の如き建物がある。
予備知識の無い観光客らはそこが邪教徒狩りを行なう過激な宗教団体の本部だと思わない。どのガイドブックにもその記載が無いからだ。興味本位で中に入ろうとしたところを門番として立っている二名の屈強な騎士たちに阻まれて、初めて軍事施設と同格の場所だと知ることになる。
城壁さながらの高い塀に囲まれた敷地中はアスガルド聖教関係者以外の立ち入りを固く禁じている。それが各国の首脳や王族であっても然り。
塀の中は他国の軍事基地と同じく治外法権となっており、不審な輩は斬り捨てても良いと定められている。観光客ならともかく、地元の人間はまず近寄らない。アスガルド聖騎士二人が立つ入り口の門は〝獅子の口〟と呼ばれ、恐れられているほどだ。
その獅子の口へ歩み寄る者が一人。大きなキャリーケースをガラガラと引きながら、大量の紙袋を抱えているブロンドの長い髪を靡かせた私服の女性。例の如く観光スポットと勘違いしたどこぞの観光客かと思って見ていた周りの住民たちはどうせ門前払いを喰らうだろうと思っていた。
「そこの女、ちょっと待て」
「ここから先は関係者以外立ち入り禁止だ」
案の定、門番二人に通行を阻まれている女性。必死で何かを説明しているようだが、二人は頑として首を横に振るばかり。
困り果てていた女性は何かをひらめいたらしく、キャリーケースを開けて荷物を漁っている。その様子を見た門番の騎士たちは咄嗟に剣の柄に手を添えた。何やら危険物を取り出そうとしているのだと思い込んだ様だ。その様子を遠巻きに見ていた市民にも一気に緊張が走る。
「あ! あったあった! これなら信じて貰えるでしょう」
女性はそう言うと、純白の修道服を模した制服を取り出し門番二人に見せた。それは彼らが着ている物とほぼ同じデザインであったが、一つだけ違っている箇所がある。右肩に施された勲章。それはこの施設のシンボルであり、彼らの右肩には無い。この宗教団体の中でも権威と力を持つものにのみ与えられる称号である。
それを見た二人の門番の表情が一気に青ざめていく。
「こっ、これは大変失礼致しました!」
「どうぞお通りください!」
半ば怯える様に道を開け、開門した二名の騎士。このどこにでも居そうな普通の女性はここの関係者で、しかも彼らより格上の存在であったことは側から見てもわかる。
開かれた扉の先へすぐには進まず、女性は紙袋から長い布状の何かを取り出し、騎士の一人に近づく。怯える騎士の首にその布をぐるりと巻くと辺りに戦慄が走った。
(首を絞める気だ!)
しかし、そんな周りの予想とは裏腹に女性は騎士の首に巻いた布をぐるりと一周させただけでもう一つをもう一人の騎士の首へと巻いてあげた。
「こっちはちょっと冷えますからね。良かったらそのマフラー使ってください。フランスのお土産です! それでは、お勤めご苦労様です!」
女性はそう言うと、明るく手を振りながら敷地内へと入っていった。それを見送り門を閉めた騎士二人は顔を向け合いながら小声で会話する。
「髪を下ろしていたから気づかなかったけどあの人あれだぜ、レオンクロスの末席。アシュリーさんだ」
「いつも髪型が三つ編みおさげだったから気づかなかったな。剣の腕だけでレオンクロスにまで昇格したって聞いてたからどんな恐ろしい人かと思ってたけど、案外気さくだったな」
「なっ。俺も初めて話したけどすげー優しかったな。しかもめちゃくちゃイイ匂いした」
新人門番二名の心を奪ったアシュリーは、久しぶりの自室に戻ると先程門で見せた制服に着替え、髪をいつもの三つ編みおさげにセットした。鏡の前で身なりをチェックし、腰に聖剣を差して準備は整ったようだ。
「よし! ちょっと早いけど行こう。みんなにお土産も渡したいし」
フランスから急きょ聖教本部へ呼び戻されたアシュリーは身支度を整えるとレオンクロス専用の会議室である獅子の間へと向かう。
一週間前。緊急会議を執り行うと獅子十字隊第二席であるパトリック隊長代理より伝令があり、アシュリーはフランスからノルウェーへ呼び戻されたのである。
議題は何となく想像がつく。
先日エデンで起こしたマルグリットの暴走の件だろう。気が重いのと久々にみんなに会いたいと思う相反する二つの気持ちと大量のお土産袋を抱えたまま、アシュリーは獅子の間へと向かったのだった。




