表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
過保護な龍王と魔界の姫  作者: 猫まんま
仮面の男と、紅の姫
4/23

過去回想2

見直してみたら……驚くくらい間違いがありました。特にキャラクターを間違えるのは……。

他にも間違いがあるかも知れないので、見つけたら教えてくれると嬉しいです。

 

 龍弥の心臓が一瞬にして、凍りついた。


「龍弥、来てるの?」

「英梨……?」

「イタッ!」

「ああっ!」


 耳に入ってきたのは、幼い頃から聞いていた声。成長して声の高さも僅かに落ち着いたのか、記憶していたものとは微かに違うが、それでも彼女だと分かった。

 思わず両手に力を込めてしまい、愛衣が悶え、茜が何故か喜色の入った声で叫ぶ。


「あっ、ごめん!」


 愛衣を掴んでいた方の手を放してしまうが、痛みから逃れるためか重心を前にかけていた愛衣は、そのまま前に倒れそうになる。


「危ない!」

「ヒャンっ!」


 慌てて彼女を助けようと、愛衣の下敷きになるように龍弥は体を無理矢理入れようとしたのだが、右手が茜を掴んだままだったのを完全に忘れていた。

 スルリと手が外れたから首を掴んだまま後ろに引っ張るようなことにはならなかったが、代わりに着ていた白いワンピースの肩紐を引っ張ってしまう。


「「「あ」」」


 ドタン、と大きな音を立てて、三人は倒れこみ……。


「うっ……頭打った……。なんだ、これ?」

「あ、そ、それは……愛衣の……ヒャアッ⁉︎ 駄目です! や、やめてくだ……アアッ!」


 左手には、小ぶりな限りなく柔らかい感触が。


「あ、あのね。りゅ、龍弥君がさっきから触っているのはね? わ、私の……」

「………?」

「あっ……くっ……ううっ……やめ……そこは駄目ェ……」


 右手には、手に収まりきらない大きさの、柔らかくしかし弾力のある何か。

 何やら悩ましい声に挟まれ、しかし頭を強く打ったせいか、龍弥は自分が何をしているのかに気づかない。


「ほ、本当にいるの……!」


 龍弥が現状を把握したのは、階段を駆け下りる音が聞こえてきた辺りだった。


(流石にヤバイ……!)

「あっ…………んんっ…………」

「ハァ……ハァ……」


 龍弥の首に抱きつくように腕を回し、龍弥の体にしがみつく愛衣は、既に何かが開発されつつあり、茜は既に息も絶え絶え。


「これが、龍弥君の…………硬く、なっ、んんっ……」

「ちょっ、何触ってんの!」


 若干お互い様な先輩もいるが。

 二人の少女に同時にセクハラをかますなど、社会的死で済めばまだいいレベルだ。

 男としての死は勿論だが、圧殺死と、生物的にも危ない状況だった。


「本当にいるの!? 龍弥!」

「いないよ!」

「? 思い切りいるけど……?」

「ウオォォォォォ! 俺の馬鹿野朗ォォ!」


 叫んでいる暇があればさっさと止めろと思うかもしれないが、それはそれ、これはこれ。

 そもそも手が吸い付いたように離れず、不規則的に絶え間なくに動く両手は、最早自分でも感心してしまうほどだ。


「ひ、久しぶりっ! 龍……何してるの……?」

「え、あ、いや、これは、その…………」


 明るかった表情。一瞬にして、それが死んだ。

 左手には水色髪中学生のお尻を、右手には黒髪美少女の胸を持った大富豪を、雪浜英梨はゴミを見るような視線で睨みながら、静かに尋ねた。

 いつも、どこか眠たげな眼が、今このときは険しいものになっていて、そこに茜と愛衣は恐怖する。

 控えめだが確かにある胸、小振りな尻に細い足腰。小柄と、そう言えば分かりやすいか。

 輝くような色白の肌に、腰まで伸びた真紅の髪。瞳は幻想的な同じく紅。その眼を覗き込めば、もう戻ってこれない、そう感じるほどだった。


「誤解だ!」

「ん……誤解、これが……?」

「ですよねー」


 慣れていないのか、顔を真っ赤にしながら英梨が言うのを見て、龍弥は自分の人生を振り返る。


(これが人工走馬灯か……)


 思えば、年齢=彼女いない歴の龍弥はこれまで、浮いた話など一つもない。

 里から追い出されたことで、それどころではなかったのもあるが、自分の周りの女子の記憶が十二歳までなのは流石に涙腺がヤバイ。

 一応義理の妹もいるのだが、彼女とは十五歳になる年の初め、つまり里から逃げ始めて三年後、これから一人で逃げることを伝えたら泣きながら大嫌いと言われた上、そもそも家族なのでノーカウント。

 龍弥は妹として見てないが、それは別に道徳的な話でなく、何故義理の妹となったかに少しややこしい話があるだけで、そういった類のものではない。

 十二歳、男子以上に、既に女子は完全に女になっているのだが、そのことは勿論男の龍弥には分からず、俺は高校一年まで生きてきて好きな子一人いなかったな……と自嘲する。


(あ、いや、そう言えばこいつは少し違ったかな)

「……変態のくせに、何か言いたいことがあるの……?」


  急に見られてたじろぐ英梨だけは、義妹を除けば、龍弥にとって大きく特別な存在である女の子だ。

「あー、いや、その、なんだ」


 これは言っていいものなのかと悩み、逡巡する龍弥。


「……遺言なら言っていい……」


 どうやら死刑は確定しているようです。

 まあ、手は動かしていないが、未だに触っている時点で当たり前だが。

 羞恥で首元に顔を埋めて熱い吐息を吹きかけてくる水色髪と、自分の手を龍弥の手に重ねて目を瞑る茜のせいで、どんどん龍弥の株が下がっていく。


「なら言うけど……。お前、本当に綺麗になったよな。昔から可愛かったけど、それ以上に可愛くなってるよ。正直、今も心臓がドキドキしてる。四年ぶりか……」

「…………ッ! き、急にそんなこと言うなんて反則……」

「え、ええ……?」


 拳を握り、ワナワナと震える理由が分からない。

 赤い顔を見るに怒っているようだが……。


「どうやら結果は決まったようね」

「正直、私達にも悪い点はありましたし、因果応報として諦めます。……折角見つけた師匠ですし……」

「あら、彼はそこまで良かった?」

「はい、あそこまで底が見えない人は初めてです。吸ってみたいですね。それより、茜先輩もそうなのではないですか?」

「それは勿論よ。現に今も胸を触られているのに、こんなにドキドキしているんだもの」

「むう……ことこの話で茜先輩と同じなのは納得がいきませんね……」

「……そ、そこももう少し抵抗するべき!」


 抵抗しないということは……みたいになって減刑になることを期待する龍弥。

 最低だとは思うが、皆こんなもんだ。

 しかし、勿論そうはいかない。


「英梨さん。残念ながら私達はご主人様に抵抗すらできない体にされちゃったのよ……」

「もう師匠なしでは生きていけませんね」


 よく分からない単語は聞こえたが、そう言いながらドサクサに紛れてセクハラをかましてくるこの人に気づかないのかと龍弥は思う。


「誤解なんだ…………」


 頬擦りする自称弟子と、自分の胸に触れる龍弥の手を優しく握る黒髪の先輩。

 何よりも決定的なその状態を見る英梨の目から光が失われていくのを見ながら、龍弥は心の底から無実を訴える。


「……立って、龍弥」

「嫌だ」

「……やっぱり結局嬉しいんだ。ふん、そうだよね。こんな可愛い女の子二人に挟まれて、龍弥みたいな恋愛経験のない男の子が、喜ばないわけないよね……」


 実際は違う理由(具合的には生理的現象を引き起こしているため立ち上がれない)言ったのだが、どうやら勘違いされてしまったみたいだ。そして、若干傷付く発言である。

 棘のある発言だが、英梨の表情はどこか寂しげで、悔しさと涙を堪えるように下唇を甘噛みしていた。瞳には、粒が浮かんでいた、

 かつての旧友がここまで落ちぶれたダメ人間になってしまったのが、そこまで英梨にとっては耐え難いことなのか。

 勿論、誤解だが。


「恋愛経験くらい俺にだって……」

「……龍弥、あるの……?」


 不安そうな眼差しで、尋ねる英梨。


「…………無い……です……」

「……………………(良かった)」


 本当に小さく言った声は、龍弥どころか、愛衣や茜にも届くことはなかった。


「「…………」」


 しかし、その唇の動きと、何よりいつも眠たそうな眼を嬉しそうに細めていて、茜と愛衣はそこで全てを察した。


「で、でも、それはそれ。ちゃんと相応の報いは受けるべき」

「相応の報いか……」


 勿論龍弥はダメ人間ではないなのだが、久しぶりの再会なのに、怒らせたり悲しませたりするのは本意ではない。

 揶揄(からか)ったり、弄るのは好きでも、それで相手を泣かせて仕舞えば本末転倒。

 自分はそこまでドSじゃない。


「……」

「「…………」」


 龍弥の放つ空気が一変したことを感じたのか、真犯人達は潔くその場から動く。

 重し(そこまで重くはなかったが)がなくなり立ち上がった龍弥は、どうしたものかと拗ねてしまった英梨へと歩いていく。


「……何……?」

「いや、その、ごめんな」

「…………」


 戦犯二人が正座で見守る中、本来言う筈だったセリフを吐こうと、口を開く。

 だが、その言の葉が紡がれることはなかった。


「……どう……」

「え?」


 ボソリと呟いた英梨の言葉が気になって、思わず聞き返してしまう。

 すると、英梨は決心したようにキッと顔を上げ。


「わ、私は約束を守れている……?」


 それはかつてした約束。

 小学校にも入らない頃にする『結婚しよう』くらいの、本当に気軽な約束。

 マラソン大会での『一緒に走ろうぜ』くらいの、守らないこと前提の約束に近い。

 あれはまだ英梨が十二歳になったばかりの頃か、龍弥が里を追い出された直接的な原因と関わりがあるのだが、英梨は家族と共に里を出て行くことになった。

 お別れしたその後、戻ってきた英梨は龍弥の頰にキスをして『私はお母さんみたいに綺麗になる。だからその時は龍弥が迎えに来て欲しい』と、ませた子供らしいことを一方的に言って、そのまま走り去ってしまったのだ。

 放心状態になっていた龍弥は、里から勝手に抜け出しているのを大人に見つかって、その後こっ酷く叱られた。

 約束とは言えないほど、一方的な約束。

 だが、修行を終えた龍弥が最初に来ようと思ったのが、家族のところではなく此処である時点で、それは約束として機能している。


「……り、龍弥の好みも分からないから、化粧もしないしアクセサリーも着けないで、一番お気に入りの…………って、そうじゃなくてぇ……」


 何も喋らない龍弥に何を思ったのか、自分の葛藤や悩みを話す英梨に、思わず頰が緩んでしまう。

 約束。

 英梨のお母さんは、大人っぽい感じの美人だったけれど。

 それに対して、英梨はこの年になっても昔の別れた時の姿のまま。ほとんど成長していないからか、そのような色気と呼べるものはあまりない。

 英梨の服は、ノースリーブのホワイトシャツに膝上丈のスカート。ボタンを留める所や襟口に、控えめなフリルが付いている。

 隠さず手を後ろで組んでいるが、恥ずかしいのか頰が紅潮している、

  約束を果たしてるかと言えば……。


「さっきも言ったけど、綺麗になったよ。こんな美少女が自分のために何かを頑張ってくれるなんて、これで喜ばない男はいない。アクセサリーも、化粧をしていないところも俺的にポイント高いし」

「…………! べ、別に龍弥のために悩んでいたんじゃなくて、ただこれから一緒に住む男の子に変な格好で会えないと思っただけ。そ、そもそも、来るのが龍弥だとは思ってなかったから、龍弥のために用意する時間なんてなかったもん!」

「つまり、時間があれば用意していたということかしら?」

「〜〜〜〜!」


 言葉では勘違いするな! と言っているが、緩みきって赤くなった頰が英梨の喜びを表している。

 前屈みで抗議する英梨は、もともとの身長差もあってか、上目遣いにならざる負えない。

 しかし、嬉しさで広角が上がりそうな口元、下唇を噛み、拳を握った両手も歓喜に打ち震えていた。

 しかし、英梨が気恥ずかしさで顔をすぐに伏せて、龍弥が自意識過剰だった気まずさで目を逸らしていたせいで、龍弥がそのことに気づくことはなかった。


「夜叉堂という名字は少ない。やっぱりもしかして? とか言って、鏡の前でずっと悩んでいたのは何だったのかしらね……。成果が出たようで良かったけれど」

「頰を赤らめて、緩めて、あれだけ頭の中でシュミレーションしていたのに、既に予定と違いますね……」

「思ったことはズバッと言いそうなのに、以外にチキンなのね。彼女」

「いつも冷静で、そう取り乱すことはないと思っていましたが……やっぱり、分からないものですね。あれが、彼女の地なのでしょうか?」


 正座で見守る二人がそんな会話を交わしていることなど露知らず、復活した英梨は「と、とにかく!」と話を強引に進める。


「わ、私は約束を果たせていた……?」


 気恥ずかしさで顔を赤らめ、上目遣いの英梨が可愛い。

 ちゃんと肯定してもらえないと心配なのだろう。

 こうして改めてゆっくり見てみると、自然な紅の髪は魅力的だし、もう夜にも関わらず、ただ一人の出迎えにまるでデートのような服装をしてくれているのも面白い。

 自分のためではなかったが、家に来る男子のためにこうして服装で悩むのも可愛いし、容姿はかつてよりも成長しているわけではないが、こうしたセリフの一つ一つに籠った破壊力は決して半端なものではない。

 むしろ、その熟す途中というか、未成熟の体が彼女の美点であり、矛盾しているかもしれないが、そこに色気がある。


「……や、やっぱり似合わない……?」


 どこか寂しそうに苦笑いする姿も可愛い。


「自信なさげですね」

「むしろご主……龍弥くんは放心状態で絶句していると思うのだけれど」

「……師匠へのアピールは、せめて後一カ月くらいしてからお願いします」

「わ、私だって、嫌われたくないから言うことなんて出来ないわよ……。そもそも、さりげなく自称弟子になっている貴方がよく言うわね……」

「自称とかちょっと何言ってるのか分かりませんが、嫌われたくないとかそういうところは真面目ですよね。……あの、それよりもそろそろ正座きつくないですか?」

「そう? むしろ興奮するのだけれど。ご主人様直々に与えられた罰……! しかも罰のことすら忘れて、目の前でイチャつかれるなんて……! ありがとうございます……!」

「あ、はい。貴方に聞いた私がバカでした」


 完全に傍観者の立場に立つ茜と愛衣は、二人が自分達の世界に入っていることをいいことに、ガールズトーク(これをそう呼んで良いのかは不明)を繰り広げている。

 二人に反省の色は見られず、もし龍弥がこの会話を聞いていたのなら、後でお仕置きは免れない(茜は喜びそうだが)。

 しかし龍弥にとっては残念なことに、この二人の不穏な会話を聞いておらず、目の前の問題に頭を働かせていた。


「ん……私なりに、頑張ってみたつもり。だけど……。ごめん、龍弥、変なことを聞いた。私、少し着替えてくるから」

「あっ、ちょっ……」


 そう言って笑う彼女が、何かを我慢しているように見えるのは気のせいだろうか。

 部屋から逃げるように出て行く英梨の目の端に、ジワリと涙が溜まっているように見えたのは見間違いか。


「おい、待てって!」


 行動を起こすのに数秒、現状を理解するのにあまりにも時間がかかり過ぎた。

 たった数秒、されど数秒。


「やっと、会えたんだ。この日をどれだけ待ちわびたことか……!」


 慌てて部屋を飛び出し、階段を二段飛ばしで駆け上がる。


「なんか、良いですね…………」

「ええ、羨ましいわね…………」

「「頑張って(ください)っ」」


 そんな二人の声は龍弥には勿論届かない。

 しかし、何かに背中を押された気がした。


(英梨の部屋は上がって右手二番目!)


 愛衣の言葉を思い出して、他の部屋は見向きもせずに英梨の部屋へと向かった。


『護衛魔術師は意志を継ぐ〜主人は王女だがありふれた青春を希望したい〜』

という異世界ものも書いてます

N2162FU

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ