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ライナスの毛布

「ほら、早く行こうぜ!」

ミナはいつも朝からテンションが高い


今日は県立のスポーツセンターのサッカーコートで

練習試合だ

俺はミナと佐藤と一緒に駐輪場に自転車を駐め

サッカーコートまでの小道をのんびりと歩いていた

佐藤はミナと同じMFで小柄だけれど

とても足が速くセンスの良い動きをする

3年生が引退した後はミナと一緒に

2年生とのレギュラー争いの中核となるだろう


しばらく歩くと

スターンッ

スターンッ

と耳触りの良い聞き覚えのある音が聞こえてきた

音の方を見るとスポーツセンターの弓道場があり

そこには冴木とイブくんがいた


「…冴木」

「え?あれ?本当だ!瑠加じゃん伊吹もいる」

「ミナ、イブくんのこと知ってるのか?」

八神伊吹やがみいぶきな!拓真知ってるのか?」

「あ、前にちょっとだけ会ったことがあって」

「伊吹はさ、俺よりもっと前からの瑠加の幼馴染みなんだよね。

瑠加んちに遊びに行くとだいたいアイツもいてさ…でも、人見知りなのか?変わり者なのか?あんまり俺達とは話さなくて瑠加にずっとくっついてる感じで…」


「イブくんも弓道やってるんだね…」

「あぁ 二人とも小学生の頃から同じ道場に通ってたって…

伊吹は小学校から私立でさ、中学までは部活じゃなくて瑠加と道場で練習してたみたい

伊吹が高校からは寮生になったから

それぞれ部活として活動することにしたんだって瑠加が言ってたな」

「ふーん…そうなんだ」


冴木が座り込んだイブくんの手を取って立ち上がらせ

笑い合っている…


「あの伊吹ってやつ綺麗な男だな…

しかし、休みの日にわざわざ2人で自主練?とか

仲いいな!

それに…あの2人…ずいぶん距離感近くないか?」

佐藤がマジマジと2人を見て言う

「……そうだな」

仲睦まじい様子が目に染みる


「あの2人はずっとあんな感じだよ…

仲が良いって言うか…なんて言うか…特別な…」

ミナが口ごもり言葉を探し

そして思い出したように言う


「ライナスの毛布!」


「ライナスの毛布?何だそりゃ?」

佐藤がミナを覗き込む


「瑠加の兄ちゃんがそう言ってた…

伊吹にとって瑠加はライナスの毛布みたいなもんだって…」

ミナが握った拳を顎につけて首を傾げ佐藤を見つめ返す


「ブランケット症候群のことか…

ライナスの毛布って

たしか何かにすごく執着している状態を指すやつだよな…『お気に入り』とか『愛着』の物に…

それで精神の安定を保ってるって…

お気に入りの毛布やタオルやぬいぐるみをずっと手放せないっていうやつ

執着とか依存?とかそんな感じ」


「そう!それ!拓真よく知ってるな!」

ミナが感心したように言う

「へぇ!そんなんあるんだ?」

佐藤はライナスの毛布という言葉を初めて聞いたようだ


「そっか…ライナスの毛布か…」

なるほど…ね…

俺はイブくんに会った時の様子を思い出した


そういうことか…と

ストンと何か腑に落ちた気がした


やっぱり…敵わないなぁ


すぐそこに居る冴木とイブくんのことが

遥かむこうの対岸の灯りのように遠く感じた



「おーい!瑠加〜」

ミナが突然冴木に向かって声をかける


冴木が声に気付き振り向いた


俺はハッとしてミナと佐藤に言う

「俺、先にコートに行くな!

戸田先輩より先に言ってないと…また嫌味言われるからな」


俺は振り向かずに

小走りで一人コートへと急いだ







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