表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋愛ゲーム、ですよね?  作者: 雪屋なぎ
中学生 編
80/503

志望校

海から流れてくる風は寒く、凍えそうだ。汗が完全に引いてしまった。

「だいぶ体が冷えてきたね」

「うん。やっぱり冬は冷えるねぇ」

用意していた紙コップを地場くんへ渡し、水筒に入れてきた温かいお茶を注ぐ。

「僕の分も用意してくれたんだ、ありがとう」

「いやいや、こんなんでよければ」

自販機だとお金が掛かりますから。それにいくら温かい缶ジュースでも、この寒さならすぐ冷えてしまう。ならば水筒持参がお財布に優しいし、飲む分だけ注ぐので冷えにくい。紙コップなのは地場くんと同じコップを回しのみしない為だ。多感な中学生に不快な思いをさせない為の配慮だったりする。

「伊賀崎さんはさ」

「ん?」

「朝の散歩に誘ってたけど、よく散歩しているの?」

「ううん、ちょっと軽く走ってる」

「朝から?」

「うん。6時半から7時まで」

「寒くないの?」

「まぁ、寒いけど毎年の事だから」

「毎年って…毎日走ってたりするの?」

「天候と体調が悪くなければだけどね」

「すごい…」

地場くんに驚かれて、ちょっと照れてしまう。

「そんなに凄くないって」

「僕はそんな事できないよ」

「そうかな?」

「うん」

そうだよね、普通なら走ったりしないんだろうな。私の場合は切実な事情があるから、続けているだけだ。最初は違う意図で始めたのに…なんでこんな事になったのか、本当におかしいなぁ。お父さんの意思を無視して空手を習っていれば、また方向性が変わっていったのかもしれない。

「僕なら続かない自信がある」

そう言われて要を思い出した。

「それ、言われたことある。1人なら無理だったって」

「誰か聞いてもいいのかな?」

「うん。今一緒に走っているお隣さん」

「お隣さん?」

「一つ下の幼馴染なんだけど、うちの学校に通ってるよ」

「2人で走ってるの?」

「うん。そういえば最初は嫌そうだったな」

以前は明智くんも一緒に走ってました、とは言わない。余計な情報だし、変な噂が再熱しても困るからね。

「もしかして朝に散歩をって、その時間に僕を誘う予定だった?」

困った顔をした彼に、軽く首を振る。

「ううん。走り終わってから、地場くんと散歩するつもりだった」

「じゃ7時に?」

「さすがに6時半は誘わないよ」

「そうだったんだ」

ぬるくなったお茶を飲み干す。ちらりと彼の紙コップを見れば、とうに空っぽだった。

「お茶のお代わりはどう?」

「大丈夫」

紙コップを回収しようとしたら、本を整理するついでにリュックに入れられてしまった。…ゴミを持たせてしまったようで、申し訳ない。

「それじゃそろそろ駅に戻ろうか」

「そうだね、陽が落ちるの早いから急ごう」

お互い荷物を抱えると、歩き始める。

「伊賀崎さんはどこか行きたい高校はあるの?」

「行きたい高校?」

これってフラグなのかな?普通なら受験先なんて同級生に話したりするもんじゃないと思うけど、良く聞かれるよね…。答えた方がいいのか悩むけど、地場くんの受験先を先程聞いてしまったので、腹を括った。

「山の麓に出来る高校に行きたいなって」

「すごく近くの?」

「うん。通学が楽だし、最新設備が整っているから魅力的じゃない?」

定番のセリフのように伝えてみた。なんだか私が勧誘しているような気分になるのはどうしてだろう?ゲームの通りなら行くに決まっているのに。有名進学校へと考えている地場くんに、私はなにを…。

「そんなに近い場所なら、うちの学校の人が多そうだね」

「どうだろう。新設校だから、実績があるわけじゃないし」

また迷うような邪魔をしている。地場くんが受験申し込みまでに自信を取り戻してくれたら、快く入学してくれるんだろうか?

「来年の今頃は受験かぁ…なんだか不思議な気分になるね」

「そう?」

いけない、地場くんが暗そうだ、何かへんな地雷でも踏んだかな。

「あ、あれ!あそこ」

「なに?」

わざとらしく、周りを指差す。

「すごいね、ここら辺に新しいショッピングモールが出来るんだって」

「そうみたいだね」

「あそこもアトラクションや映画館、水族館って…もう遠出しなくても遊ぶところが増えるね」

「小学校までは静かな町だったのに…変わっていくんだな」

地場くん、暗いぞ!華やかな街は嫌いなのかな?

「でも嬉しいよね」

「そう?」

「だって近所でバイトできるんだよ?」

「バイト?」

「うん。電車に乗って通わなくても働く場所があるって嬉しいな」

雑貨屋さんや本屋さん、喫茶店にケーキ屋さん、花屋さんにコンビニ…やはりゲームにあるバイトを選んだ方がいいのだろうか。

「時給や仕事の種類が増えると、選択肢も増えるし…採用されるかどうかはわからないけど、選べるのは楽しいと思う」

電車で30分以上かけてバイトに行くよりかは、断然便利。…本音は電車の中で痴漢に遭うのは嫌、です。それに走って逃げられないリスクがある。

「そういう事か」

何かを理解したようで、地場くんが頷く。

「地場くんはバイトとかはしようと思ってない?」

「今の所は特に」

「そっか、なら私がバイト始めたら、遊びに来てね」

「うん、約束する。挨拶に行くよ」

いや、約束までしなくてもいいから。律儀すぎるぞ、地場くん。

駅までは試験勉強も兼ねて、歴史について雑学を話し合った。かなり熱の篭った彼の話し具合に、これはかなり好きなんだなとわかる。帰ったら要に報告するか。

「もう駅に着いちゃったね」

捲くし立てるように話し続けていた地場くんがハッと周りを見る。

「ごめん、なんか周りが見えてなかった」

「ううん。楽しい話をありがとう」

「楽しかった?なら良かった」

焦った地場くんに笑うと安心したようで、胸を撫で下ろす。

「なんだか僕ばかり話してしまって…」

「そんな事は無いよ」

「遅くなったから、家まで送るよ」

え、それって?

「大丈夫だよ、まだ5時だもん。気にするような時間じゃ」

「暗いから送らせてほしい」

これって断ったら駄目なヤツかな…。でも中学生で送るって…。

「でも地場くんも遅くなっちゃうよ?」

「僕は男だから大丈夫」

笑って細く見える目が更に細くなる。

「それじゃ、さっきの続きを聞かせてもらおうかな」

「うん!」

……もしかして『送る』より『話』の方がメインじゃないんですか?

「ありがとう」

そんな思いを笑顔で隠して、家の前まで送ってもらいました。

歴史の話に加えて、神社仏閣の話に仏像の話と結構飛びましたが、彼が歴史好きという事がわかってよかったと思っておこう。嫌いな話じゃないので楽しかったのが、唯一の救いかも。

「そんな仏像に詳しいなら、修学旅行が楽しみだね」

「う、うん…」

あれ?歯切れが悪い。どうしたんだろう。

「京都は嫌だったりするの?」

「好きだよ。でもクラスメイトと泊まるのが…」

嫌そうではなく、困った顔になる地場くんの力になりたいが、クラスが別で女だからなぁ…何か出来ないか私も悩んでしまう。

「そうだ、和田くんはどうかな」

「え、和田くん?」

「うん。一年生の時同じクラスだったけど、優しかったよ」

「優しい…」

「神父見習いだから、きっと相談にも乗ってくれると思うし」

「そうなんだ…」

地場くんから元気がなくなっていく。何故だろう?まさか和田くんがいじめ筆頭でやっている、なんてオチじゃないよね?

「どうしたの?私でよかったら話を聞くよ?」

不安になって彼の顔を覗き見るも、背けられた。…これって失敗という事でしょうか…。

「ごめん、ちょっと勘違いっというか…その…」

「なに?私に悪いところがあるなら、ちゃんと教えてね」

「あ、伊賀崎さんは悪くないよ!どちらかと言うと、僕の…」

私の足が止まったので、地場くんが驚いてフォローする。

「ここが私のうちなんだ」

「あれ、そうなの?そっか、ここなんだ」

「ね、地場くんの家に近いでしょ?」

「うん。あの大通りで小学校の区間が違ったから、別の小学校だったんだ」

「?…まぁこの辺りに小学校は多いからね」

「もしかしたら、同じ学校だったかもしれなかったんだ」

「そうなるね」

少子化で小学校が減るかと思われたけど、海堂グループが本社移動したので引越ししてくる人が多い。なので、現状そのままらしい。このまま人口が増えるとメリットデメリットが出てくるから、全てが良い訳じゃない。きっと上の人たちは大変なんだろうな。

「もし」

「うん?」

「もし僕も走れるようになったら、一緒に朝走ってくれる?」

おおう!まさか体改造計画でも?いつでも相談乗るよ!!

「もちろんだよ!一緒に走ろうね」

「うん、僕頑張るよ。それじゃまた」

何もしないより、何かする方がいいもんね。地場くんと一緒に走れるのを楽しみにしているよ!

「うん、また学校でね」

エールを込めて彼が見えなくなるまで、手を振って見送る。聞こえないであろう距離になったら、ぼそりと呟く。

「頑張って南里さんとラブラブになろうね」

楽しそうに帰っていく地場くんの未来が明るいといいな。

「さーてと」

彼の姿が見えなくなると、早速胸から緊急信号が!

「急いで帰らなきゃ」

周りを確認して、すぐに玄関に入る。油断なりませんね…ほんの少し暗かったから気が付いたけど、明るかったらやばかったかも。お守りが温かくほんのり赤く光っている。せめてバイブ機能がついていれば、より分かりやすかったのかもしれない。

「でもそうなると私以外の人も気がついちゃうのか」

隠れているのに自ら場所を暴露するような機能になったら、危険が増す。

「江里口くん、ごめんね。つい非難しちゃった」

彼がよく考えて作ってくれたのに、目先の事にばかり気を取られて申し訳ない。

「おうあ」

廊下に弟が脱走していて、階段へ続く扉にしがみついていた。

「ただいま、馨」

こちらを振り向くと、にぱぁと笑ってくれる。大歓迎な笑顔に抱きつきたい衝動に駆られた。

「いやいや、手を洗ってから洗ってから」

ブツブツと自分に言い聞かせて洗面台へ向かう。

「ほんの少し待っててね」

私の後を追いかけてくる弟に笑いかけ、コートとバックを降ろすと手を洗う。口をゆすいでいると、弟が私のカバンを開けて中身を出し始めた。

「!!」

最初は仕方ないなと見ていたが、急ぎ水を吐きカバンへ飛びつく。

「ストップ、ストップよ、馨」

触られてはいけないモノが中に入っている。もし弟が触ってしまったらと考えると、血の気が下がる。

「うあ!」

邪魔をされたと怒り、泣きそうな顔になるので、カバンより弟を抱き上げることにした。

「ごめんねぇ、危ないから止めようね」

彼の頭に頬ずりをする。

「馨に何かあったら、お姉ちゃん悲しいよ」

そう、カバンの中には要特製のスタンガンが入っているのだ。乳児の体に何かがあっては危険。触られる前で本当に良かった。

「そうだ、要がメンテしたいって言ってたな」

連絡取るかな。

「お母さん、ただいま!馨と2階に上がるね」

夕飯の支度をしていたので、声をかけてから階段の扉を開く。段差の手前で弟を降ろすと、待ってましたとばかりに階段を上り始めた。

「馨は本当に階段が好きなんだねぇ」

後ろからついて行くと、上りきったところで振り返る。

「はい、お疲れ様」

素早く抱き上げると、名残惜しげに階段へ体を向けた。降りようと真下に向かって上半身を曲げる。

「ちょっと、危ないよ」

落ちないように抱えなおし、私の部屋に急いで入った。

「はい、いらっしゃい」

扉を閉めてから床に下ろしてあげる。すると早いハイハイでベッドにしがみついた。

「あらあら、また?」

バッグを手の届かない机の上に置き、弟の手伝いをする。

「さーて、要さんは部屋にいるかな?」

ベッドに登りきってご機嫌な弟に語りかけながら、カーテンレースを開く。部屋の電気はついていなかったが、時折光が見える。

「なにか作業中かしら?」

窓を開けると、声をかけてみた。

「要!」

どうやら窓は開けっ放しの様で、作業着みたいな物を着こんだ要が顔を出す。

「なに?」

断熱させるエプロンまで着ている。邪魔したかな?窓枠に座り込む彼に、不安が拭いきれない。

「邪魔しちゃった?」

「別に、大丈夫だよ」

「そっかー」

「お、馨もいるのか、そんな薄着で窓開けて寒くない?」

「寒い」

「すぐいくから、待ってて」

彼は窓を閉めると、姿を消した。

「さ、お兄ちゃんが来るから降りようか」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ