目の前で見せつけられて
※ジュリ視点になります
※このページと次のページでは悲しい描写があります。
苦手な方はその次のページへ飛ばしてしまっても物語の内容的にはあまり影響ないかと思います。
セラを強く抱きしめながら。
そして私もセラごとみんなに強く抱きしめられながら神様に感謝を捧げていると、だんだんみんなに押されてすぎて息がしずらく、苦しくなってきた。
「みんな嬉しいのはわかるけど、ちょっと苦しいわ。少し離れて…」
少し離れてちょうだい、と言おうとしたところで気がついた。
私でも押されて息がしずらくて苦しいと感じるのに、小さいセラはどうなのか。もっと大変なんじゃないか。
胸にすっぽり埋まっているセラは全く身動きしていない。腕を開こうにも、みんながぎゅうぎゅうに抱きついてきて、体重がかかっていて開けない。
「ま、待って!みんな待って、ちょっと離れて!」
だめだ、1番近くの子達だけは気付いてくれたみたいだけど、ほとんどの子は嬉しさからかガヤガヤと話しているせいで私の声が全く聞こえてない。
「みんな!!押されて苦しいの!!1回離れて!!」
セラが心配でおもわず大声を出してしまった。
驚いている子も多いけれど、今はセラが無事か確かめる方が先だ。
ある程度の人数が離れたところでぐっと周りの子を押しのけてセラを身体から離す。
「セラ!!大丈夫!?返事をして!!セラ!!」
セラは苦しそうな表情のまま、力なくぐったりと脱力しきっていて。
ついさっきジュリと私の名前を呼んでくれたのに。
腕の中のセラは…息をしていなかった。
「…セラ?…うそ…セラ…返事して…うそ…ねえ…セラ…」
ゆすってもゆすっても、動いてくれない。息をしてくれない。
「うそ…こんなの…だって…せっかく…意識もどったのに…さっき…ジュリ…って…セラ…セラ…!!」
信じられない。信じたくない。
「…やだ…やだ!!…セラ!!息をして、お願い…あぁ……いや……いやぁぁああぁ!!!!!」
私はセラにすがりついて泣くことしかできなかった。
「何があった!!ジュリ!!」
私の悲鳴のような泣き声が聞こえたのか、世話人が部屋に飛び込んできた。
セラが息をしてないの。助けて。息をして…お願い…お願い…
そう思いつつも、私は頭の中がぐちゃぐちゃで何も答えられなかった。
ただただ涙が溢れて言葉が出てこなかった。泣くことしかできなかった。
「ジュリ!!しっかりしろ!!!…くそっ!!セラがどうした!?何があった!!?」
「…セラが息をしてないって…ジュリが言ってた…」
感情がぐちゃぐちゃになって何も答えられない私の代わりに、誰かが世話人に言う声が聞こえる。
「…息を…??どうして…くそっ!!邪魔だ退けっ!!」
世話人が私を押しのけ、セラから離そうとする。
「いやぁ!!!づれていかないで!!!おねがい!!ゼラ!!い"やぁ!!!」
嫌だ。セラと離れたくない。それしか考えられなくて必死にセラにしがみついた。
「邪魔だ!!セラを助けたいなら邪魔をするな!!!ミルカ!!ジュリを抑えろ!!早く!!!」
世話人の怒号が飛ぶ。私はミルカに抱きしめられてセラから離されてしまった。
助けたいなら?助けられるの?本当に?助けて、セラを助けて…お願い…
ああ…ああ…と泣き声を零すことしかできない私には目もくれず、世話人はセラの首や胸を触って何かを確かめたあと、セラにキスをした。
それを見た瞬間に、私の中を怒りの感情が埋めつくした。
私のセラに!!こんな状況で!!キスした!!!こんな時に!!!絶対に許せない!!!
反射的に世話人に飛びかかろうとしたけれど、ミルカにがっしりと抱きしめられていたせいでダメだった。
何回も何回もセラにキスをする姿を目の前で見せつけられて、私は怒りで頭がおかしくなりそうだった。
そのうちに世話人はセラにキスするのをやめ、私の方に振り返って言った。
「…睨むな。はぁ…セラが息を吹き返した。心臓もちゃんと動いている」
セラが息を吹き返した?心臓もちゃんと?
睨みつけていた世話人から視線を外しセラを確認する。
セラの小さな胸が少し上下に動いていて…本当に?本当に…生きてるの?セラ…セラぁ…
安心したからかどっと疲れが襲ってきて、身体に力が入らない。
あぁ…死ななかった…よかった…よかったぁ…
安心したらまた涙が溢れてきた。
今日は喜んだり泣いたり怒ったり、大忙しだ…頭がぼんやりしてもう何も考えたくない…
そんな私の事などお構い無しに世話人が続ける。
「なぁ、何があった?喜んでいるような声が聞こえてきているなと思ったら、突然叫び声に変わって、泣き声に変わって。部屋に戻った時から息をしていなかったわけではないだろ。何があったんだ?」
…言いたくない…でも何も言わないと解放してくれなさそうな雰囲気をひしひしと感じる…
誰も何も言わずに張り詰めた空気の中、私は諦めて今までの経緯を簡単に説明した。
部屋に戻ってきたら、叫び声は聞こえなかったのにセラがすごく暴れていたこと。
急いで抱きしめてあやしていたら、セラが私の名前を呼んでくれたこと。
気のせいかと思ってもう一度確認したら、セラがちゃんと私の目を見てもう一度名前を呼んでくれたこと。
嬉しくて泣いてしまって、セラを泣きながら抱きしめていたらみんなも抱きしめてくれたこと。
みんなにぎゅうぎゅうに押されてだんだん苦しくなって…みんなに離れてもらったら…セラが息をしていなかったこと…
世話人は私の話を聞きながら、不可解そうな顔から少し嬉しそうな顔になり、最後には真顔になった。…こわい…
「…世話人が来てくれて…助かった…セラを助けてくれて……あり…がとう…」
セラに何度もキスしたのは正直許してない。だからお礼なんて言いたくない気持ちが強いけど、世話人のおかげで助かったのは事実だと思う。認めたくないけど…キスしたり胸を押したりしていたあれが助けるために必要だったんだと思う…認めたくないけど…
もし次セラの息が止まるようなことがあったら私がキスする役目をしようと心に誓った。
私がそんなに誓いを立て終えた頃、世話人は目を瞑り一度大きく息を吸って吐いた。
そしてみんな揃って世話人から説教をくらった。
世話人はものすごく怒っていた。セラがそのまま死んでいたかもしれないと言われて、涙が溢れてきた。
ただ、お説教が長すぎて…最初は真剣に聞いていた私も、今日一日で起きた喜んだり悲しんだり怒ったり、あまりに目まぐるしい感情の変化に疲れ切っていて…瞬間、首がガクンと落ちそうになる。
…ダメ…怒られてるのに寝るなんて…そう思っていてもまぶたが重い…
こっくりこっくり舟をこぐ私を見たからか、世話人は大きくため息をついて怒るのをやめ、みんなに少し休むように言って出ていった。
セラにくっついて昼寝をして、夕食を食べて。
結局その日、セラは目を覚まさなかった。




