地場結人2
朝のランニングと登校に、明智くんの姿が無くなりました。要と私だけになって、ある意味元通りです。
「本当に来なくなったな」
「そうね」
「花音、大丈夫か?」
「ええ。私にはやるべき事があるもの」
そう、悲しんでばかりいられない。私が心配なのか、要はいつもの友達と登校せずに私の側を離れなかった。
「ほら、友達が来たよ」
「今日は花音と行くよ」
「何を言ってるの、私は平気だから行きなさいよ」
「行かない」
彼は友人に向かって手を振るだけだ。
「気にしすぎだって。いつもあの人たちと一緒に行ってたじゃない」
「別にいいじゃん」
「もう…友達は大事にしなさいよ?」
要にたしなめるように言って、自己嫌悪に陥る。それは私だろ、と。遥ちゃんを傷つけ、明智くんも傷つけ…私の方が友達を大事にしていない。
「私も要を大事にしないとね」
側にいる幼馴染みを見つめ、意識をあらたに決意する。サポートキャラだと思わずに私の弟なのだと。
「…大丈夫だって、俺は理解あるから」
「ありがとう」
へへっと笑うお隣さんに苦笑する。でもなんだかんだいって、みんな私と親しくなっても離れていくんじゃないかな?そんな気がしてきて、ほんの少しブルーになる。冥加さんも、江里口くんも、明智くんもいなくなった。いや、社会に出れば、いずれ会う機会もなくなっていくのだから、気にしてもしかたない。
学校に着くと要と別れて、教室に入る。
「おはよう、伊賀崎さん」
先に来ていた鬼塚さんが話しかけてきた。
「おはよう」
「少しは元気でた?」
「え、なんで?」
「昨日の伊賀崎さん、なんだか凄かったよ?」
「ごめんなさい、勉強がままならなくて雰囲気良くなかったね」
『勉強』を言い訳に謝る。一番これが都合がいいしね。
「私で分かるところなら教えれるよ、大丈夫だってたかだか学校のテストなんだからさ」
昨日から周りのみんなが気遣ってくれている、それを感謝しなければ。
「うん、ありがとう」
「あと…村野さんだけど、気にしない方がいいよ」
「ははは…でも力になれなくて申し訳ないとは思ってるんだ」
「それでも、ちょっとあれはね…伊賀崎さん優しすぎるよ」
やはり村野さんの強引さは目立つんだろうな。
「でももう大丈夫だから」
「そうなの?」
私はにっこりと笑うと、都合よく村野さんが登校してきた。
「おっはよう、花音ちゃん」
この名前呼びも今日でお終いかと思うとホッとする。
「おはよう、村野さん」
「今日の明智くん情報は?」
開口一番で定番化したこのセリフ。ゲームの影響じゃないかと思うくらい心配になる。これ以外のセリフ、ちゃんとありますよね?明日は大丈夫ですよね?
「知らないよ」
優しく聞こえるように伝える。
「またいじわる?」
笑いながら村野さんがメッと言わんばかりに手を腰にあてて、胸を張った。いいなぁ、14歳でも胸が目立つ人は目立つんだから。
「だって昨日決別したから」
「けつべつ?…喧嘩でもしたの?」
「今日は会ってもないし、見てもない。登校しているのかも知らないの」
今となって驚くけど明智くんは私に全部合わせてくれていたんだなって。私が登校する時間に来て、私が下校する時間に出る。お給料でも貰わないと、嫌じゃない?仕事以外そんな事をしたくないぞ。
「は?何があったのよ」
「お互い譲れないものがあった、みたいな?」
彼は家族が欲しい、けれども自分を異性として好きになって欲しくない。私は彼を異性として見始めていた、好きな人を作ってはいけないのに。
「早く仲直りしなさい!謝りに行きましょう」
村野さんが私の腕を引っ張る。
「いや、無理」
「どうしてよ」
今度は本気で心配してくれたようだ。そういう優しいところもあるから彼女を無下に出来ないんだよね。
「明智くんって、自分に対して好意を持つ人が嫌いなんだ」
「…それってどういう」
「で、私が好意を持ちそうと判断されたから離れてったの」
村野さんががっくりするように席に座る。
「なんなのよ、それ…どうすれば解決するの?」
「さあ?わからない」
「え」
「良く考えてみたら、明智くんのことあんまり知らなかったんだなって、昨日知ったの。自分でも驚いた」
鬼塚さんがジェスチャーで驚く表情をおどける様に浮かべた。ただ、私はそれに笑うだけ。ショックを受ける村野さんには申し訳ないが、これで私と親子関係を目指すのを諦めてほしいな。普通にクラスメイトとして仲良くしましょう!
休み時間も昼休みも明智くんの姿は見かけなかった。クラスが違うだけで疎遠になりやすいんだと改めて思う。見かけなかったら今日は休みなんじゃないかってくらいに。下校時私はすぐに帰ったが、同じ帰り道なのに全く会わなかった。今日もし会ったりしたら、普通に接しようと思っていたのに肩透かしをされた気分だ。ここ数日は明智くんと濃い時間を過ごしたが、ちょっと前までは遠くの人だったのだ、特に問題はない。
金曜日も1人で身軽に帰ろうとしたら、この前ぶつかった地場くんが目の前にいた。同じ方向だったなんて知らなかった。いや、見る余裕ができたのかな?
「地場くん、今帰り?」
「あ、伊賀崎さん」
大きな体なのに、猫背で肩を竦ませるようにして歩いている。
「何かあったの?」
「何もないよ?どうして?」
「なんか猫背だから、悩んでいるのかなって」
すると地場くんは恥かしそうにぼそりと呟いた。
「僕はでかくて邪魔だから…」
「何言ってんの、そんなことないわよ」
「伊賀崎さんは細いからそう言えるんだよ」
「細いって…」
なんだか胸の事を言われたような気がして、悲しくなる。あんまし言わないで。…女の子の体は複雑なのよー。一部の人間は太るか胸が無いかになるのよ?胸だけがって人が羨ましい。
「別に僕は大食いでも肉やお菓子ばかり食べているわけじゃないんだ。なのに水を飲んでも太ってしまう」
困ったような笑みを浮かべて、地場くんはより背を丸める。
「給食だってみんなと同じ量だし、ジュースよりお茶が好きだし…」
負のスパイラルに入っていく彼の背を軽く叩いた。
「中学生なんだから、気にしないの。大人になってから体型が変わる人って多いらしいよ?」
「今から痩せたいよ。それに伊賀崎さんだって太っているより痩せている人の方がいいでしょ?」
それはどうかな…。価値観なんて人それぞれだから、気にする事はないのに。でも教室の前でクラスメイトにからかわれ非難されていた地場くんの姿は、少し悲しかった。
「地場くんは大食いしたり、お菓子やジュースを不規則に取っているわけじゃないのに太っている。それって体が成長するために栄養を整えてるのかもね」
「成長するのかな…」
「うん。もうしばらくしたら、一気に身長が伸びちゃうかもよ?」
「…そうかな」
「もしかしたら、身長190cmくらいいっちゃうかも!今何センチ?」
「165」
「夜は眠れてる?」
「あまり。寝つきが悪いから諦めて勉強してる」
「朝はすぐに起きれる?」
「あまり。二度寝して学校に行きたくないくらい」
「南里さん知ってる?」
「え?南里さん?…一年の時一緒だったけど」
「運動はしてるの?」
「あんまり得意じゃないから出来ない」
「ふむ」
よし、彼から南里さん情報をさりげなく聞けたぞ。でも好感度は低そう。高校に入らないと駄目なんだろうか?
「なに?どうしてそんな事を聞くの?」
私がジッと見たので、地場くんが怯えているような気がする。私は怖くなんかないぞ?キミの将来とキミの彼女の事を考えているだけだから。
「地場くんの家ってどの辺り?」
「駅前通の道を…」
どうやら彼とは同じ駅側なのだか、ほんの10分ほど離れた場所に住んでいるようだ。
「明日の朝、歩かない?」
「へ?」
「散歩よ、散歩」
「せっかくの土曜日だよ?寝ないの?」
「私、毎朝海まで走ってるんだ。寒いけど気持ちいいよ」
「僕は土日は12時くらいまで寝てる」
うん、私も前までそうでした。お布団の中って気持ちがいいもんね。特に冬の時は。
「一度でいいから朝早めに起きて、私と一緒に散歩しない?」
「えー…」
「一回だけでいいから、ね?」
強引だろうか?でもほんの少しでも地場くんが運動してくれたら、高校で役に立つかもしれない。生徒会入りしても運動が苦手で、苦笑いをしているスチルがあったしね。
それにゲームでは痩せて身長の高い優しいイケメンだったけど、本当にそうなるんでしょうか?ここはゲームでなく現実なので、南里さんが好きになる地場くんへ変化しなかったらと思うと怖い。いや、南里さんが外見で彼を好きになる訳じゃないと思うけど不安要素は拭いたいよね。
「そうだ、最近整備された海浜公園まで歩かない?」
「うちから30分は掛かるよ?遠すぎる」
「うーん、それなら…」
腕を組んで悩んでいると、地場くんが少し怒った。
「僕の都合も聞かないで、酷くないかな」
確かにそうだと思い、謝罪する。まだ友達でもなんでもない、ただの知り合いだという事をすっかり忘れていた。
「ごめんなさい、気が早っちゃって」
「コホン、…どうして僕を誘うの?」
横目でチラリとこちらを伺われる。突然散歩に行こうなんて誘われたら怖いよね、ちゃんと説明しなくては。
「成長に欠かせないのって、栄養と運動と睡眠なんだって」
「…そうなんだ」
「地場くんは眠りが浅いようだから、眠る為にもほんの少しでいいから散歩しないかなって」
「歩くぐらいしているよ」
「うん。でも話しながら歩いたら、もっと歩いちゃったり時間が経ってたりするから、かなり疲れて夜快眠できるかも、と思ったの」
余計な申し出だったのかもしれない。彼なりに努力しているのに、何も聞かずに失礼だった。これからその努力が身を結ぶかもしれないのに。
「ごめんね、無理に誘おうとして。良かったら忘れてくれると嬉しい」
それじゃ、と走ろうとしたら待って、と呼び止められる。
「待ってよ、伊賀崎さん」
「ん?なぁに」
彼との好感度が低いと、高校での接触ミスが起きるかもしれない。ほんの少し声をかけた事を後悔した。もっと挨拶をたくさんしてから、声をかければよかった。
「ど、土曜日の午後」
「明日の午後って事?」
「うん…午後に海浜公園なら」
嫌われてない?逆に行ける時間を譲歩して教えてくれた?やっぱり地場くんは優しいキャラなんだな。
それにしても午後に海浜公園か…出来れば朝の方が早起きもして夜眠れると思ったのに…。でも地場くん二度寝が好きだとか言ってたから、午後を一杯使って歩いたほうが、夜の寝つきが良くなるかもしれない。
「分かった。なら午後に駅前でいいかな?」
「う、うん」
今のは否定じゃないよね?私本気で待ってるよ?
「なら歩きやすい靴と格好で1時半に」
「分かったよ、明日必ず行くよ」
「待ってるね。ありがとう!」
わざわざ駅前にしたのは、地場くんの移動時間を多くするためだ。彼の家の近くに集合より、駅前の方がより歩かなければならない。
「明日は雨じゃないといいね、それじゃ」
私はいつものように走って帰った。テスト前だけど、明日は友達とお出かけだ。いや、まだ友達じゃないかもしれないけど、友達になれるようにがんばろう。
「ただいま!」
ご機嫌で帰宅して、すぐに洗面台へ行き手を洗い口をすすぐ。そして居間へ行き弟を探した。
「馨?」
こっそり覗くと1人で遊んでいたのか、テレビの前に座り込んでいる。私を見るなり、嬉しそうにこちらへ向かってきた。
「ただいまー、お母さんはネムネムか」
疲れているのか、いまだ夢の中のようだ。
「あー」
喜ぶ弟の口からよだれが垂れる。
「あらら、元気だねぇ。私の部屋にくる?」
階段へ行くには、簡易扉を開けなければならない。馨が1人で上らないように最近設置されたのだ。その扉を開けてやり、階段の前に弟を降ろす。
「だぁ」
すると、上る上る。一生懸命手足を動かして階段を上っていく。
「上手だねぇ、馨は」
私も弟の後ろからゆっくりと上る。落ちそうになってもお姉ちゃんが助けるからね!上りきると振り返ったから、怖い怖い。きっと出来た自分を褒めて欲しいんだろうね。
「頑張ったねぇ、お姉ちゃんの部屋はこっちだよ」
馨を抱っこして部屋に入ると扉をきちんと閉めた。床には危ないものは、ないはず。
「ちょっと待っててね」
床に降ろすと、弟はベッドに登ろうと頑張って張り付いている。低いベッドなので、頑張ればいけるだろう。その間に制服を脱ぎ、ハンガーへかけた。いつもの普段着を出して、着ているとバンバンとガラスを叩く音に驚く。
「え、なに?」
馨がベッドの上から窓を叩いている。カーテンレースの内側に入り込んでいるので、可愛い下半身が目立ってほほえましい。
「どうしたの?要でもいた?」
パーカーを羽織ると、カーテンレースを少し開けて覗く。お向かいさんはまだ帰宅していないようだ。でも窓が開いているので、換気中なのかもしれない。機械は大丈夫なのかな?もしかしたら、おばさんが掃除しちゃったかもしれないね。…小さい部品もあったので、掃除機に吸い込まれていないことを祈ってあげようかな。
「誰もいないじゃない…もしかして鳥でも見えたのかな?」
「うう」
足をばたばたさせて馨が遊び始めたので、抱っこする。もう数十センチずれたらベッドから落ちる所だ。
「窓の外を見たいかもしれないけど、こっちはベッドの端だから危ないよ?」
「まんま」
楽しそうに私をバンバン叩く。
「痛いって。もう馨は乱暴だなぁ」
カーテンレースをもとに戻すと、私は1階へ降りた。そして階段への扉を閉めると、また階段を上りたいのか馨が床に向かって腕を伸ばす。
「もう一回上る?」
するとお母さんが廊下に出てきた。
「ああ、良かった。お姉ちゃんと一緒にいたのね」
「ごめん。姿が見えなかったら心配になるか」
「居間の扉が開いていたから、自分で開けたんじゃないかってビックリしちゃった。最近移動範囲が増えて怖いのよ」
「ははは、そうだよね」
私は弟をお母さんへ渡すと、頬を突く。
「あんまり遠くに行って困らせたら駄目だよ?」
するとスパンと弟の放った手の平が、私の手をはじいた。偶然とはいえ、酷いぞ!寂しい気持ちになるじゃないか。
土曜日。
今日は午後1時半に駅前で地場くんと待ち合わせだ。ショルダーバックに水筒と教科書とスタンガンと絆創膏とガーゼとテープと…その他諸々を入れて待ち合わせ場所に向かう。こまごまとした荷物の多さに呆れてしまうが、備えあれば憂い無しってね。……こうなったら今度はサバイバルブックでも入れるか?なんて気分になる。万能ナイフでも買っちゃおうかな。
準備万端で家を出て駅に向かうと、既に地場くんがいました。
「あれ?早いね」
走り寄った私に驚くので、私も慌てる。
「まだ10分前だよね?もしかして私が時間間違えてた?」
昨日1時半と言ったつもりだったけど、1時だったとか?
「あ、ううん。早く着いちゃっただけ…」
安心してホッとする。待ち合わせで相手を長時間待たせるのって申し訳ないもんね。
「そっか、なら良かった。じゃあ行こう」
2人で海浜公園に向かって歩き始める。
「そうだ、地場くんはテスト勉強はどんな感じ?」
「それは塾の事?学校の事?」
「塾に通ってるの?」
「あ、うん。親が行っておいた方がいいって言われて」
「そうなんだ。すごいねぇ」
「ううん。高校は知らない人が行く場所へ行きたいし」
「え、そうなの?でも高校対策で塾に行ってるんだ」
「うん。県立の場所に行きたいから」
「それってどこの?」
「△□高校」
なんと、電車で1時間以上掛かりそうな有名進学校ではないですか!
「なんでそんな遠くに…」
星雲高校なら凄く近いよ?南里さんもきっとそこに行くよ?
「知らない人ばかりの所へ行きたいんだ」
「……それってやっぱり」
コクンと彼が頷く。
「みんなは冗談で僕をからかってるのかもしれないけど、笑い流し続けるのって結構辛いんだ」
「うん、キツイよね。…分かるよ」
「そうかな、伊賀崎さんはそんな思いした事ないんじゃないかな」
「ごめんね」
笑顔で謝る。これはもう私も笑い流すしかない。自分が受けた傷は自分でしか理解できないし、他人が理解しようにもより酷い傷かどうしようもない『ナニカ』を持っていないと信じてくれないから。
「…ごめん、意地悪だった」
謝らなくてもいいのに、地場くんはお気遣い屋さんだな。
「地場くんと同じクラスになった事なかったから、直接は知らないけど言葉の暴力と集団心理は怖いと知ってる」
「うん。怖い…」
歩みが遅くなる。いかん、空気が重くなってきた。冬の寂しい雰囲気に、心が寒くなりそう。話題を変えなくては。
「ねぇ、今日晴れてよかったね」
「そうだね。快晴だって言ってたけど、寒いよ」
「つい体を縮めてしまいたくなるね」
「伊賀崎さんが?」
「私だって寒くなるよ」
「いや、違うんだ。伊賀崎さんはいつも姿勢がいいから」
「褒めてくれるの?嬉しいな」
「うん、羨ましい」
「ならさ、地場くんも背筋を伸ばしてみない?」
「え」
「今日は私だけだしさ、肩を伸ばして真っ直ぐ立ってみようよ」
「でも…」
「背が更に高くなるからさ。私のほうこそ地場くんが羨ましい、私もあと5センチは欲しいなぁ」
「身長が高くなりたいの?」
「うん。でもままならないのよね…望む体になるって難しいね」
「…うん」
「地場くん胸を張ってよ」
「ええっ、無理だよ」
「思いっきり息を吸って吐いて…背を丸めてたらきつくない?」
「ま、まぁ」
「背筋を伸ばした方が、縦に伸びるから少し痩せて見えるかもよ?」
「そうかな?」
地場くんは苦笑しても背筋は伸ばさない。うーん、私は元々がネガティブ人間だから、彼を励まそうにも上手く行かないようだ。どうしたらいいんだろう…ゲームの世界なら、シナリオライターが選択肢を用意してくれるのに…ポップアップ画面とか出ないかな?…悩んでも解決の糸口が現れない。なら、どうするか。
「うん、そうだ」
「どうしたの?伊賀崎さん」
「楽しもう、地場くん」
「え」
「地場くんは本好きかな?」
「嫌いじゃないけど」
「普段はどんな本を読んでるの?」
「推理系や歴史物が多いと思う」
「へぇ、どんなのが一番印象に残った?」
「えっと…」
良かった、自分と地場くんには共通点がある。ならばそれに話の花を咲かせよう。楽しく過ごさないと、散歩自体のイメージが悪くなっちゃうからね!
「そっか、探している本があるんだね」
「ネットで取り寄せればいいんだろうけど、親があまりいい顔をしないから難しくて」
「なら、公園行くついでに本屋さん巡りしない?」
「本屋に?」
「大きくて新しい本屋が出来たって話を聞いたし、古本でも良かったら古本屋に行って探してもいいし」
「そんな、僕の都合で伊賀崎さんに悪いよ」
「私の方が迷惑を掛けるかもよ?」
「どうして?」
「本屋で動かなくなったら、背中でも叩いてね」
「え」
「本大好きだから、チェック始めたら止まらないって自信あるもん」
「そうなの?」
「今はお小遣い少ないから買わないけど、高校になったらバイトを始めてたくさん買うんだ」
「…本が好きなんだ」
「へへ。でもあまり買いすぎたら、親に怒られるかもね」
地場くんが笑った。こんな話でも面白かったかな?リラックスしてるのなら、問題ないか。
海浜公園に行く前に本屋に寄ったり、古本屋へ寄ったりと寄り道ばかりして歩き続けた。なので、公園に着くと彼は汗だくで疲れている。
「なんだか疲れたね。伊賀崎さんは大丈夫?」
「うん、大丈夫。心配してくれてありがとうね。…そうだ、あそこのベンチで少し休憩しない?」
海浜公園は海沿いにたくさんのベンチが設置してある。今の季節は冬なので、座っている人はまばらだ。
「うん、しばらく休みたい…本も買って荷物が増えてしまったから重いよ」
「探している本が見つかってよかったね」
「昔読んだ本なんだ」
「気に入ってたのね」
「うん」
「私も久しぶりに本屋さんに行けて、幸せだった」
結構外出を控えていたりしたから、本のチェックが出来て嬉しい。これも全部氷室ゲームの所為なんだが、怒る相手がいないだけムカつく。記憶の無い氷室くんにクレームを申し渡しても、意味がないからな。
「伊賀崎さんは明智くんと出かけないの?」
はっはっは、地場くんまでそう言うか。いや、情報流したの私なので文句はいけない。これから正していかなければならないので、面倒だ。
「明智くんと一緒に遊びに行った事は無いな」
「本当に?付き合ってたんでしょ?」
「やだなぁ、地場くん。中学生が付き合うって、あまり意味がないよ」
「え、そうなの?」
「中学生で付き合って、どうするの?」
「どうするって…一緒に過ごすとか遊びに行くとか…」
リュックからタオルを取り出し、地場くんは一生懸命考えながら顔を拭う。
「そうなんだ。あんまり付き合うとか考えられないから、想像つかなかった」
「意外」
「へ?」
「伊賀崎さんは…その…」
口ごもる彼に、言い難い話の内容がわかる。
「噂か」
「ごめん、嫌な気持ちにさせて」
「気にしないで。もう諦めてるから」
ああ、そうか。
「地場くんが実際私と話をして、違うと思ってくれたのなら嬉しいけどね」
ゲームで一定期間デートしないと険悪状態になるのは、お互いの話をしていないからか。本人と話さず噂や人からの話を聞いていたら、誤解が生まれてしまう。だから、頻繁に会って話をしないといけないのか。
なんで本命以外ともデートをしなければならないのか、頻繁に会わなければ悪い噂が立って全員の好感度が下がってしまうのか、意味がわからなかった。けれどそういう理由なら、納得だ。
「僕は、噂を信じないよ!伊賀崎さんはそんな人じゃない」
「…ありがとう」
ほんの少し散歩に誘ったことを後悔した。これは頻繁に彼と話さなければならない状況に自分を追い込んでしまったのかもしれない。
「話をするって大事なんだね」
笑う彼に、私も笑って応えた。




