第一章 明けぬ夜 3
デゥポン兵団群を離れた六合兵団は、ギャバン兵団群兵団長直卒兵団へと向かった。直卒兵団は数を減らし、二千強が健在だった。
直卒兵団を直近に捉えた零は、高速情報伝達でギャバン兵団群の兵団群長ホアキンに呼び掛ける。
【ギャバン兵団群長、デゥポン兵団群長の指示により救援に駆け付けた】
【六合卿か。よく来てくれた。このままでは、潰走が目に見えていた。そうなれば、ファイアット軍団群長の指示を遂行できず、作戦失敗するところだった】
零の口上に応えポップしたホロウィンドウに目鼻が通った柔和な顔立ちのホアキン・ド・ギャバンが映し出され、落ち着いた声で謝意を伝えてきた。
早速支援に回りたい零は、直卒兵団の被害状況に視線を走らせる。
【直卒兵団右翼の被害が大きいが】
【君の言うとおり、敵ハール・エクエスは定石通り、直卒兵団の右翼を崩しに来ている。六合兵団には、直卒兵団右翼の援護を頼みたい】
【承った】
ホアキンとの遣り取りを終えると戦術プロットを架空頭脳空間にアップロードし、零は麾下の六合兵団に命じる。
【六合兵団各位、ギャバン兵団群長直卒兵団右翼の援護に回る。サブリナは、引き続き兵団指揮。続け】
【了解】
兵団員から返事が返ると、零はゲレイドを加速させ、ギャバン兵団群長直卒兵団右翼へと向かった。
直卒兵団右翼の状況は、極めて悪かった。陣形が乱れに乱れ戦列に罅が生じ、あと少しで敵に雪崩れ込まれるところだった。そうなれば直卒兵団中央は、正面と右側面に敵をもつことになり、かなり危ない状況に陥っていた。
先遣群右翼中央に位置するギャバン兵団群には第二エクエス・ハール四軍団が群がっていて、左右のデゥポン・ラフォン各兵団群よりも一軍団多く引き受ける形となっている。特に直卒兵団は、ハール二軍団の相手をさせられていた。
直卒兵団の数が減れば、背後に控えた予備の兵団が穴埋めしどうにかこれまで保たせてきたようだったが、それも時間の問題……。
六合兵団の先頭を行く零のゲレイドが、直卒兵団右翼に到達。そのまま兵団のパルパティアに攻撃を仕掛けるパンテーラへ、光粒子エッジ式ブレードを一閃。
パルパティアを撃破寸前だったパンテーラが、突如の攻撃に後退。敵を切り替え、零のゲレイドへと向かってきた。
キャバリアーとグラディアートを繋ぐオルタナアライメント・プレコグニション・サイバニクスシステムにより、|インテリジェンス・ビーング《IB》の演算が導き出す未来予測とキャバリアーの未来予知とを比較検証しながら、精霊種の幽子AIであるファントムが未来予知を強化しキャバリアーに返し最適な戦闘解を生み出す。
未来予知の優劣を生み出すファントムで劣る零が体感するその未来は、精鋭たる第二エクエスを相手取れば敗北ばかりだ。だが零は、己の技量でもってその未来を書き換える。
パンテーラが振るう光粒子エッジ式ショートソードを、零のゲレイドが振るう光粒子エッジ式ブレードが受け止めた――ように見えた。
剣同士が触れた瞬間、ゲレイドの光粒子エッジが角度を変えつつ相手の得物を巻き込むように切っ先が円を描く。パンテーラの光粒子エッジがゲレイドのそれに絡め取られた。
生じた圧倒的隙に、光粒子エッジを一閃。次元機関のエネルギー供給ラインを断ち切った。
パンテーラ沈黙。
最初の一体の撃破と同時、六合兵団のゲレイドが直卒兵団右翼に攻勢を仕掛けるパンテーラと接敵。交戦が開始された。
それまで我が物顔で戦場を支配していた第二エクエス・ハールが、俄に苦戦しだした。副兵団長のサブリナ・副官のヴァレリー・分隊指揮官のグレヴィ・大隊長八名+兵団長直卒小隊年少者四名の計十五名の第一エクエス・クラスのキャバリアーが戦闘に参加したからだ。
機体性能は兎も角、第一エクエスと第二エクエスとでは実力の差が歴然だ。他に敵と同等の第二エクエス・クラスのキャバリアーも居る。
右翼に亀裂を生じさせていたパンテーラが蹴散らされていく。
零のゲレイドは架空頭脳空間上の戦術プロットに従い、直卒兵団右翼下方へとヴァレリー率いる直卒小隊と共に向かう。
分隊指揮官のグレヴィが回してきた中隊と合流し、迎撃態勢を敷いた。反対側の右翼上方は、グレヴィ分隊が守りを固めている。
副兵団長のサブリナ率いる直卒兵団右翼へ割って入った本隊は、そのまま居残った。
右翼下方担当のキャバリアー達に、零は命じる。
【下から回り込んでくる敵を抑えるぞ。グレヴィ分隊組はサポート。敵の足止めに集中してくれ。撃破する役は、俺や小隊が受け持つ】
【了解】
【バルチアン、オルタンス、ランベール、シャルロット。四人はヴァレリーの指示で、連携して戦うんだ。特にバルチアンとオルタンスは、スタンドプレイをするなよ】
【へーい】
【分かってるわよ】
【よし】
指示を終えるのとほぼ同時、敵の圧力が増した。軍団で右翼に攻勢を仕掛けていたが、後方にあった第二エクエスが前進を開始したのだ。
直卒兵団右翼の弱兵が、真っ先に蹴散らされていく。それをサブリナ率いる六合兵団が支え、予備兵力の兵団が押し上がり穴を埋めていく。
右翼下方にも、敵が回り込んできた。パンテーラの大隊が向かってくる。
高速情報伝達に零は思念を迸らせ、麾下の小隊・中隊に厳命する。
【中隊、一対一には持ち込まれるな。二~三体で一体に対するんだ。直卒小隊。中隊が相手しているパンテーラを仕留めていけ】
【了解】
【俺は、大隊長機を墜とす】
そう宣言するのと同時、零のゲレイドは大隊中央へ向け疾駆した。
突出したゲレイドに、けれど敵は応じようとしない。そのままの陣形で向かってきた。高々格下の主力兵団相手に多数で対する筈もなく、当たった機体が対処すればいいといった態度だ。
何者にも邪魔されず、零のゲレイドは大隊長機と接敵。
パンテーラは悠然と硬化型カイトシールドを正面に光粒子エッジ式ショートソードを水平に構え、零のゲレイドの斬撃に対した。
が、次の瞬間パンテーラに痙攣のような動きが走る。
基技アジリティを発動させ、グレード・スピードAをSに。
刹那神速に達した零は、機体を前方に倒し硬化型カイトシールドのガードを得物に掻い潜らせた。
脚部にしっかりと斬撃を刻んだ光粒子エッジは、装甲の薄いパンテーラの腿から下を切断する。
突然の急襲に慌てたパンテーラは離脱しようとするが、既に零は上方へ。
刺突一閃。
敵機は沈黙。
――次――
横へ、背後へ、連続撃破。
囲まれてもなお、零は崩れない。
二機同時の連携すら捌き、反転、背後取り、撃破。
五機。
大隊長機を含め、瞬時に消えた。
その動揺は、戦場全体に波及する。
味方は持ち直し、敵は鈍る。
だが、限界は近かった。
【きゃっ】
オルタンス被弾。
【零、このままじゃ――】
中隊にも損耗。
【ランベール!】
【くっ……!】
踏みとどまる。
だが、押し切られる寸前。
――そのとき。
【左翼による半包囲が成功した。先遣群全軍、反撃に移れ】
戦場が反転した。
敵が退く。
こちらが攻める側になる。
零は即座に命じる。
【六合兵団も反撃に加わる。本体に合流。オルタンス、ランベール、無理はするな。勝ち戦だ】




