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異世界にTS転生した僕がサキュバスクイーンになった理由  作者: 望月優志


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知りたくなかった真実

 

 逃げる場所なんて何処にもなかった。


 ここの外には僕の知らない世界が広がっていて、きっと…


 ………


 …きっとここは、地球じゃない。


 その考えを受け入れると同時に、今まで無理やり"そう"だと思い込んでいた様々な事柄が、パズルの足りないピースが埋められるように、全体像がすっと見えてくるような気がした。



 僕がここで目覚める前。


 地球で。バイクに轢かれて。


 目覚めた時、生きている事が奇跡だと思った。



 …でも、助かるわけがなかったんだ。


 それほどのスピードだったから。


 心の底では…わかっていたんだ。


 怪しい薬や実験で、子どもの身体にされてしまったなんて…ありえないって。



 生まれ変わった。


 誰かの身体に入った。



 そんな説明の方が、まだ納得できる理由だって。



 ………



 …それでも…信じたくなかった。



 現実を見ることができなかった。



 今までの人生、苦しいことの方が多くて。


 それでも必死にやってきた。



 ほぼ、40年だ。



 必死に、辛い事ばかりの中で生きてきて、ようやく好きな人と…ずっと想いを寄せていた恵麻と結ばれて。



 やっと。


 やっと幸せを掴んだと思った矢先に…


 死んだ?



 …冗談じゃない…ありえない…信じられない…



 …それでも…


 僕の身体がどうなっていようと…


 ここが日本じゃない、どこか辺境の地だったとしても…



 …きっと日本に帰れば…妻の恵麻も、娘のひかりちゃんも、いるから…って…


 …日本にさえ…帰ればって…



 …それだけが、希望だった。


 …信じたかった。


 …2人のいる場所に、帰れるんだって。




 それなのに…




 色とりどりの髪色の少女たち??魔物の素材??



 …何言ってるんだ??意味がわからない…



 魔法に魔道具??夜空には3つの月が浮かんでいる??



 …つまらない冗談なんかやめてくれよ…



 ウィルの見せた、宙に浮かぶ水玉。カーペットに染み込んだ水分を宙に抜き出して、不純物を抽出して見せた超常現象。



 …洋服の中に機械を隠してるんだろう…


 …身体の中に機械を埋め込んでいるんだろう…



 ………



 …そうであってほしかった。



 …けど、心の奥底ではわかってたんだ。



 …ポケットに入るような、そんな小さい機械で…そんな現象、起こせるものかって。




 …ずっと、見ないふりをしてきた。


 …ずっと、自分を誤魔化してきた。




 …でも、もう無理だ…




 知らないフリを続けてたら、何もできない。


 気付かない範囲で行動してたら、何も進めない。



 …僕がなぜセラ(この子)の身体で目覚めたのかは、わからない。


 きっとセラ(この子)は身体を売らされて…傷付けられて…酷い目にあって…もしかしたら…心が…死んでしまったのかもしれない…


 そこに僕の魂が入り込んだとか…前世の記憶を取り戻したとか…理由なんて、全くわからない。



 …だけど。



 地球での記憶があるからこそ、できる事があるはずだ。



 …ボロボロになってしまったジュリは…


 …僕の腕の中で泣いているクルカラは…


 …今、苦しんでるんだから。



 …ここが、地球とは別の、魔法のある、違う法則で動いている世界だとして。


 …たとえ地球じゃない別の、異世界だったとしても。


 …子ども達が身体を売るのが正しい理由なんて、存在しない。


 しちゃいけない。



 少なくとも僕は…認めたくない。



 ………



 僕は、もっとこの世界のことを知らなくちゃ。


 見たくなかった現実でも、ちゃんと見て。


 知りたくなかった真実とも、向き合わなくちゃいけない。



 じゃないと、何も変えられない。



 おかしい事にはおかしいと、理不尽には理不尽だと、声をあげることはできても…それだけだ。


 既に回っている仕組みを、ここの在り方を変えるためには…何故この仕組みになっているのかを知らなくちゃいけないから。



 金儲けのため??


 それも勿論あるんだろう。



 でも、その為だけに、こんな幼いうちから娼婦として教育して働かせるなんて…ありえないし、非効率すぎる。


 …何か理由があるんだ。


 …何か…何かが…


 ………



 …でも、今は。


 目の前の少女を、ボロボロになってしまったジュリを、助けることから始めなきゃ。



 覚悟を決めて、顔を上げる。



 僕を見る世話人の目は、いつだって心配そうな、気遣うような、そんな目だ。


 娼婦としてでも、金を稼ぐ道具として見る目でも、金ヅルを見るようなものでもなく、いつだって僕らを守ろうとしてくれている。そんな目をしている。


 …きっと後悔があるんだろう。それでも仕事だからと、心を押し殺して、仕事をこなしているんだと思う。


 ヨーカが医者に連れていかれ、アイビスが大怪我をしたあの日。


 世話人の握りこんだ手が震えていたのを、僕は見たんだ。


「…せわびと、ジュリをみて」

「…?…ジュリがどうしたんだ?」

「ちゃんとみて。…ジュリ、ぼろぼろ…もう、げんかいだよ…これいじょうむりしたら…むり、したら…」


 これ以上無理をしたら…その先を言うのが怖くて身体が震える。



 きっと…セラ(この子)みたいに、心が死んでしまうかもしれない。



 …それだけは…



「おねがいせわびと…ジュリをたすけて…」

「セラ…ジュリはもうここの娼婦じゃ…」


 今の僕は、無力だ。


 何もできない。


 何かできそうな大人に、頼むことしかできない。


 それでも…無力でも…諦めたりなんか、するもんか。


「ジュリのはたらいてるとこ、なんでこんなに、ジュリをいじめるの??…このままじゃ…ジュリが…しんじゃう…」

「………」


 世話人も思うところがあるのだろう。


 難しい顔で考えている素振りを見る限り、無茶なお願いでは無いはずだ。


「ジュリがおかしくなっちゃったのも、はたらきすぎたせいだよ…」

「…いや、それは違…」

「おねがい!!いつか…せめてみっかだけでも…ジュリがおやすみできるようにしてあげて!!せわびと!!おねがい!!!」


 世話人はなにか言おうとしたが、はぁとため息をつき、僕の提案を受け入れてくれた。


「…確かに、ジュリがボロボロなのは事実だ。提案はしてみる。…だが、どうするか決めるのは、向こうのオーナー次第だということをわかってほしい。…俺に決定権はないんだ…」


 そう言うと、世話人は交渉のためすぐに部屋から出ていった。


 ジュリに迎えが来ていることは聞いていたが、どうやらジュリの務めている娼館のオーナーが自ら迎えに来ていたらしい。


 世話人は何度かこの部屋とオーナーの元を往復し、話し合いの末、ジュリは数日ここで休ませてもらえることになった。


 最初は帰ってしばらく仕事を休ませる…という話だったのだが、ジュリが僕の傍がいいと主張して聞かなかったのだ。



 世話人は大反対していた。


 ジュリも怒鳴り声を上げて1歩も引かなかった。



 ジュリは椅子にぐるぐる巻きにされているというのに、それをハンデに感じさせないだけの迫力があった。


 それはもう、見ているだけのこっちが引いてしまうほどに…クルカラと2人で抱き合い、震えながら嵐が過ぎるのを待つような心境で成り行きを見守っていた。



 ジュリと世話人の激しい口論の末、決まった内容はこうだ。


 ・基本的にはこの部屋で大人しく過ごし、みんなのいる小屋には行かないこと。

 ・僕と一緒の時は大人しく両手両足を拘束されていること。

 ・拘束中のお世話は全部僕がすること。

 ・夜寝る時に一緒に寝るかは僕の判断に任せるが、毎日世話人の許可をとること。



 上2つは世話人の、3つ目はジュリの主張で、最後のは…僕と一緒に寝たいと主張するジュリに対し、世話人が条件を追加したような形だ。


 話がまとまった頃にはもう夕方になっていたらしく、僕たちはちょっとした休憩とご飯を、ジュリはオーナー達と話したり水浴びをしたりの所用を済ませるために、一度この場を解散することとなった。


 今日の夜は久々にジュリと一緒に寝る予定だ。



「ジュリ、またあとでね…」

「ええ…セラ…ありがとう…ありがとうね…」



 別れる前に、椅子にぐるぐる巻きに縛られたままのジュリの頭を軽く抱き寄せる。


 目の端に涙を滲ませながら、嬉しそうにありがとうを繰り返すジュリの様子に、一先ずどうにかできて本当に良かったと胸の内が温かくなった。



 ………??


 …そういえば…


 椅子に縛り付けられたジュリの手には僕の無数の髪の毛が握り込まれたままで、そこだけ異様にグロテスクな様相を呈していた。


 きっと握りこんだ手を解く余裕も無いほど、ずっと気を張っていたに違いない。



「これ、かみのけ…ばっちいよ」

「えっ!?あっ、その…大丈夫よ!?私、これから縄を解いてもらえるから自分でできるわ!!それよりセラは早く戻って、少し休んだ方がいいんじゃないかしら。ご飯を食べて、それからまたここに来て??ね、お約束」


 ほろってあげようとしたが、ジュリに自分でできると言われてしまった。


 妙にあわあわしていたけど…長時間強く握りこんでいたから、手が固まっちゃったのかもしれない。


 ジュリも弱いところはあまり見せたくないのだろう。僕は見た目こそ子どもだが、中身は気遣いのできる大人なのだ。


 ここはジュリの意を汲み、そっとしておいてあげよう。


???「…こっちにも…あっ、あっちにも…あぁ、綺麗な深い紫…帰ったらセラ人形が…もっと…ふわふわに…うふっ……ふふふふっ……」


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