空は澄み恋は朧
「おはよ!拓真!」
「あぁ、おはよ」
「拓真?大丈夫か?最近、元気無いように見えるけど…」
朝練を終え教室に入ろうとした時
冴木に声をかけられた
一緒に出かけた次の日からは
必要以上の遭遇や会話をさり気なく避けてきた
クラスも違うし、部活も違うから
案外容易にそうすることができた
無視することはできないし
あくまで普通の友達として
会えば挨拶するし
雑談くらいはするようにしていた
「そうか?別に普通だけど」
「そっか…なら良いんだけど
あ、それでさ…今度…」
「悪い…俺今日の英語の課題やってないから
急いでやらないとなんだよね…」
冴木が何かを言いかけたのを遮って
ゴメンっていう身振りをしながら慌てて教室へ入った
こんな感じで2人きりで長く話すのは
まだ意識せずにいることは出来そうもないので
避けているのが現状だ
胸がチクチクするし、後ろ髪引かれるけれど
一目散に窓際にある自分の席に座り
教科書を出して課題をする…
フリをした
課題は…やってあるのだ
やっぱりダメだ…冴木の顔を見てしまうと
『好き』の気持ちがムクムクと頭を擡げてしまう
目が合うと心臓がギュッとなる…
顔に出ないように
表情を固めるので精一杯だ
「おーす 拓真」
「あぁ ミナおはよ」
「あれぇ?課題終わってんじゃん」
「え、あぁうん…まあね」
「さっき瑠加が拓真が今から課題やるとかで
話が出来なかったって悄気てたぞ」
「………」
「瑠加となんかあったのか?」
「別に?」
「ふーん」
「それよりさ、コレ見て」
そう言って話題をそらすために
スパイクのカタログを鞄から取り出し
ミナに見せる
「スパイクかぁ…何?新しいの買うん?まだ前のやつ買ってそんなにたってないよな?」
「うん…まぁね…
で、コレかコレかコレって思ってるんだけど
どれがカッコイイ?」
「うーん、キーパー用のヤツな…ウェアがピンクの派手なヤツだからなぁ…この黒いのとかが良いんじゃね?」
「そうだな…」
「どしたん?急に新しいの買うとか…
まさか、また戸田先輩になんかされたん?」
「あーうん…まぁ…ね」
「はぁ?何されたん?」
「戸田先輩がやったって確証は無いんだけど…今朝
ロッカー開けたら入れておいたスパイクがずぶ濡れでさ…予備がもう一つ必要だなぁって…」
「それ、監督とかキャプテンとかに言って問題にした方がいいヤツだろ!」
「んーでも…あんまり騒ぎたくないかなぁ
水で濡れてただけだし…」
「たくまぁ〜ちゃんと抗議しないと戸田先輩つけあがるぞ!」
「んーでもなぁ…」
「まぁ…次の大会、お前がセカンドキーパーでベンチ入るしな…1年でベンチ入りお前だけだし
戸田先輩にしてみれば1年に追い抜かれて悔しいんだろうけどさぁ…
だいたい
こんなしよーもない嫌がらせしてるから追い抜かれんだろ!って
そんな暇あるなら練習ちゃんとやれよ!って…なぁ!」
「俺元々、邪険にされてたしな ハハハッ」
思わず笑ってしまう
冴木のことを考えないように、吹っ切るように
無心で練習や筋トレに取り組んでいたら
ベンチ入りしてしまったのだ…
「ホントにキャプテンとかに言わなくて良いのか?」
「んーまぁ今回は…」
はぁ…
ミナがため息を一つついて不服そうな顔で言う
「じゃぁ…今回は俺も黙っとくけど…
次なんかあったら…俺が騒ぐからな?いいな?拓真」
「ん…サンキュ」
「ところで拓真くん!その全て課題が終わっている英語のノート…写させていただけるだろうか??」
「ふふっ!いーよ」
「やった!後で苺ミルク奢るからな」
そう言ってミナはノートを写しはじめた
俺は外に目をやり
ぼんやりと空を眺めた
あぁ…
好きって気持ちを無かったことに出来る魔法みたいなものは無いんだろうか…
どんなに意識しないように無心で毎日を過ごしていても
気を抜くと一瞬で引き戻される
どうにかしたいけれど
どうにもできない…
恋という厄介な感情を持て余す
こんな日々はいつまで続くのだろうか…
霞のかかった道で迷子になってしまったような
心細い気持ちになる
目を閉じて一呼吸して
また空を見上げる
「空はこんなに青く澄んでいるのにな…」




