洞窟での地獄[1]
ここまで読んでくれている方に、
「遅れてすみませんでした!」
「くっ……『魔力眼』開眼……!」
眼に映った映像は、右前方から振るわれる凶爪。
が、しかし俺は。
「ヘルファイヤ!」
背中側に向けて、俺が使える中で一番高火力な魔法を放つ。
当然、前から襲いかかる爪は俺の首を切り裂こうとするが……
「幻影はもう通じねぇぞ!」
その爪は幻影。
何度も騙された技だ。さすがに、これ以上この魔獣に傷を負わされることは避けたい。
「時々混じる本物を見つけるために、偽物にも魔眼を使わなきゃならねえのが痛いよな……」
魔獣が消し炭になったことを確認し、俺はポケットから取り出した魔力石を地面に叩きつけて割る。
「……チッ……。予備魔力も無くなった……」
かなり大量の魔力石を用意したのだが、俺の魔力残量は二割と少ししかない。
二割をきると、魔力枯渇となって気絶してしまうから、実質もう魔法はほとんど使えない。魔眼なんて使えば、確実に倒れる。
魔光石と魔熱石の魔力を吸収したところで、焼け石に水。光源と熱源が無くなるほうが痛手だ。
「でも、あとはこの道だけ……」
業火に巻き込まれたのか、こんがりと焼けている兎をナイフで捌きながら、先に続く穴を見る。
ナイフで捌くと言っても、皮を剥いで内臓を除くだけの簡単なもの。
「くそっ……生焼けかよ」
魔法の範囲外で、ただ軽く炙られただけなのだろう。
中まで火が通っていない。
まあ、でもこれを食うしかないんだよな……。こんな所で魔法なんて使う訳にいかねえから……。
「──っっ……。く……ん…………。………!!?」
あぐゎ!? うっ……ごぅぁ!
「あああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
し、死ぬ……! これ、は、確実に……死ぬ!
「うぅぅぁぁぉえぇ!!」
──兎の肉を持つ両手から力が抜け、兎がポロリと落ちる。
──立っていることすら困難になり、文字通り崩れ落ちる。
──吐き出そうとした口からは、夥しい量の血が出るのみで肉が出てくる気配はない。
「あ……あ……は……ははっ……」
身体の中をかき混ぜられる感覚を感じながらも、決して飛ぶことのない痛覚が引いていき、後には穴という穴から血が吹き出た無残な俺が転がっていた。
「案外、大丈夫じゃねえか……」
身体の内側と外側のが入れ替わった感覚も、腕が脚になったような感覚も、全てなかったかのように、口の中に苦味が広がった。
そして……魔力が僅かに回復している。
「初級魔法で殺して食っていけば、いつか満タンになるかも知れねえな……」
ああ、となれば、あとは簡単だ。
この洞窟の魔物魔獣共を、殺し尽くすのみ。