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過保護な龍王と魔界の姫  作者: 猫まんま
仮面の男と、紅の姫
20/23

代償を伴う治療1

 

「…………少し前置きが長かったが……これはかなり重要なことなんだ。朧については……後で話すよ」

「「「…………」」」


 下手な隠し事、無意識に真実を隠してしまう事を避けるため、龍弥は直接関係のない事まで全てを話した。

 英梨、愛衣、茜。三人の娘は、それぞれがそれぞれの思いで口を閉ざし考え込んでいる。


 愛衣と茜は、英梨の病──魔力回路成長遅延症について思考を巡らせ、そして英梨は自分の知らない女──朧について嫉妬心のようなものを抱いている。


 だが、英梨のその感情に龍弥が気付くことはない。


「…………師匠は、魔法型だったんですか?」


 愛衣が、何よりもまず気になった事を龍弥に問うた。

 茜もそれは気になっていたようで、龍弥をジッと見つめている。


「……ああ、神童だとか、龍神の生まれ変わりだとか、色々言われていたよ」

「それでは……何故魔法を使わないのですか?」

「それは…………」

「いい、龍弥、私が話す」


 龍弥が再び話を始めようとしたその時、何事かを考え込んでいた英梨が顔を上げて言った。


「それじゃ、頼むぞ、英梨」

「うん。任せて」


 英梨は一つ深呼吸をし──


「龍弥が居なくなって二ヶ月。私の余命最後の日の事だった────」


 ♦︎♦︎♦︎


 龍弥が行方不明になって二月経った日の夜。

 私は、ふと目が覚めて外を見た。

 そして、空に浮かぶ月を見て、歯をくいしばる。


 月が、満月なのだ。

 満月なのだ。あの日、彼が行方不明になった日と同じ。

 魔力は、月のサイクルと、深い関わりがあるの言われている、

 私は、次の満月の日に、魔力が暴走する予定だっだ。


 そして今日、その日が、やってきてしまった。


「あっ…………」


 窓の外を何かが通った。

 死神だ。

 死神がやってきたのだ。


 聞いたことがあった。

 その黒衣の死神は、細い二本の刀を振るい、光のような速さで命を奪っていくのだとか。

 ああ、私はここで死ぬんだな。

 そう子供ながらに感じた。


「ごめんね、龍弥…………」

「呼んだ?」


 だから、彼の声が聞こえてきたとき、私は思わず泣いてしまったのだ。


「お、おい。なんで泣く? 俺、何かしたか?」

「ううん、違うの、嬉しいの」

「あ〜〜もしかして、俺が死んでいたと思っていた口か?」

「口? 私って口なの?」

「あ、いや、そういうことじゃなくて……」


 どうしたものかと思案顔の彼が、面白くて、意味は分からないけど、きっと彼のことだ。私を励まそうとしていたのだと、そのくらいは分かった。


「どうして、来たの?」

「そうだね……」


 少し考えた後、彼はニヤッと笑って言った。


「俺の気が済まないから、かな。目をつぶって英梨。里の奴らが治せないのなら、俺が直してあげるよ」

「治すって……どうやって……」

「俺の魔力回路をお前に渡す。まあ、正確には違うけど」

「そ、そんなこと出来ないよ! それにそんなことをしたら、龍弥は魔法が使えなくなっちゃう! あんなに魔法が上手なのに!」


 龍弥は、魔術師だった。

 里一番とも、歴代最高とも噂されるくらいの。


「そんなに強いのに……駄目だよ」

「……」

「魔法が使えなくなっちゃう……」

「英梨」


 強い眼差し。

 そして。


「だからどうした。女の子一人守れないようじゃ、こんな力はいらない。それに……いや、なんでもない」


 急に言葉が変わった。

 いつになく真剣な表情。

 彼に任せていれば、きっと全て上手く行くのだと、私は頷いた、


「速さが、速さが一番ここでは重要……」

「速さ?」

「ああ、お前を守るのに、俺は速さと技術だけを磨くと決めたんだ」

「ふふ、変な人」

「知らなかったのか? 夜叉堂龍弥は里一番の変人なんだぜ?」


 龍弥は安心させるようにニコリと笑って……そこで、私は異変に気が付いた。


 お父さんとお母さんが、居ないのだ。

 最後の日くらい、と一緒に居てくれたお父さんとお母さん。私が眠る前、確かに手を繋いでいた筈の二人が、何故か居ない。


「お父さんとお母さんは?」

「少し、ある物を取りに行ってもらって……ああ帰ってきた」

「?」


 私を安心させる穏やかな笑みを浮かべて話す龍弥が、部屋の扉に目を向けた。


「龍弥君! 言われた通り持ってきたよ! 月の光を集めた鏡だ…………って英梨!? いつの間に起きて……!」

「まあまあ、龍弥君がいるんですから、そういう事でしょう? はい、龍弥君。拘束の魔法陣が描かれたスクロールでございますよ。でも、龍弥君が魔法を使えば良いのでは?」


 驚愕に目を剥くお父さんの手から鏡の破片を、頰に手を当てて首を傾げるお母さんの手からスクロールを受け取った龍弥は、その質問に答えず二つの物を確認していた。


「もしかして……これじゃダメでございましたかしら……?」

  「いえ、このレベルの拘束魔法でしたら十分だと思います」


 龍弥は満足そうに頷くと、懐から小さな何かを取り出して、口に含んだ。

 月の光と逆光になっていて、その塊が何かは分からなかったが、次の瞬間龍弥がビクンッと大きく痙攣した。


 だが龍弥は何事もなかったかのように、呆気にとられる私の方を向いて、私の頰に手を当てた。

 お父さんが「あっ」と叫ぶが、直後にお母さんに腹を殴られて悶絶している。


「龍弥……何を……?」

「ごめん、英梨」

「? …………ッ」


 次の瞬間、龍弥の顔がすぐそこにあり、私の唇は彼の唇と触れ合っていた。


「…………????」


 混乱する私。

 自分達が何をしているか…………キスだ。


「…………ッ!!!」


 キスをしていると理解した私は、咄嗟に龍弥を払い除けようとして……


(身体が……動かない……!?)


 石化したかのように、身体がピクリとも動かなかった。

 これは、お母さんが用意した拘束の魔法の仕業だ。


「…………ッ?」


 私の口の中に、龍弥の口から何かが押し込まれた。

 そして、その次の瞬間…………


「!!!」


 身体が、燃えた。

 いや、勿論実際に火を出したわけではないが、燃えたと言っても過言ではない熱が、身体中に広がった。

 全身が強烈な痛みを発し、目には涙が滲み、吐きそうになる。


「…………上手くいきそうだ」


 龍弥が、唇を離して行った。


 長い時間息を止め、全身をナイフで突き刺されたような痛みが走っている私は、荒くはしたない息を止められない。

 痛みとは違う原因、最愛の人の前でこんな自分を見せる羞恥に涙が出た。


「「…………」」


 お父さんとお母さんは、唖然としているのか、それとも先に伝えられていたのか、私が龍弥とキスしたことに騒ぐ様子はない。


「それじゃあ、次だ」


 そう言うと、龍弥は手に持つ鏡の破片で自分の首筋の辺りを切った。


 血が溢れ出し、苦悶の表情を浮かべる龍弥。


「英梨……この血を舐めてくれ」


 聞きようによっては変態的な要求だったが、私は迷わずそれに従った。

 拘束の魔法は、先程の痛みに私が暴れないためのものだったのだろう。既に身体は動けるようになっていた。


「んっ…………」


 龍弥の熱い血が口の中いっぱいに広がり、それを一度に飲み干すと、一瞬であの堪え難い痛みが引いていった。


 それと同時に、全身が熱くなる。

 体内の魔力が突然活性化し、その魔力の流れが身体の奥から体外に溢れ出そうとする。


「んんっ…………!」


 自分が死んでしまうのだと理解し、最期に龍弥を感じようと手を伸ばした私の首筋。


 そこに、何か鋭利で冷たい感触があった。


「龍弥……?」

「ごめん、英梨」


 冷たさが、一瞬で熱さに変わった。


 ドクドクと血が溢れ出した。

 だが、あまりに大きすぎる痛覚に脳が麻痺しているようで、痛みは感じなかった。


「あ……え……?」


 呆然とする私の首筋に、龍弥がさっきの私と同じように口付けをする。


「………………ッッ!!!」


 そこで、今日一番の痛みが私を襲った。


 あまりの痛みに暴れる私をそのまま後ろ──ベッドに押し倒し、龍弥は無理矢理首筋の血を吸う。


 目をギュッと強く閉じ、下唇を噛み締めてその痛みに堪える続けること数分。


 龍弥がゆっくりと離れ、私の感じていた痛みも徐々に引いていった。


「…………終わりました」


 龍弥がそう呟いたのを最後に聞き、私は深い眠りに落ちていった。

 

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