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嫌われ者のネクロマンサー  作者: 海の紅月くらげさん


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18話

◇◇◇◇



 反撃ののろし。それは夜に起こった。


 森が最も深く息をする時間。


 星篝(ほしかがり)の魔女が、魔物を解き放った直後のこと。



 闇の奥で、幾重にも重ねた魔法陣が脈打つ。彼女の指先から伸びた見えない糸が、獣の瞳へ、牙へ、爪へと絡みついている。


 数十。数百。


 統率された殺意の塊が、ノクスグラートへと雪崩れ込む。


 今日も一方的な狩りのはずだった。


 その時。


 夜が、爆ぜた。


 地平の向こうが、赤く染まる。


 最初は細い線。次の瞬間、それは壁となり、うねりと吠えた。


 炎。


 森そのものが、津波のように木々を飲み込んでいく。


 乾いた木々が爆ぜる音。逃げ惑う魔物の咆哮。熱風が、星篝の魔女の頬を打つ。


「……何?」


 視界の端で、炎が走る。


 規則的ではない。だが無秩序でもない。


 包囲。


 それは明確な意図を持って広がっていた。


 国境を越えて。


 ヴァルディウスの森へと。


「正気なの?」


 炎は夜を奪い、空を赤く塗り替える。


 魔物たちが悲鳴を上げる。彼女の意識に、焼ける感覚が逆流する。


 リンクが震える。


 糸が、一本、また一本と焼き切れていく。


 命令が届かない。


 逃げろ、と叫んでも、もう遅い。


 炎は速く、魔物は一匹残らず、燃える。


 これは戦術だ。


「まさか……」


 魔物の視界のイメージが魔女に伝わる。


 遠く、炎の向こうに人影があった。


 馬上の王。気品に満ちた風貌とは対照的な野性味を孕んだ笑み。


 彼女はその顔を知っていた。


 バリスハリス王国国王。レオニス・バリスハリス。


 揺らめく火を背に、動かない。


 燃える森を前にして、微動だにしない。


 その瞳は、ただ一点を見据えている。


 星篝の魔女を。


 彼女は息を呑む。


 ブツンと、リンクが完全に断たれた。


 静寂。


 夜に満ちていた魔物の気配が、消える。


 焦げた匂いだけが残る。


「……嘘でしょ」


 呟きは、熱に溶けた。


 森を焼くなど、外交問題どころではない。


 だが、魔物を殲滅するために躊躇いがない。


 自国も他国も関係なく。


 線を踏み越えた。


「ヴァルディウス王国と一戦やろうっていうの?」


 唇が、ゆっくりと吊り上がる。


 抜刀するヴァルディウス王国の兵士を星篝の魔女は手で制す。


「帰るわよ。今の私たちじゃ、もうノクスグラートは落とせない」


 炎はまだ燃えている。


 夜は明るい。


 そして星篝の魔女は、初めて理解した。


「面白いじゃない」


 バリスハリスの本気を。









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