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恋愛ゲーム、ですよね?  作者: 雪屋なぎ
中学生 編
91/503

約束

食事の後はケーキを堪能しました。イチゴのクリームが絶品で、とても美味しいです。

「藤間さんって前はプロのパティシエだったんじゃない?」

「いえ、なんとなく作れるようになったそうです」

「なんとなくでコレほど…」

「レシピさえあれば大抵作れるもの、と言っていました」

いやいや、レシピだけじゃケーキは作れませんよ。形成なんてどうみても素人じゃありません。

「藤間さんってなんでもできるんだね、本当にすごい」

みんなケーキのあまりの美味しさに舌鼓うつ。

「でさ、いつも藤間さんは何をしているの?」

山崎さんは顔を輝かせながら聞き始めた。

「え…と、そうですね、基本家の事をしています」

「やっぱり朝起こしに来て、カーテンを開けながらおはようございます、お嬢様、とか?」

「いえ、朝は自分で起きて自分で支度します」

「そうなの?」

「ええ。自分で出来るうちは自分で、とお願いしてますから」

愛梨ちゃん、頑張ってるんだ。

「そしたら、お茶やケーキの作り方まで指導が入るようになって…」

ああっ、顔がめちゃくちゃ困ってる。

「なんだか花嫁修業でもさせられてるみたいね」

「ええー、そんな時代錯誤な」

「いや、わからないよ?だってそういうのって家同士の結びつきとか有りそうだし」

「それより藤間さんに教えられるのって、なんだか羨ましいわね」

「いいなー、きっと丁寧に教えてくれるんだろうなー」

敵意を受けたことのある私だから言える。藤間さんはきっとスパルタタイプだぞ?手を抜こうとしたり気がそぞろだったりしたら、雷を落とすこと間違いない。曖昧に笑う愛梨ちゃんが可哀想。今度息抜きに連れ出そうかな。

「おねーちゃん」

ノックと共に小さい子の声が聞こえた。

「ごめんねー」

堤さんが立ち上がると扉に近づく。

「涼太郎、なに?」

隙間から堤さんに似た小学生の男の子が顔を出した。この子が堤さんの弟か。お姉さんに似てるぞ。

「お母さんが持ってけって。今お客さんに貰ったの」

差し出したビニールにオレンジ色が透けて見えている。恐らくみかんだろう。

「あ、うん、ありがとー」

「それじゃ」

一瞬部屋を覗き込んだので、目が合った。けどすぐに引っ込んだので、なんだかそれが可愛かった。

「お母さんからミカンだって、ケーキも食べちゃったしどかして置くね」

冬場、どこにでも見かけるこのミカン。漫画やドラマではコタツの上が定位置なんだよね。みんなで1つずつ手に取るけど、愛梨ちゃんだけが食い入る様に見つめていた。

「愛梨ちゃん?」

「なんだか懐かしいです」

手の中に納まるミカンをジッと見つめ、ほんの少し口元に寄せる。

「いい匂い」

「好きなら持って帰っていいよ?もうじき親戚中からミカン箱攻撃くるから」

「そういやヒナん家は毎年そうだよね」

「すごい時は一箱もらった事もあったわね」

「あの時は澄香ちゃん以外、誰も家に居なかったんだもん」

一箱譲るくらいのミカン箱が…すごいな、堤さんのお家。

「もうノルマが大変で、毎日20個は食べてたよ。偶にはりんご箱来ないかなーって毎回思うの」

「毎日20個は大変ですね」

「本当だよ、頼元さん好きなら持ってって」

「え」

「ほらほら」

堤さんがケーキを入れてきた袋にミカンを入れていく。

「いいんですか?」

「時々車で送ってくれるお礼、なんてね」

「それじゃ割りにあわないわよ」

「うーんうーん、なら、このポーチも」

「えっ」

「実はみんなの分作ったんだ。良かったら貰って」

カラフルなキルトで作られたポーチをみんなに配る。

「めちゃくちゃこってるじゃない、いいの?こんな力作貰っても」

「伊賀崎さん嬉しい事言ってくれるぅ」

「調子乗るからあんまり言わない方がいいわ。毎回新作渡されるわよ」

「でも今回のもまたパワーアップしたね。中も綺麗」

「えへへ」

堤さんは裁縫が得意なんだ、本当にいいお母さんになりそう。

「ありがとう、さっそく使わせてもらうね」

「私も、大事なものを入れます」

愛梨ちゃんと貰ったポーチを見比べていると、山崎さんがそうだ!と声を張り上げた。突然の声に驚くも、彼女は巻淵さんに近寄っている。

「そうよ、そうよ、誤魔化されないぞー。あんたクリスマスの約束って何?」

「……ただ人と会うだけよ」

「それは男?男なの?」

「まあ」

声とは別に巻淵さんの顔が暗い。

「まさか、年上じゃないでしょうね」

「違うわ」

山崎さんも好奇心で聞いているよりも、何かを心配して聞き出してるみたい。

「なら…」

「お願い、時間をちょうだい」

巻淵さんの顔が完全に下を向く。

「大丈夫な相手よ、私は行きたいの、でも詳しくは、まだ」

「美咲」

「心配しないで、無理やりじゃないわ。申し訳ないくらい」

苦しい恋でもしているのだろうか?ただでさえ大人びている巻淵さんが、更に大人に見えた。楽しいクリスマスを過ごして、今度は笑顔を見たいな。

「分かった。ちゃんと後で話してよ?」

降参するように両手を挙げて、山崎さんは彼女から離れた。

「あんまり私は待てないからね。酷いようならいつか力ずくでいくから」

うん、きっと三条さんは彼女の状況で対応すると言ってるんだろう。

「うん、分かった」

話からして巻淵さんの過去に何かあったんだろうなぁ。でもいつの話かなんの話か分からないので、とりあえず愛梨ちゃんとミカンを剥いて食べる。聞いていない振りも大事だよね。

「じゃ、次」

話を切り替えるように山崎さんが一回手を叩く。深刻そうな話は終わったんだろうか?

「伊賀崎、私達だいぶ待ったよ」

「うぐっ?」

ミカンを2房口に入れたところで名指しされたので、驚いてそのまま飲み込んでしまった。危ない、気管に入りそうになったよ。

「ん、ん…何?何を待ったの?」

「いやねぇ…私達の気遣い、もう大丈夫でしょ」

「へ?何?何の話?」

やましい事がたくさんある身なので、何が該当するのかわからない。下手に口にして違っていたら、更に根掘り葉掘り聞かれるので待たなくては!

「またまたぁ…悲しい顔してないし、平和そうな顔してるからもういいでしょ」

「えー!?」

本当に何を指しているのか、分からない。

「何があったか話しなさいよ。気になって落ち着かないわ」

ツンと三条さんが顔を横にする。

「私も聞きたい。教えてちょうだい」

まさかの巻淵さんまで食いついてきた。一体何の話だろう。愛梨ちゃんと堤さんは私側のようで、一体何のことだろうと首を傾げている。

「分からない、降参、教えてくださいませ」

諸手を挙げて許しを請う。

「ほら、前に階段で明智くんと喧嘩してたじゃん」

「へ」

「試験終わってテスト帰ってきてるとき」

「あ、あー。あれか」

「もうみんな真相知りたくて我慢してたんだよ?」

「そうなの?」

「でもきっと深刻なんだろうとみんな聞くの我慢してたみたい」

「そうだったんだ」

どんな誤解が広まったのか、考えるだけで汗だくになりそう。

「それで、真相は?」

好奇心丸出しで山崎さんが聞いてくる。根っからのジャーナリストなのかも。高校に入ったら、新聞部でも入りますか?

「教えて?」

巻淵さんまでも、…これは正直に話すべき?

「いやぁ、なんか誤解が誤解を呼んで誤解だらけなのよぉ」

ひゃっひゃっひゃと笑いながら話す。

「今まで明智くんのこと好きだと思ってたんだけど、どうやら友情での面で好きだったのに、勘違いして好きといってしまったんだ」

「え」

今度は愛梨ちゃんが驚愕する。ごめんね、色々振り回して。

「それで自分に好意を持たれる事をよしとしない明智くんが離れてったの」

「ほー、それで階段での話は?」

「実は聞きたい事があって、訊ねようとしたんだけど拒否されたのよ」

「聞きたい事って?」

「…それは」

氷室ゲームのことでーす!っと言えないのよね。うう、難しい。

「なぁにを隠しているのかなぁ?」

あう、山崎さん絶対ジャーナリストになってね?警察官になって尋問は嫌だよ。

「あ、飴玉屋の件です」

全員が息を飲む。そして一気に捲くし立てられた。

「な、なぜ、花音ちゃん」

「ヤバイ店なんでしょ」

「あんた、分かって近づいてんの?」

堤さんと巻淵さんは絶句したままだ。それはそうだろう、実際に口に入れるような毎日を過ごしていたのだから。

「たまたまなの、たまたま見つけちゃって…ちょっと調べて力になろうかと…」

「こりゃ怒るの当たり前だわ、納得」

「最初に見つけた私達も悪かったけど、分かって近づくなんて」

「花音ちゃん、絶対止めてください、もう絶対に近づかないでください」

「泣かないで、愛梨ちゃん、二度と近づかないよ、誓うよ、絶対に」

終いには愛梨ちゃんが号泣してしまった。ごめんなさい、効果絶大だけど、口に出すような内容じゃなかった。これなら痴話げんかで私が追いすがろうとした、とでも言えばよかったよ。

でも情報として飴屋のおばさんの特大キャンディは一気に中毒になるほど危険らしいことや、キャンドルの匂いを嗅いではいけないことや、時折現れる黒い男と火木土に近寄ってはいけない駅をみんなに話した。特に黒い男は捕まると逃げられない可能性が高い事も。

「まあ、なんていうか、ありがとう」

「役に立てたなら」

「変に調べて目をつけられたらどうすんの」

「う」

「伊賀崎、あんた悪目立ちしたんじゃないの?」

「そ、そんな事は…」

「だからショッピング、キャンセルしたんじゃない?」

山崎さん、痛いところを突かないで。

「それは、お下がりをたくさん貰ってしまったから」

「まぁいいよ。火木土に違う駅に遊びに行きましょ」

「……はい」

何か恐ろしいよ、山崎さん。その情報の感知力に完敗です。

「もう怖い話止めようよ」

堤さんがみんなを制する。

「ここからはヒナの楽しいスノードームの公演を開始するよ」

彼女ご自慢のスノードームを堪能しつつ、たくさんの種類に驚く。

「こっちが指輪タイプなの。これは葉で、こっちは花びら」

出るわ出るわ、押入れから机の引き出しからスノードームが現れる現れる。

「すごいね、いつから集め始めたの?」

「そうだなー、幼稚園の時からかも」

「そんな時から?」

「うん」

「きっかけはなんですか?」

「100円ショップ」

「え」

「お母さんにおもちゃを1つ買ってもいいって言われて探してたら、見つけたの」

私もそんな記憶あるなぁ。何か1つに決めるのが難しくて、ものすごく悩んだけど結局お菓子を買ったっけ。それで毎回行くたびにお菓子を買っていたような…。いかん、子供の頃から可愛らしさが無い。

「いけない、もう4時になる」

愛梨ちゃんは時計型のスノーボールに驚き、慌てる。

「じゃあそろそろお開きにするか」

「そだね」

みんながそれぞれ片付けを始めた。

「お皿とコップはお盆に載せてていいから」

ゴミや食器を集め、クリスマスの飾りつけはどうするか聞く。

「ツリーはどうする?もう片付ける?」

「ううん、そのまま後でお店に置くの」

「壁の飾りは?」

「大丈夫、そのままでオッケーだよ」

「それじゃ…後は」

みんなで動いたので、もう片付けは終わった。

「そうだ、花音ちゃん、あまったクッキー貰ってもいい?」

「それはもちろん」

大量に作ってきたので、まだまだ机の上に残っている。

「弟が食べたいって言ってたから、残り貰っちゃうね」

「食べてくれる人がいるのなら、嬉しい限りだよ」

「それでは申し訳ないのですが、先に帰らせてもらいますね」

コートを持つと愛梨ちゃんが軽く頭を下げる。

「楽しかったね、またパーティしよう」

「お酒とか用意できるようになったら、もっと楽しかったかもね」

「山崎、私達はまだ未成年よ。法律を守らないと」

「はいはい、三条は硬いなぁ。出来るようになったらって大人って事じゃん」

「ならそう言いなさいよ。違う意味にも取れて誤解を招くわ」

2人の微笑ましい言い合いを聞きながら、堤さんと愛梨ちゃんと一緒に部屋を出る。

「今日は来てくれてありがとう、すっごく楽しかった」

堤さんが笑顔で玄関まで誘導してくれた。

「夕方はお客さんがたくさんいるから、玄関からお願いしてもいい?」

お店に続く扉は閉じられていたが、なにやら注文の声や挨拶が聞こえている。

「もちろん」

私達は靴を履くと、改めて堤さんへお礼を言う。

「お邪魔しました、堤さん。呼んでくださって嬉しかったです」

「私もクラスが違うのに、ありがとう」

すると堤さんがブンブンと首を振る。

「ヒナでいいよ。私も愛りんと花音って呼ぶから。いい?」

「あ、愛りんですか」

「だって可愛いもん」

「確かに可愛い」

「じゃ、またね!愛りん、花音」

「うん、ヒナちゃんありがとう」

車を路上で待たせるのはあまりよろしくないので、そのまま玄関を出た。すると目の前に愛梨ちゃんのところの車が到着する!すごいタイミングに驚いてしまう。店のある曲がり角から来たので、愛梨ちゃんが出てくるのに即気が付いたのか…さすが運転手さん。

「お迎えにあがりました」

助手席から優雅に現れた藤間さんが頭を下げ、車のドアを開ける。愛梨ちゃんは持っていたミカン入りの袋を彼に渡すと車に乗った。

「さ、花音ちゃんも乗ってください」

藤間さんが車の反対側に回り、私の為に車のドアを開ける。

「アリガトウゴザイマス」

不機嫌そうな藤間さんオーラを感じ、恐縮しながら車にお邪魔した。なんだろう、私また何かしでかしたかな。察することが出来るほど器用な人間じゃないので、藤間さんには諦めてもらおう。い、嫌ならちゃんと指摘してくださいよ!本当に指摘されたら、私の繊細なガラスで出来たハートが砕けそうな気がするけど。

自分の家に辿り着くまで何か会話をと愛梨ちゃんに話しかけたが、またぎこちない会話と藤間さんの咳き込みで、めちゃくちゃ疲れた。誰かの目があるって大変ですね。愛梨ちゃんに同情。

家に着くと、寂しそうな目で彼女とお別れした。

「花音ちゃん、良かったら夜にでもお話したいです」

「いいよ!いつでも大丈夫だから待ってるね」

「分かりました、では8時半に電話します」

「過ぎても気にしないでかけてきてね」

「それでは」

車の窓越しで話して、彼女を見送った。今日はたくさん心配掛けたと思う。しかも泣かせちゃったしね。笑っていてほしいのに、失敗したな。

車が見えなくなってから家に入ると、お母さんが待っていた。

「ただいま、お母さん」

「おかえりなさい。郵便が届いていたわよ」

「誰だろ。まさか年賀状だったりしてね」

ポストの入れる場所を間違えて、今年中に送ってしまう人がいるって聞いたことがある。それを思い出すたび、投函は慎重になったもんだ。

「早く部屋に持って行ってね。じゃないと馨が食べちゃう」

最近弟が色んなものに噛み付いてよだれだらけにしてしまうので、お母さんがまいってしまっている。何でも口に入れるし、気にしないし…落ちたものは駄目と教えても笑顔で返されるから辛い。早く意思疎通が出来るようになると楽しくなるのかな。

「どこにあるの?ハガキ」

「ハガキじゃないわよ」

「へ」

まさか高校関連の資料かしら?それとも冥加さんのお知らせ?

「食事台の上にあるわ」

手洗いうがいを済ませてから居間に入る。するとテーブルの上には白い封筒があった。

「これ?」

表には私の名前が書いてあるけど、メール便なんだけど、差出人の名前が無い。

「え?」

つい封筒の入り口を折ってみる。よし、金属らしきものは無さそう。

「何をしているの?」

お母さんが私の動きを不審に思って近づいてきた。

「いや、カミソリや何か毒でも塗ってないのかなと」

「なんでそんな心配を?」

「…名前が無かったから」

「あなた宛には間違いないんだから、中身を確認してみたら?」

透けて見えないかかざしてみるけど、分からない。なので、親の忠告に従い封筒を開けた。

「はて?」

出てきたのは、二枚のチケット。これは…24日にあるクラシックのコンサートチケットだ。…時間はお昼になっている。

「そっか」

「誰からか、分かった?」

お母さんが覗きに来た。

「多分だけど、明智くんからだと思う」

「あら、もしかしてデート?」

「ううん。誰か誘って行ってくれば?と」

「都合でも悪くなったのかしら、譲ってくれたの?」

「恐らく」

一緒に行く約束をしていたけど、友情が壊れたので1人で行ってきてと言う事か。しかも俺は行かないから誰か誘えと…。

「何か一言でも手紙入れてよね」

封筒の中身を覗くも何も入ってなかった。手抜き過ぎるよ。

「はぁ…」

しかも直接渡さずに間接的に渡すなんて…私をそこまで避けるか。なんだかムカついてきたぞ?こうなれば徹底的に私も反抗してやる。

「でもいい子ね、チケットを譲ってくれるなんて」

「え」

お母さんの一言で、ダークサイドに落ちかけた気持ちが留まった。

「クリスマスの公演だから、高いチケットなんでしょ?」

「なんで」

「だって、S席って書いてあるし、明日に間に合うよう送ってくれて」

ふと、しおらしい明智くんを想像して少し申し訳ない気持ちになる。そうだよね、こちらの勘違いで友情を壊してしまったんだから、彼が全部悪いわけじゃないよね。それに約束を破らない為にチケットを送ってくるなんて…お気遣い屋さんじゃないか。

「明日の昼か…」

「だれかお友達でも誘って行って来たら?」

「そうだね、愛梨ちゃんに聞いて都合がつけば行ってくる」

忙しいといっていたから無理かもしれないけど、誘ってみよう。夜に電話があるから、ちょうどいいよね。

私はチケットを丁寧に封筒へ戻すと、よだれを回避すべく自分の部屋に置きに行った。

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