表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
10/22

暇すぎた私、気づけばボヤ騒ぎ

 

 キラキラと輝く窓ガラス。


 天井の高い部屋と連動して窓ガラスも縦長で自分の身長の何倍もの大きさ。


 朝露が窓ガラスに伝い、上から下に零れ落ちていくにつれ大粒になり速度が増す。


 そんな朝露を眺めながら朝日が昇るのをただ静かにジッと待つ。


 目は既に覚めきり、今後一切の睡眠は許さないと言わんばかりの爛々とした爽快な目覚めだった。


 庭に佇む花々達が夜風によって靡く姿と暗がりから朝焼けに移り変わる空の情景を眺めた体感時間はかれこれ()()()


 私はそう。


 ベッドの寝心地が普段と違いすぎて違和感を覚え、あまり眠れなかったのである。


 昨日は突然異世界に来たことによる心労ゆえか、ぐっすり眠れた。


 しかしどうだ。


 今日は初日と心の持ちようが違った為か、あまり眠れ無いまま目が覚め、ベッドの上で延々とゴロゴロと転がりまくり果てには空を眺める始末にまで至った。


 ここで少しは眠くなればいいのに。


 少々社畜社畜してた私にとって、この時間から二度寝をすれば大遅刻をかましかねないという謎の恐怖により眠くならなくなっていた。


(あ、誰か歩いとる…………)


 ふと窓の外を眺めたままにしていると、私が今居座っている本邸の隣に立つ少し小さめの屋敷からぼんやりとした灯りを持った使用人らしき人が歩いているのを見つける。


 おそらくあちらに立っている小さな屋敷は、使用人の方達が住まう寮のような建物なのだろう。


 使用人と思われる人物を遠目ながらもジッと観察してみる。


 この国の多くは鮮やかな髪の色彩を持っている為、私のような純日本人が持つ黒髪はここでは珍しい。


 使用人棟らしき場所から此処本邸の方へと歩いてくるその人物を凝視して見れば、その髪色は私と同じ黒髪の様だった。


(………あれ、カイルさんじゃん…………え?………早過ぎない???)


 まだ日が昇りきっていないどころか、出てすらもいない。


 そんな中、既に仕事服となる燕尾服に身を包み遠目かつ暗がりで良くは見えないがおそらく髪型等の身嗜みも一通り整えられている。


 真逆とは思うが、執事長という役職持ちのカイルさんの業務はたった今から始まるというのか!?


 そんな!!いけません!!!労基も真っ青なブラック企業じゃありませんこと!?!?


 まだ朝早くの時間な為メイドさん達が働くには早すぎる。


 少し実態が気になった私は窓際から立ち上がり、部屋にあるクローゼットを開ける。


 生憎と、自分自身でこの部屋の明かりの付け方のコツをまだ掴めていない為外から差し込む月明かりだけでクローゼット内を凝視する。


 数々のドレスやワンピースがそこには収納されており、先日のコーデはこの中からメイドさん達によって選ばれたものを着ていたため、本来私があまり着るような衣服ではなかった。


 今は、自分一人で着るためにキャミソールのようなサラッとした水色のワンピースを見つけ、ネグリジェを脱ぎこのシュミーズと言う薄手のワンピースの上に着用する。


 この世界に現代日本と同じく下着と言う概念があって心底良かったと思った。


 ワンピースを身にまとい、クローゼットの下付近に収納されていた同系色の靴を履く。


 物音を立てないよう、ゆっくりと室内を歩き扉の前へと移動する。


 ドアノブを静かに捻り、ドアを開ける。


 隙間から見える屋敷内の長い廊下も、昼間の時とは違い薄暗くまるで果てしなく続く道かのような錯覚を覚える。


 そっと廊下へと歩みでて扉を閉め廊下の先を眺める。


 入ってくるとしたらきっと正面玄関では無く、ミルヴァさんなどが使用している使用人専用の入口。


 所謂勝手口の方からだと推察する。


 勝手口は確か昨日のうちに食堂付近に有るのをちらりと見かけた。


「…………暇だから行ってみるか」


 少しの好奇心と、眠れない事による暇つぶしを兼ねて早速カイルさんがこの屋敷に入ってくるであろう勝手口がある場所へと向かう。


 一階へと続く階段が存在する中央の吹き抜けに向けて歩いていると、フッとそこだけに灯りがついた。


「!」


 急いで明かりがついた吹き抜けへと向かい取り付けられた手すりから身を乗り出し下を見る。


 そこにはランタンを持ったカイルさんが居た。


「! ………ナツメ様??」

「あ、」


 人の気配に気づいたのか、カイルさんがなんの前触れもなくパッとこちらに顔を向け私の存在をその瞳に映した。


 なんと鋭い勘なのか。


 カイルさんは直ぐ様私が居る場所へとやって来るため、中央の階段を上がってくる。


「こんな朝早くにどうされたのですか?」


 今すぐにメイドに伝えて朝の支度をと、言われた瞬間、急いで首を振りそれを拒否した。


 ただでさえこんな朝早くからカイルさんが稼働し始めているのを見てこの現状を確認しようと部屋を出たのに。


 まだ姿を見ていないメイドさん達に迷惑をかける訳にはいかない。


「実は、早くに目が覚めてしまって。眠れなくて外を眺めてたらカイルさんを見つけたので暇だから尾行してみようかな〜なんて……」


 口に出して言ってみたものの、なんか凄いことを言っている気がする。


 暇だからと言って他人を尾行しよう!だなんて言う輩などそうそう居はしないだろう。


 それでも暇だったからと言うのと、どのような勤務形態になっているのか知りたいと言う五分五分の思惑があった。


 後者の事が仮に公爵家の主であるお義父様の耳に入ってしまえば、もしかしたら湾曲した事実として伝わる可能性を危惧した上で下手な事は言わないようする。


 まぁ、この際私がどんな風に見られていても気にしないようにしよう。


「なるほど、そう言う事でしたか」


 にこやかに笑ったカイルさんは別段私の事を侮蔑する訳でもなくただ納得した様に頷いた。


(わたくし)はこれから屋敷の様々な場所に出向き旦那様の起床に合わせ屋敷の身支度をします。ナツメ様が良ければ一緒に来ますか?」


 カイルさんは少し考えるような仕草をした後、そう問いかける。


 既に洋服に着替えてしまったし、これから自室に戻ってただただ時間が過ぎるのを待っているのもきっと果てしなく暇だろう。


 カイルさんが快諾してくれているのならばこのお屋敷の内装がどうなっているのかを確認する為にも是非ともついていきたい。


 元より初めからついて行く気満々ではあったけれども。


「はい、お邪魔にならないようについていきたいです」

「お邪魔だなんてそんな」


 再びにこやかに笑ったカイルさんが手に持ったランタンを持ち直し、手を差し出す。


「では手始めにこの屋敷の室内魔灯をつけに行きましょう」


 そう言ってエスコートを受けながらカイルさんのモーニングルーティンを共に実行する運びとなった。


 まずは、この屋敷全体の廊下に点在する室内魔灯と言う現代で言う電気を灯す。


 その途中で寄る厨房や洗濯室に徐々に集まってきている他の使用人の方々に的確な指示を出す。


 夜間、屋敷の護衛についていた騎士団の方々の交代の為申し送りをする。


 お義父様が起床するのと同時にその後直ぐに執務が出来るよう、書類の整理、届いた手紙の確認、備品類の再度確認等。


 朝から行うには目が回る様な項目の数々に益々、この勤務形態で良いのかと言う疑問が募る。


「これって体壊さないですか?こんなに朝早くから……」


「えぇ。これは一種の慣れですかね。それにそれ相応の福利厚生もありますし、何より尊敬している旦那様の支えになる事が日々の生き甲斐でもありますから」


 執務室に積み重なった書類の山と様々な書籍を手に片付けるカイルさんの表情は、根底からこの屋敷の主人であるお義父様の事を本当に敬愛しているのだと読み取れた。


「もしかしてナツメ様は、(わたくし)の事を憂いて下さっているのですか?」


「ですです。私だって日本では働いてましたから労働の大変さは分かっているつもりです。勿論、カイルさん程過労では無かったのですが」


「…………失礼ですが、ナツメ様は御歳お幾つになられるのですか?」


 突然その場で作業を止め、そんな事をポツリと呟いたカイルさんになんの疑問もなく「二十一歳です」と言えば、心底驚いた表情をし、直ぐ様謝られた。


「申し訳ありません。(わたくし)の主観と言えど勝手ながら奥様と同年代かと………」


 私はその意味に納得した。


 かねてから日本人は海外の人から見れば童顔らしく、見た目と実年齢がだいぶ変わって見えるという話を聞いたことがある。


 それを鑑みればきっとカイルさんも私の事を成人だと思ってみていなかったのだろう。


(なんだ………じゃああれは子供扱い、なのか…………)


 おそらくこの場合、異世界などでは成人年齢が十六とかそこら辺なのだろう。


 と言うことは、私この世界の基準で言ったらお嫁に行き遅れのババアになるって事………???


 取り敢えず謝り倒してくるカイルさん宥めるために一歩踏み出し声を出そうと口を開けたその直後。


「きゃああああああああ!!!」


「「!?!?」」


 どこからともなく叫び声が聞こえ二人して顔を見上げる。


「! 二階からです」


 手に持っていた書類と書籍を置いて行くところが無い私と共に執務室を飛び出し、声がしたと思しき場所へと向かう。


 ついたその先は、私が使わせてもらっていた一室。


 騒ぎを聞き付けた他の使用人達の間を掻き分けてカイルさんが先導し中へと入ると、そこには私がこの異世界に持ってきていたポーチの中身が床に散らばっており、そこに立っていた一人のメイドさんが何かを握って怯えていた。


 視線を移せば、机にかけられていたテーブルクロスが乱雑に床に落ちており、その端っこは焼け焦げていた。


「もっ申し訳ありません………と、突然火が出てしまって…………!」


 メイドさんがその手に持っていたものは、私が日本から持ってきていたチャッカマンだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ