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恋愛ゲーム、ですよね?  作者: 雪屋なぎ
中学生 編
88/503

和田大樹3

あれは、本当に私を狙ったモノだったんだろうか?

「はぁ………」

ついため息をついてしまう。今の所は何も起きていないけど、頭上からのバケツはかなり驚いた。お蔭様で私は授業が終わるまで、ビクビク過ごしてしまった。

ひとたび猜疑心が産まれてしまうと、疑心暗鬼になってしまう。

「伊賀崎さん、今日はありがとう」

帰りのHRが終わると、少し青白い顔の設楽さんが改めてお礼を言いにきた。けれど、気持ちそれどころじゃなかったりする。

「気にしないで、ただの付き添いよ」

「でも助かったわ。それじゃ、バイバイ」

「うん、またね」

さよならの挨拶をすると設楽さんは村野さんを引き連れて部活へ、運動部だったっけ?体調に気をつけてと見送る。

「さてと」

慎重に机の中をさぐり、帰る準備をした。今のところは何のトラップも無さそうだ。カバンを触る時も気をつける。1つ1つの作業を丁寧にしているけど、気分は爆弾処理班だ。私が死ぬような怪我をしても構わないという人が学校に存在しているので、何か仕掛けられるかもしれない可能性を無視できない。

「本当に大丈夫かなぁ…」

しゃがみこんで机の奥を満遍なく見てみた。よし、カミソリやゴミ等は無し。いや、この時代にカミソリを仕込む人っているのかな?昔の学園ドラマじゃあるまいし、カミソリを使う人なんかめったにいないだろう。想像して少し笑った。

「さてと」

次は靴だ。隠されているか、画鋲が入っているか、少しワクワクしている自分がいた。いけない、いけない。きっと明智くんが聞いたら『危機管理がなってない』と怒るだろう。備えあれば憂い無し、ネガティブになるけど先を心配して気にしておく事も多少は大事だよね。

なので階段に着くと慎重に壁に寄り添いながら下りていく。後ろから突き飛ばされたら痛いからだ。何が起きても私はくじけないぞ!

「ひぃっ」

肩を叩かれ、つい声を上げてしまった。

「どうしたの?伊賀崎さん」

「わ、和田くんかぁ」

気分はミッションインポッシブルだったとは、言えない。

「声を掛けても聞こえていないようだったけど」

「ごめんごめん、ちょっと考え事をね」

「壁にくっついて?…それじゃ。前の公園で待ってるね」

和田くんはにっこりと笑うと先に階段を下りていった。

「一緒に行くわけじゃないのか」

前の公園、と言うと明智くんと一緒に行った公園か。それにしても私に声を掛けてくれていたのに聞こえていなかったとは、これは如何に。

「何か修行でもした方がいいのかしら」

「花音ちゃん」

今度は聞き逃さなかったぞ?

「愛梨ちゃん、今帰り?」

笑顔で振り向く。

「はい」

…そういえば最近気になっていることがもう1つ。愛梨ちゃんの喋り方だ。前より丁寧になって、なんだか他人行儀にも聞こえてきてしまうのだけれど…どういう心境の変化なのか聞いてもいいかな。

「あのさ」

「ハーイ、伊賀崎さん」

山崎さんが元気よく階段を駆け下りてきた。

「テストどうだった?」

「まぁまぁだよ」

今日は授業で四科目帰ってきた。まぁケアレスミスはあるけれど、親に見せれる点数なので文句はない。ここで挫ける様な点数ならば、高校で苦労しちゃうからね、頑張んなきゃ。

「余裕そうだね」

記憶の下地があるからまだなんとか大丈夫!、と心の中で思っておく。

「もう私はダメー」

堤さんが嘆きながら下りてくる。

「このままじゃ、お小遣い減らされちゃうよ、どうしよー」

「値上げ交渉するからでしょ。下手に突かなきゃよかったのに」

「だって…ほしい子が出来たの」

ほしい子って…どんな表現だ。

「あ、勘違いしないでね?ヒナが欲しがってるのは」

「スノーボールなの!」

堤さんはフフンと可愛らしく朗らかに笑う。

「てぃ」

山崎さんが彼女の頭を手刀で叩く。

「やん」

「話を区切るな、ついでに言うとスノーボールじゃなくてスノードーム。もしくはスノーグローブよ」

「そうだっけ」

「本当に好きなのか疑いたくなると思うけど、この子の趣味なのよ」

巻淵さんが含み笑いしながら会話に参入してきた。

「へー、そんなに好きなんだ」

「うん」

「好きなんてもんじゃないわよ。コレクターよ、コレクター」

山崎さんが人差し指をつき立てて堤さんの頬を突く。

「部屋中にあるのよ、スノードームが」

「部屋中…」

「もう幾つなのか分からないくらい大きいものから小さなものまで」

「まだ32個だもん。ものすごく好きなの、もうたくさん欲しくて」

片手を胸の前に持っていき、堤さんは嬉しそうに微笑んだ。

「ほんと見境ないの。この前100円ショップでも似たようなものをたくさん買ってたし」

「あの形のシリーズものだもん」

「シリーズなんてあったっけ?」

「同じ形だけど、中が少し違うんだ。色違いもあるから困っちゃうけど、素敵なの」

堤さんの趣味かぁ…スノードームが好きなんてなんて女の子らしい趣味だと思う。今度どこかで見かけたらプレゼントしたいな。

「伊賀崎さんも今度部屋に遊びに来て!もうすっごく綺麗で楽しい気分になるから」

満面の笑みの彼女を見ていたら、こちらが癒されそうだ。ありがとう、堤さん。

「小さな世界の雪景色かぁ…見てみたいなぁ」

「雪だけじゃないよ?」

「え?」

「花びらや砂や星とかもあるんだよ」

「へぇー。奥が深いんだ…置くだけに、なんて」

場がシンと静かになる。あ、愛梨ちゃんうろたえないで、悲しくなる。

「?」

堤さんが意味を分からず首をかしげているから、更につらい。

「あのさ、お気に入りはどんなのか聞いてもいい?」

「え?お気に入り?」

悩む彼女と一緒に靴箱へと進む。階段で話し合うには危ないもんね。彼女達を巻き込んで怪我させたら、申し訳ない。

「それでですが、あの、花音ちゃん。実はクリスマス前になりますが、23日にみんなでパーティをと計画しているのです。ご一緒しませんか?」

「クリスマスパーティ?」

「はい」

すると堤さんが手を上げてハイハイと主張し始めた。

「私のうちでするの。ホワイトクリスマスにならなくても、側に雪景色用意できるから」

スノーボールで雰囲気を出すのも楽しそうだ。

「うん、喜んで。私も行かせて」

「ぜひ来て!」

去年と違い、幸せなクリスマスパーティが出来るなんて、今からワクワクしてしまう。

「冬休みが楽しみになってくるね」

「ええ」

愛梨ちゃんと頷いていると、堤さんがそうだと声を上げる。

「桜の木のスノーボールがあるの!それが一番のお気に入りだから綺麗に磨いておくから」

「だから、スノードームだってば」

「そだっけ。千尋ちゃん記憶力良いね」

はしゃぐ2人を見て、少し感傷的になる。どうして私の幼馴染は男なんだろう。私も親友と呼べる女の子がほしい。

「来年は受験だから、あまり遊べなくなるかもしれないもんね…クリスマスパーティすごく楽しみにしてるね」

つい素直な感想を述べると、プッと山崎さんが笑う。

「伊賀崎さん…もういいや。伊賀崎可愛い事言うね」

「なっ、かわ」

山崎さんに呼び捨てされた。けれど村野さんの時のような不快感はない。

「そんなの、受験終わってから遊べばいいのに」

「そうよ。寂しがり屋なのね、伊賀崎さん」

堤さん、巻淵さん。来年、再来年と仲良くしてくれると言ってくれた様で、めちゃくちゃ嬉しい。

「中学卒業しても遊びたいな」

調子に乗っていってみると、やはりちくりと針を刺された。

「まぁその頃には彼氏がいて遊べなかったりしてね」

三条さんがツンと下駄箱へ向かう。これは遊べなくても友達だからねって事かな?相変わらず可愛い人だ。

「それじゃまた明日」

靴を履き替え、学校の校門につくとみんなそれぞれの方向へと分かれる。愛梨ちゃんは車で、山崎さんたちはいつもの集団下校だ。

「さてと」

私はみんなの姿が見えなくなるのを待ってから、移動を始める。例の公園は私の帰り道沿いにはない。

「こっちだったっけ?」

あの時、明智くんと一緒に歩いた道を必死に思い出しながら公園へ向かった。けっこう愛梨ちゃんたちと話していたから和田くんを待たせていると思う。こちらの我が儘で引きとめているので、早く向かわなければ。

一生懸命走っていると、公園が見えた。ココだろうか?自信がないので、覗き込んで和田くんの姿が無いか探してみる。

「伊賀崎さん、こっちだよ」

「うわっ」

またまた後ろから声を掛けられたので、驚いてしまった。

「ごめんね、ビックリした?」

「いえ、大丈夫です」

愛想笑いで答えるけど、わざとではないか疑ってしまう。何度も背後を取るなんて、和田くんって只者じゃないのかも!…なんてね。

「じゃあ、この前のベンチに行こうか」

「はい」

先行する彼の後を静かについていくが、ふと気になったので質問してみる。

「あの、和田ガールズたちはどうしたんですか?」

「和田ガールズ?」

驚いたのか彼が振り返った。

「ごめん!」

いけない、いつも心の中で読んでいた彼女達の名称を口にしてしまうとは。やはり普段から習慣に気をつけよう。

「和田くんの側にいつもいる女の子達という意味だよ」

彼に惚れている取り巻き女子の意だ。最近は別所さんもその仲間に入ったんだよね。土日の礼拝のことも聞いてもいいかな?

「女の子ばかりじゃないよ」

え!?まさかの男子も入っていたんだ。全然気がつかなかった。

「すごいね、和田くん。モテモテだぁ」

「ははは。僕じゃないよ、僕らの神様がだよ」

本当に宗教なんですね。このまま拡大を続けていくのかも。

「あと…和田くんは今日、私と帰ることを誰かに言った?」

一番に自分の心配事に係わる質問をしてしまった。なんて私は小心者なんだろう。だって公園に和田くんと2人きりなんて、彼女達にとって阻止したいんじゃないかって思う。だからどうしても疑ってしまうのだ、学校でのバケツは警告だったんじゃ?と。

「誰にも話していないよ」

話してはいないのか…ならば一緒にいる所を見られての判断?和田くんに近づく新参者は阻止したいと思われたんだろうか。

「そっか、教えてくれてありがとう」

ついぐるぐる考え込んでいたら、顔を覗き込まれた。

「伊賀崎さん、大丈夫ですか?」

「大丈夫、何も問題ないよ」

にっこり笑うと、和田くんも笑った。

「それで、和田くんの周りにいた生徒達はもう帰ったの?」

「いいえ。先に教会に行ってもらっています。掃除をお願いしてますから」

「掃除、ですか」

「はい、掃除です」

教会に制服姿の男女が掃除をしている…ボランティアだよね。みんな本当に和田くんの宗教で一緒にいるのかな?和田くんに惚れ込んで一緒にいるのなら、そんな扱いって悲しいよ、辛いよ、厳しいよ。まるで救いの無いシンデレラのようだ。

「周りを清め、場を清め、自分を清める。とても大事な事です」

「そ、そうだね」

例のベンチに着くと一緒に座る。前回は間に明智くんがいたが、今は和田くんと2人だ。お願いしますから、誰にも見られませんように。

「それで、何を聞きたいんですか?」

さっそく本題に入ってきたので、私も素直に話す。

「氷室くん主人公のゲームについて」

「この前話した内容で全部だよ?」

「うん、でももっと掘り下げて聞きたいんだ」

うーん、と和田くんが腕を組んで悩む。

「それにね」

「怪しい店の店長と占い師について聞きたいの」

「ピンポイントだね」

「できれば攻略対象者も聞きたいんだけどね」

「うーん」

なかなか口を割ってくれない。

「店長っておばさん?男の人?店って二種?」

「もしかして飴玉事件の事を調べているの?」

「うん」

「止めた方がいいよ?明智くんだって悲しむ」

「大丈夫、明智くんとは決別したから」

「またまた」

「本当だって。最近一緒に行動してないし、今この場所にいないでしょ」

和田くんが辺りを伺う。

「私1人だよ」

「……明智くんから伊賀崎さんが訊ねてきたら、何も教えず帰してほしいと言われてるんだけど」

先手を打たれた!?

「あのね、私昨日会ってしまったの」

「誰に?」

「飴を売っているおばさんに」

「そうなの?」

「そして、顔は見ていないんだけど黒い服と黒い帽子を目深に被った男の人にも会ったの」

「…」

和田くんが手を口に当て、考え込む。

「その人、左手に指輪をしていたから既婚者だと思うんだけどすごい装飾だった気がする」

「他に情報は?」

「え、えっとね、色が白くて爪が整ってて綺麗だった。そして飴屋のおばちゃんにキャンドルをプレゼントしてて」

「『店長』だ」

「え」

「明智くんからの情報で『店長』が女性というのはおかしいとは思ってた」

「女性じゃないの?」

「女性は『占い師』なんだ。すごく無愛想なおばさんで、堕とす女性の気持ちや体調関連を占ってくれる」

そういえば、また占い始めるの?とか聞いてなかったか?

「なら飴を売るおばさんが占い師なのね」

「『店長』が露天商なんておかしいとは思ったんだ。立場が入れ替わったのか、それとも何かあったのか」

「そしてね、その『店長』に気に入られたみたいなんだけど、どう思う?」

「隠れたほうがいい」

顔を上げると和田くんが周囲を気にし始めた。

「『店長』も監禁主義だ」

お店の人までゲーム参入するんですか!なんてゲームだ。

「『占い師』はどうなの?」

「あのゲームの中では、特に害は無い。逆にもう会えない一人娘を大事に思っているエピソードもある」

「危ないハーブ入り飴玉を友達と食べるように進めているおばさんに?」

「…やはり現実とゲームでは違う現象が起きているのかもしれない」

氷室くんのゲームでも、なにかズレが起きてきている。

「ちなみに『店長』の店はどこにあるの?」

「まさか乗り込むつもり?」

「近づかないようにするの」

「西○×駅だよ」

まさしく加納さんと一緒に買い物をした近辺だ。

「そこの飴を売る人と居たよ。そして飴屋、香水屋と呼び合ってた」

「ふむ…香水屋は初耳だな」

「ひとまず、その駅は回避するようにするよ」

「そうした方がいい。『店長』と一緒に遊ぶ場面があったけど、高等過ぎて僕は画面を消したよ」

何が高等なのか、聞けない。

「後は攻略者12名なんだけど」

「ごめん、本当に曖昧なんだ。言われたら、ああ、と思うんだろうけど思い出せとなると厳しい」

12人もいたらそうなるのかもね。

「眼鏡二名、おさげ、ポニーテール、ショート二名、ツインテール、ボブ三名、ロング二名」

髪型で憶えているんですか、…あと眼鏡二名ってちょっと酷いですよ?

「あと少年一名かな」

「へ、少年?」

「うん。実は隠しキャラで男の子なんだけど、女の子の振りをしていた子がいた」

「まさかのボーイズラブ?」

「僕はもちろん無視したけど」

男性向けゲームなのに需要があるの?男の娘を入れるのってどうなんだろう。

「伊賀崎さんはボサボサロングだった」

うう、どんだけ野生児だったんだ、私は。

「宇留間さん、宇留間さんは?」

「え、えっとね…ロングだったような気がする」

うちではショートでしたぞ!…ならば、高校の時に会う宇留間さんがショートならうち、ロングなら氷室側って事になるのか。

これはこれで目安になってきたぞ。

「ほかには?」

「他にって…誰かいたかな」

「うちの学校に居ない?攻略対象者」

今すぐにはどうしていいかわからないので、対処できないが備えておきたい。祈るような気持ちで和田くんを見ていると、突然顔を上げて空を見た。

「もう帰ったほうがいい」

「なんで?もう少し」

「これ以上は知らないし、分からない。それに暗くなってきた」

カバンを持ち、和田くんは立ち上がると私を急がせる。

「『店長』のお店は火、木、土が営業日だよ。だからその日以外出歩くのを控えた方がいいから」

「ありがとう」

「それじゃ、急いで帰ってね」

それだけ言うと、彼は急いで公園を出て行く。

「何か忘れ物でもしたのかな」

あ、もしかして教会の掃除をさせっぱなしだから、急いで帰ったのかも。帰り道が暗くなったら、和田ガールズが大変になっちゃうもんね。いや、男の子もいるからガールズでは駄目なのか。ならばなんと呼ぼうかな。

カバンを持つと、公園の外へ向かう。

「和田シンパ…じゃ響きが悪いよね。和田くんスキー…なんか私が告白しているみたいだな」

考えが纏まらず唸っていると、胸のお守りが警告をしてきた。

「それじゃあ彼の言う通りに急いで帰りますか」

また新しいノートを作るべきなんだろうか…誰にも要にも見せられないマル秘×2ノートを。それに氷室ゲームについてまとめなくてはいけないからね。これも明智くんがデータを焼失させたせいだ。

「明智くんが資料を燃やさなければ、こんな苦労しなくても良かったのに」

でも憎いわけじゃない。

「助けてくれた恩も返せてない、少しは返させてよね」

心細いのでブツブツと文句を言いながら家に帰った。



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