過去回想3
(英梨の部屋は上がって右手二番目!)
愛衣の言葉を思い出して、他の部屋は見向きもせずに英梨の部屋へと向かう。
「英梨!」
そのまま英梨の部屋へと、突入する龍弥。
女の子らしい部屋がどんなものかは分からないが、きっとこんな部屋なのだろう。
「…………あっち行って」
そして、英梨は自分のベッドにうつ伏せで倒れ込んでいた。
折角考えに考えて選んだ服の筈なのに、これでは皺が付いてしまう。
英梨の言葉には従わず、ベッドのすぐ脇へ歩く。
もともとベッドが大きいからか、英梨が小さいからか。やけに大きく感じるベッドに、英梨は顔を埋め、足でベッドをポスポス蹴っていた。
「顔を見せてくれ、英梨」
「んんっ…………」
顔を枕に埋めたまま、フルフルと首を横に降る英梨。
ベッドに来たは良いものの座る所がなくて、椅子を机から取るのも決意が鈍りそうで困る龍弥。
「……ベッドに座っても良い……」
「いや、でも……」
自分の部屋のことは自分が一番分かっているのか。見なくとも英梨は龍弥が困っていることを察知して言ったのだが、流石にそれには龍弥も躊躇してしまう。
「……あの時はよくしてくれたのに……?」
「む、昔は昔だろ……? 今は、その……」
「むう…………」
そう唸ると、ベッドを攻撃していた足を止めて。
枕の下にやっていた手を伸ばして、龍弥の服の裾を掴みながら、英梨は意を決したように。
「私、龍弥のせいで傷ついた。……龍弥に、あ、頭を撫でるくらいされてもバチは当たらない……っ」
「……うっ…………!」
「わ……わ、私がして欲しいの……!」
「…………!」
「龍弥…………して……?」
甘え上戸のようになっている英梨が顔を埋めているのは、泣きそうな顔を隠したいのもあるが、恥ずかしいからでもある。
そのことになんとなくでしか気づいていない龍弥だが、女の子にこんなことを言われるなど勿論初めてだ。
痛い所を突かれたのと、その予想外の可愛さに、反論することも出来ず、ゆっくりとベッドに腰を下ろした。
ベッドが小さく音を立て、英梨がピクッと肩を震わせたのだが、反対側を向いていた龍弥は気づかない。
「何も言えなくてごめん」
「ううん、もう良い……。私も少し興奮しすぎていたから。でも、やっぱり少し辛い。龍弥に認めてもらえなかった……! う……うぅ…………」
「…………」
言われた通り英梨の頭を撫で続ける。
膝裏まで伸びる真紅の髪はとても触り心地が良く、このまま油断すれば、髪にそって背中やお尻とかも撫でてしまいそうだ。
女の子の頭をその子の部屋で撫でるなど、夢にまで見たようなシチュエーションだが、不思議と邪な気持ちは湧いてこなかった。
そして、泣きそうになっていた英梨が落ち着くまで、英梨の艶やかな髪を堪能する。
「……そのこと、なんだけどさ。今から、思ったことを言ってもいいかな?」
「……なんか他人行儀」
「うっ、ごめん」
邪な気持ちは湧いてこなかったとはいえ、流石にドキドキはする。
なんで頭を撫でるだけなのにこんなに気持ちいいのだろうとか、無理矢理仰向けにさせたら怒られるよなとか。
雰囲気が落ち着いたというか、クールな感じになって。
幼馴染だった頃と変わらない筈なのに、具体的にどこが変わったかなんて言えないけど、さらに綺麗になって、内心では物凄く緊張しているなど、言える筈もない。
「でも…………いいよ?」
「〜〜〜……!」
こうして無自覚に理性を飛ばそうとしてくるのも、心臓に悪い。
なんとか動揺を出さずに済んだが、このまま黙っていてはまた同じことだ。
「約束は……果たせてたよ。むしろ迎えに来る俺の方が釣り合わないくらいだ。ずっと、待っててくれたのか?」
「うん……待ってた」
「本当に、綺麗になったよな……」
「〜〜〜〜!」
頭を優しく撫でていると、ゆっくりと英梨が起き上がる。
顔を隠していたのだから、起き上がったとはいえ、龍弥は許可がある前に見るようなことはしない。
行き場の失った手を体の前に戻し、英梨の行動を待っていると。
「……あの、英梨さん?」
「顔、見られたくないもん」
「見ないって……」
突然、背中に柔らかい何かの感触を感じ、腰に細い腕が回され、熱い吐息を感じた。
英梨がお尻をベッドにペタリとつけるように座って、その状態で龍弥に後ろから抱きついていたのだ。
龍弥としては先程茜と愛衣のせいで吹き飛びかけた理性が、この台風に耐えられる筈もないのでやめて欲しいのだが、事態はさらに悪化する。
「な、なら、少し目を瞑ってて?」
「……こうか?」
「……そう。いい? 絶対に開けちゃ駄目。絶対だから。……開けないで……?」
「あ、ああ」
背中から温もりが消えて、残念がってしまった自分を殴りたい気持ちになりながらも、これからどんなことが起こるのかドキドキする。
(あれ、種族解放してる?)
と、そこで龍弥の危険察知センサーに反応が。
この命あるものとして、格の違いの感覚。明らかに、目の前で誰かが種族解放している。
(え、まさかここから処刑ですか?)
解放時特有の気配を感じて、甘い雰囲気なんか関係なく本当に死刑になるのかも知れないと、恐怖を感じ始める龍弥。
龍の里にいたとは言え、英梨は龍の血を引いていない。
(ああ、これを伝える時が来たのかな……)
「…………んっ…………」
突然、身体の前の部分に軽い衝撃とともに、女の子が抱き着いてきた。女の子とは、勿論英梨のことだ。
間に挟まるのは、控えめだがそれなりにある胸。
しかし、それでもやはり十二歳くらい、発達し始めた頃を基準にすると、平均より少し大きいくらいだ。実年齢、高校一年生として考えると……。
(いや、そもそもなんだこれ!?)
「え、英梨!? おま、急にどうしたんだ!?」
「……み、見ないでって言ったのにぃ…………」
あまりのことに、思わず目を開けてしまう。
すると、そこには顔を羞恥に真っ赤にした英梨さんが上目遣いで龍弥を見上げていた。
なんという破壊力。
自分が恥ずかしいことをしている自覚があったのか、紅の瞳が徐々に潤んでくる。
紅の瞳は、深く、深く、覗き込めば覗き込むほど引き込まれていくようで――
「…………龍弥?」
英梨が、龍弥の異変に不思議そうに首を傾げる。英梨は今、ベッドの縁に座る龍弥の股の間に身体を入れて、膝立ちになって抱き着いているのだ。
そんな状況でそんな可愛らしい仕草をされては、より一層目が離せなくなるというもので。
龍弥の手が、華奢な英梨の背中に恐る恐るというように回される。
そのことに英梨は、少し顔を赤くしながらも満更でもないようで「……ん…………」と自分からも、龍弥をさらに強く抱き締め返す。
すると、英梨の腰に回されていた龍弥の左手が徐々に下へと降りていく。肩ごと抱き締める右手は英梨を離さないと、さらにその力を込め。
「ピャ!?」
龍弥の手が、英梨を強く引き寄せた。
ただ、それだけ。
「ごめん、英梨……」
龍弥は英梨の名前を一つ呼ぶと、床に膝立ちになる英梨を持ち上げ、自分の右膝の上に横座りにさせた。
そして、そのまま強く抱き締める。
「はうぅ…………」
英梨がこれ以上ない程、羞恥で顔を紅くさせるが気づかない。
そのまましばらくの間抱き締めていると、英梨の方からも恐る恐る抱き返してきた。最初は腰が引けていた英梨だったが、さらにしばらくそのまま相手の身体を全身で感じていると、徐々に緊張も解けてきたのか。
「エヘヘ…………」
猫のように喉をゴロゴロ鳴らしながら頬擦りをしてくる。
胸に、自分を抱き締める腕に、首筋に、そして龍弥の頬にも。
あまりにも可愛らしくて、「フー」と龍弥が英梨の耳を優しく吹くと、「フニャァ…………」と力が抜けた悲鳴を上げ、躰がピクッと一瞬震える。
そのまま、耳を甘噛みしたり、息を吹き付けたり、脇腹を小突いたり。
英梨の方は、頬擦りは勿論のこと、吹っ切れたのか龍弥の首筋にキスまで始めた。まるで吸血鬼のように長い時間甘噛みのキスをして、ペロリと赤い舌を出すその姿は見ていて目が奪われる程妖艶で。
「英梨…………」
そして、龍弥の顔と英梨の顔が近づき、お互いのシルエットが重なる瞬間、
「匂いがあったけど、や、やっぱり催淫効果が出ているわね。止まりなさい、龍弥君、」
「師匠! それより先は駄目ですよ!」
「イタ……ッ!」
二人が入ると同時、英梨を抱き締める腕にピクリと一瞬力を込めてしまった龍弥。それに、英梨が苦痛の声を漏らす。
だが、その英梨の声により、龍弥は正気に戻った。
「あ、あれ? なんで二人がここに? そ、それよりも英梨は……って、ええ!?」
「龍弥、エッチ…………」
同じく、痛みで正気になったのか、龍弥の膝の上で、英梨が顔を赤く染めて呟いた。
「催淫効果、魅了効果は初めてだったから、覚えてないのも無理はないわ」
「しかし、本当にすごいですね。英梨さんも使えたんですね。魅了と催淫。相手は限定のようですし、勝手に発動しちゃったみたいですけど」
茜が聖母のような微笑みで、愛衣が何かニヤニヤしながら、龍弥を見る。
「ええ、本当に何が?」
何があったのか分からない龍弥は、自分が何かとんでもないことをしていたと理解しているのだが、それにしては二人の対応が優しく、本当に理解不能。
「龍弥のバカ…………」
分かるのは、幼馴染が可愛いということ。




