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異世界にTS転生した僕がサキュバスクイーンになった理由  作者: 望月優志


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"娼婦になれなかった者"

 大人や周りの言う事が正しいとは限らない。


 その場に暮らす誰もが当たり前のように"そうだ"と思い込んでいるだけで、違う角度から見てみればそれまで見えていなかった別の何かが、あるいは物事の本質が見えてくる事だってある。


 そう思って改めて情報を集め直し、何ができるかを考えていたのだけれど…



「………はぁ」



 考えれば考えるほど、出てくるのはため息ばかり。


 吐き出されたため息は白いモヤとなって、どこまでも冷たい空に広がっていった。



 子どもが身体を売らなければいけないなんて間違っている。そうは思っても、じゃあ代わりに何ができるのかと考えると何も思い浮かばない。


 生きていくためには、まずは食べていかなければならないのだ。


 つまりは稼ぎが必要で、孤児院出身の子ども達は小さい頃からその術を学んでいる。


 その術の中で1番稼ぎが良く、憧れとされているのが高級な娼館で働く娼婦や世話人という事だった。


 確かに日本でも性産業である風俗や、高級な店のホストやキャバ嬢といった夜の水商売をする人達の稼ぎはとても多い。


 一般の会社員として働くのが馬鹿らしくなる程だという話は枚挙にいとまがないが、ここでは残念な事に、水商売と風俗で業種が分けられていないようなのだ。


「おはなしだけしたいおきゃくさまは、どうするの?」

「話をするだけならそこら辺にいる人でもいいんじゃないか?飲み屋に行けば暇そうな奴らがごろごろいるぞ」


 …ごもっともすぎる。


「相手の見目を指定したいなら安い娼館もあるしな。この前はセラにお客様が来たが、あれはウルイル様が特別だっただけだ。極たまにいるが、めったに居ない」


 この国の娼館は基本的に飲食の持込みがOKらしく、食べたり飲んだりしながら話をして、イチャコラして、スッキリして帰る。


 それがここら辺の娼館での普通らしい。


 紳士的にお話だけして帰っていったウィルは、もしかするとここでは逆に変人のような扱いになるのかもしれないな。



 ちなみに…


 小鹿亭は中級娼館。たった1回で、一番安い娼館なら100回いってもお釣りが来るほどだそうだ。


 そりゃまぁどうりで…


 ここで1年半以上過ごしてきたが、今までウィル以外に話だけをしに来る客なんか見たことが無いはずだ。


 しかしそんなに高いのか。未成年を買うんだからそりゃ高いだろうけれども…と話を掘り下げてみたところ、どうやらそもそも値段設計自体がおかしいらしい。


 世話人はここに住込みで働いていてあまり出かけないから正確な事は分からないそうだが、一般的な孤児院出身者の暮らしとしては収入の半分は生活費に、残り半分はほぼ風俗に消えるらしい。


 どれだけ風俗好きなんだよと言いたくなったが、安い所なら毎日通ってもお金は多少余るらしく…


 毎日娼館に通う者。数日おきにちょっといいランクの娼館に通う者。禁欲を頑張り高嶺の花だけ愛でる者。


 と言った具合に、世の中は様々な変態で溢れているようだ。


 では女の子はどうなのかというと、娼婦は衣食住は最低限保証されるものの、稼ぎの半分くらいが今まで育ててもらった分として回収され、残りは趣味や買い物などに消えるという。


 では、娼婦にならなかった者はどうなんだろう?


「…知らん。そこまで交友関係は広くなくてな…」


 との事らしい。辛いこと聞いてごめんよ…


 娼婦になれなかった者はおそらく、例外はあるもののそのほとんどが農夫になるために街から出て行くのだろう、との事だった。



 "娼婦になれなかった者"…か。



 孤児出身者は誰も彼もが身体を買うし、身体を売っている。


 孤児院に娼婦を憧れの的として描いている絵本があるくらいだ。後ろめたい事だと感じないほどに、身体の売り買いが当たり前となっているのだろう。


 日本で暮らしてきた僕とは根本的に考え方が違いすぎて、あまり深く考えると頭がクラクラしてきてしまう。



 身体を売らなくてもいいまともな仕事だって沢山あるだろう。単純にそう考えていたがそれは大きな間違いだった。



 すっかり失念していたが、当然の事ながら、孤児ではない普通の一般人も大勢いるのだ。


 そして更に、この国はどうやら産めよ増やせよ政策を行っているらしい。


 子どもを産んだ風俗嬢には充分な報酬と休暇が与えられるし、子どもは孤児院が無償で全て面倒を見てくれる。


 出産には当然リスクもあるだろうが、子どもができてもお金も子育ても何も心配がなく、それ以上に利益がある。


 そんな社会だからこそ、孤児達は娼婦という職業に忌避感を持っておらず、むしろ進んで娼婦になるべきだという世話人のような考えの者が多いのかもしれない。




 静かに雪の降る中、最近の事やみんなに揉みくちゃにされて疲れきってしまった脳と身体を休めるべく、腰を下ろすのに丁度いい高さのビグルミの木の枝を探す。


 ビグルミの木はそれなりに太いグネグネとしたツルのような枝が生い茂っており、みんなにジャングルジムにされたり、ベンチ替わりに座られたり。


 秋には美味しいビグルミの実がなるし、今年もいっぱい収穫できた。


 見た目が禍々しい紫色をしている事を除けば、地球でもこれほど子どもに人気のでそうな優秀な木もそうそうないだろうな。


 よいしょっと。



 …地球、か。



「…はぁ」

「…アンタ、さいきんためいきおおいわね…はぁ」


 僕に続いてため息をついたのは、僕の隣でぼんやりと黄昏ていたアイビスだ。


 意識してアイビスの隣を選んだ訳ではなかったが、座る場所を探した時に自然と足が向いていた。


 現状の打開策が何一つ浮かばず、頭の中でぐるぐるぐるぐる。あーでもないこーでもないと答えのでない難題に悶々とする日々を送っていて気が付かなかったが、思い返してみればアイビスもここ最近ずっと顔色が悪い気がする。


 何かあったんだろうか。



「アイビスも、ためいきついてたよ」

「え?そんなわけないでしょ」


 いやいや…


 アンタ何言ってんの?と言わんばかりに呆れた顔を向けてこられましても…そんなわけあるんだけどなぁ。



「なにかあったの?」

「べつに…」


 むすっとしてみんなの方を見るアイビスは、やはりどこか思い詰めたような表情をしている。


 何か悩みがあるのは確実だけど、その悩みに他人の僕がズカズカと踏み込んでいいものなのか。


 …ただ、アイビスの悩みには多少検討はついている。


 今も毎日短時間だがお勉強に行っているし、その度に泣き腫らした目をして帰ってくるのだ。


 間違いなくそれ関連だろう。


 何も知らない時であれば、こんなとこ辞めちゃえば?なんて言っていただろう。しかし、外の現状を知ってしまった以上、安易に辞めればいいなんて言えなくなってしまった。


 世話人によれば、辞めることはできるらしいのだ。戻ることができないだけで。


「…そういえばアンタも…」

「…えっ?」


 ぐいぐい聞いた方がいいのか、そっとしておいた方がいいのか。


 気まずい雰囲気の漂う中で悩んでいると、アイビスの方から話しかけてきてくれた。


 …が、僕の返事が悪かったのだろう。


 アイビスは僕の顔を見て悔しそうな顔をした後、俯いてしまった。


 ちょっと聴き取りづらい声量だったのと、話してくれる気になったのかなと嬉しくなってしまって、明るい顔をしてしまったのがいけなかったのかもしれない。


「あっ、その、ごめんね…アイビス、なやんでるのに…」

「…なんであやまるのよ。べつに、アンタがわるいわけじゃないでしょ」

「…でも…」


 アイビスは大きくため息をつくと、再び顔を上げた。


 しかしその顔は、やはり苦しいような、悔しいような、そんな表情のままだった。


「いいの。それより、アンタにききたいことがあったのよ」

「ききたいこと?」


 アイビスが僕に??なんだろう…


「…なんでアンタは、そんなかおしていられるのよ」


 …そんな顔?…そんな顔って…どんな顔だ…??


「アンタも…その…こわいおきゃくさまのおあいて、したんでしょ?わたしとおなじように」

「…しってたの??」


 …アイビスは知ってたのか。僕が…セラ(この子)がアイビスと同じように、暴力を受けて大怪我をした事を…


「みんなからきいたのよ。アンタ、こないだだってあちこちケガして…それなのに、どうしてそんなかおしてわらっていられるの?」


 …僕が笑えている理由…か。


 大人として過ごした前世の記憶がある、というのもあるが…多分、暴力を受けた時の記憶が一切ないというのが大きいと思う。


「…いっぱいケガしたときのこと、おぼえてなくて…」

「…それはみんなからきいてる。…わたしもぜんぶ、わすれられたらよかったのに」


 ぽつりと呟いたその言葉が、やけに大きく聞こえた。



 アイビスが心から楽しそうに笑ってるところはほとんど見た記憶がない。


 いつも強がって気丈に振る舞っているけれど、その笑顔に影が差しているのは僕もずっと感じていた。


 それは毎日のお勉強によるストレスもあるだろうけれど…根本的な原因として、客から酷い暴力を受けたことが鋭いトゲのように深く突き刺さっているからなのかもしれない。



 どんな逆境だって力になる。どんな経験も糧になる。そんな言葉は確かにあるし、場合によっては間違いじゃないんだろう。


 大人になった今だからこそ…身体は子どもだが、どんな経験も今の自分に成長するまでに必要な事だったと、割り切ることは出来ている。


 大人になるまでに様々な知識を得て、いい思いも楽しい経験も沢山してきた。


 反対に辛い思いも苦しい経験も山のようにしてきたし、忘れてしまえたらいいのにと胸を掻きむしる夜だってあった。


 そうして歳を重ねたからこそ、辛い経験も苦しい過去も糧にできるようになっただけ。


 …でもそれは、ある程度の年齢になった後に経験した事だったからだ。


 5才だ6才だなんて幼いうちは嫌な記憶なんて無いほうがいいに決まっているし、知識の少ないうちは糧になんてできやしない。


 只々辛く、苦しいだけだ。


 子どものうちは健康に、健全に。大人の汚い欲望になんか晒されず健やかに生きるべきで。


 辛い思いをしてもなお頑張ろうとしているアイビスは…


「…アイビスは、すごいよ…」

「…バカにしてる?…わけじゃなさそうね。…アンタのほうがすごいじゃない…」


 バカになんかしていない。するわけがない。


 アイビスが感じた恐怖も、受けた苦しみも、痛みも…想像なんかよりもずっと酷いもののはずだ。


 今だってこんなに胸が苦しくて、何もできない無力感に苛まれているのに…僕の何がすごいっていうんだ。


「アンタさいきん…ひるもよるもよばれて…ジュリってひとのおあいてしてるんでしょ?…こわく、ないの?」

「…ジュリ??…なんで??」

「なんでって…アンタ…このまえあんなにひどいケガしてきたじゃない…」


 あっ…アイビスにまた辛そうな顔をさせてしまった。


 この前全身青タンだらけで帰ってきたせいで、どうやらずっと勘違いさせてしまっていたらしい。


 確かに見た目こそ酷かったけど、大半はキスマークと噛み跡だけで…ちょっと血が出てたりしただけだ。


 血が出てるだけで大怪我してるように見えてしまうのってあるよね。


 ジュリの事を知らないから勘違いしてしまうのも仕方ないけど、ジュリとは1年間ずっと一緒に過ごしてきたし…この間の怪我は、まぁ…事故みたいなものだ。


 ジュリは働かされすぎてボロボロになってしまって大変なんだとアイビスに説明したが…どうやら僕はあまりうまく説明ができなかったらしい。


「…のーてんきってことば、しってる?アンタみたいなこのことよ。おぼえておくといいわ」


 うぅ…そんな可哀想な子を見るような目を向けてこないでよ…



 アイビスは直接会ったことがないからわからないかもしれないが、ジュリはとても優しくて包容力があって、周りを気遣える天使のような子だ。


 …最近はちょっと縄でぐるぐる巻きに吊るされてたり、世話人が来ると猫のように威嚇したりすることも多いけど…


 今はもう、秋に来た時より顔色もずっと良くなった。


 前にジュリから流れ込んで来たおかしな魔力も、普段は何ともない。


 あれから何度か経験したが、わかったのはジュリが暴走気味の時だけ起こる現象らしいということだけで、あれが何なのかは未だによくわかっていない。


 あれは僕を興奮させて、判断力を鈍らせる。


 ジュリは可愛くて綺麗で、清楚な見た目とは裏腹にちょっぴりえっちで。相手を虜にして離さない。そんな魔性の女の子なのだ。

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