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過保護な龍王と魔界の姫  作者: 猫まんま
仮面の男と、紅の姫
16/23

彼の里での思い出[3・5]

 

 ──魔力回路発達遅延症


 英梨のかかっている病気は、恐らくそれだ。

 里の塔龍図書館で二ヶ月くらい調べたけど、英梨の症状に当てはまるのはそれしかない。


 どういう病気かと言えば、それは簡単。

 文字通り、()()()()()()()()()()()()のだ。

 これ自体は命に別状のある病気ではなく、魔力を操る特訓さえすれば簡単に治る病気だ。

 では何故、英梨の両親が世界を飛び回って、治療法を探しているのか。

 それは単純、英梨の魔力量が普通ではないからだ。

 たとえ魔力回路発達遅延症になったとしても、普通なら体調不良以上のことはないが、英梨のように魔力が平均以上の子供の場合、身体の中の魔力が正常に外に出ず必要以上に蓄積されてしまう。

 人の身体が保有できる魔力は限られている。蓄積され続けた魔力は、やがて身体の至る所で無理矢理外へ放出されようとし、病人はその圧力、エネルギーに耐え切れず死ぬ。


 これは、英梨の魔法の才能が、ともすれば俺よりも上の才能が引き起こした最悪の奇跡なんだ。


「魔光石、魔熱石、包帯、ナイフ、魔力石……一通りの準備は終わったな」


 背負っている鞄に必要な物を詰めたことを確認し、俺はベッドで静かに眠る英梨の元へ戻る。

 一緒に寝ようと、そう言われた時は焦ったが、そのおかげで英梨が寝静まったことを確認してから出発できる。

 まあ、同じベッドで寝るのにはかなりの精神力を削ったし、俺の頭に抱きついてきた英梨の腕を解くのにも苦労したけど……結果オーライだ。


 俺に外の世界へ行くことはできないし、行ったところですぐに死ぬのがオチだ。

 だから、俺は里の中、正確に言えば里の周辺を探す。


 図書館にあった過去の記録を見ると、どうやら、この里の周辺には神龍を祀っている洞窟があるらしい。

 神ならば、治す方法も知っているってことだ。

 俺は、今からそれを探しに行く。


「……『魔力眼』開眼……」


 これは、親父しか知らない俺の力。

 魔力量が必要以上に高い時、身体の至る所で魔力が出るという話はしたよな?

 魔眼もその一種で、これは魔力放出が正の方向に働いたものだ。

 親父曰く俺も昔似たような症状になったらしく、俺は魔眼を手にすることで生き長らえたらしい。


「期限は、次の満月ってとこか」


 俺の魔眼『魔力眼』に映ったのは、魔力の流れ。魔力の動きだ。

 それによると、体内の各所に魔力の塊が出来始めている。

 いくつかの文献によれば、これは残り僅かな状況。

 今日が満月なので、あと一ヶ月。

 一ヶ月後に、英梨は内側から侵食されて死ぬ。

 俺のように、魔眼を手にする奇跡を待っている暇はない。そんな奇跡に頼っている場合じゃない。


「かなり、ギリギリだな……」


 そもそも、既に洞窟を見つけたとはいえ、そこの魔物は異常に強そうだった。

 神の魔力を浴びているからか、山の向こうの奴らも異常だが、それ以上に強そうだった。

 と、その時、英梨の頭を撫でている俺の手に、英梨が自分から頭を擦り付けてきた。

 まるで猫のように、ゴロゴロと喉を鳴らしながら、英梨がポツリと寝言を呟いた。


「んん……龍弥……だい……す……」


 ……言葉ってのは、本当に偉大なものなんだな。

 あれほど感じていた一人で戦い抜くことへの恐怖も、既に感じない。

 我ながら現金だが、好きな子に名前を呼ばれただけで身体の底から力が湧いてくる。そんな気がする。


「待ってろ英梨。俺が、必ず助けてやるから」


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