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恋愛ゲーム、ですよね?  作者: 雪屋なぎ
中学生 編
76/503

明智 真2

後ろから顎を掴まれ、頬が見えやすいように顔を斜めにされてます。後はつついたり撫でたり、摘まんでみたりと……なにか仕掛けでもあるんじゃないか? そんなチェック方法を明智くんは繰り返した。


「何かおかしな所でもあるかな?」

「普通に見える」


種も仕掛けもない、普通の頬ですから。ちゃんと洗顔もしているので、手触りだって普通です。


「伊賀崎は何も感じないか?」

「まぁ長年連れ添ってきた頬です、としか」

「何か接続する端末があるんじゃないかと思ったが……やはり違うか」


まるで押したら何かあるのでは、と。こまめに端からローラー作戦の様に抑えていく。吹き出物でもあれば、痛いだろうな……今は無くて良かった。


「そうなると、私は人間じゃないって事になるよ」


笑いながら言ったんだけど、明智くんは真剣に唸っている。


「そうか……伊賀崎は人間なのか」

「ちょっと!」


私のどこが人間じゃないの、失礼しちゃうな!


「基本的に俺は人が苦手だ。特に女がだが、伊賀崎には触れる」

「そうだねぇ、今好き勝手にさわられているねぇ」


本当に苦手なんでしょうか? 最近明智くんに色々触られてますよ。


「そんな事はない。さわる場所は気を付けている」


痛くないように、でしょ。ちゃんと分かってます。確かに以前より力が入ってないので痛くはなくなりましたが、よりによって人類外にされるとは。


「でもアクセス権の優先ってどういう意味なんだろ」

「アクセス権の優先?」

「うん、江里口くんはそう言ってたけど」


誰よりも優先的にって事は分かるけど、何に対してなのかが不明なので分からない。


「情報が少なすぎる。せめてもっと何か……」

「もしアクセス権の譲渡を頬を合わせるだけで出来るなら、コマンドなどはどうなっているのか」


やっぱり分かりません。


「そうだ、明智くんは江里口くんの家とか知らない?」

「記憶にないものを聞かれても困る」

「携帯とか手紙とかデータとか残ってないかな?」

「携帯なら。持ってくる」


やっと膝からソファーに降ろされた。温かかった背中が少しひんやりとする。明智くんがよく接触するのは、寒いからではなかろうか? 床暖と空調で部屋は快適なはずなのに、寒く感じてしまうのは冬だから仕方ないのかも。ならば夏になると離れていくに違いない。汗を掻いた肌での接触は、気持ち悪いもんね。


「本当にデータが残っているだろうか……」


部屋の隅に置いてあったカバンから携帯を持ってきてくれた。


「電話帳には……いるな」

「あったんだ!」


ソファーに座った明智くんの側に行き、携帯を横から覗き見る。


「通話記録も残っている」

「電子データって消されやすいんじゃないかって心配したんだよ、良かった……」

「メールは」


日付をくだり、適当に開けてみる。


 『今日は問題なかったよ。

  でも伊賀崎さんに王子様が

  現れたらしいよ?』


「……んん?」


 『伊賀崎さんの髪が伸びてきたよ、

  少し女の子らしくなったね。

  見たい?写真は送らないよ。』


メールを適当に飛ばして読んでいくと、まぁ出てくるわ出てくるわ私の状況報告メールが。ほぼ毎日受信されていて、私の情報が筒抜けだった事がここで分かる。


「明智くん、愛梨ちゃん以外に江里口くんとも連絡取り合ってたんだ」

「頼元は二回くらいしか電話しなかったが?」


という事は、基本江里口くんから情報が! 同じクラスだからより詳しい事が……って酷いよ、江里口くん! 私には何も教えてくれなかったのか。


「伊賀崎は一度も電話を掛けて来てくれなかったな」


ぼそりと呟かれた。何で私には電話番号でメールアドレスをくれなかったのよ。それが連絡を渋った要因だよ! と今更いえないので、誤魔化す。


「海外になんてなかなか電話できませんって。慣れてないし」

「そうか」


 『最近、痴漢変態が多くて

  伊賀崎さんの精神的負担が

  大きい。

  少し時間がかかるけど、

  大きな範囲で対処しよう

  思う。』


少し耳鳴りがした。


「コレかな? 対処しようと思うって書いてあるし」

「次を読んでみよう」


だが、携帯画面が固まって動かない。


「どうしたの?」

「動作不良のようだ。再起動してみる」


一旦携帯の電源を落として再起動する。その間、ジッと画面を見つめ待つのだが、なかなか遅い。


「まだかな」

「すぐには起動しない。もう少し待て」

「うん。でもなんだか」


ほんの少し嫌な予感がと思った瞬間、誰かがこちらに歩いてきているイメージが浮かんだ。


「明智くん、携帯止めて……誰か来る」


彼はテーブルの上に携帯を置くと、すぐに肘で叩きつける。バギッと音がなり携帯が潰された。明智くんが肘を離すと、黒い画面に凄まじいヒビの入った携帯が細やかな部品を散らしている。完全に沈黙した、ようだ。


「うわお」


言った私も私だが、すぐさま破壊を実行した彼に驚いてしまう。携帯を躊躇することなく壊して……なかなかできないぞ?こんな事。


「で、誰が来るんだ?」


今それを聞くんだ……。肘が痛くないか不安になったが、特に痛そうなように見えない。改めて明智くんはすごいと思う。


「ごめん、なんかそんな感じがして」


全身鳥肌が立っているのが分かる。確かに何かが来かけてた。両手で鳥肌が治まるように腕を擦ってしまう。


「なら江里口の携帯番号にもかけない方がいいな」

「番号覚えてるの?」

「一度見れば、ほぼ記憶できる」

「それはスゴいね」

「そうでもない」


いや、その記憶力は感服しますし羨ましいです。特に受験前ですから。


「肘とか大丈夫?破片がついてない?」


見事に潰れた携帯に手を伸ばせば、彼の手に阻まれる。


「破片にはさわらない方がいい」


この携帯は私に貸し出してくれたものとはまた違う携帯だ。最近のバージョンでやはり高い物になる。またまた無駄金を使わせてしまった…。


「…ごめんなさい。携帯って高いものを壊させてしまって」

「別にたいしたものではないし、あまり使っていないから問題はない」


そう言えばメールは江里口くんばかりだった。高校になったら、私も携帯を持つからメールや連絡送るよ。迷惑でなければだけど。


「忘れる前に伝えよう。今朝話そうとした事なんだが」

「今朝?」

「ああ」


なんかあったかな……要の事? 水原くんの事? 遥ちゃんの事? 思いつかず、頭を捻ってしまう。ゴメンね、最近いろいろありすぎて結構頭がパンクしそうなのよ。


「伊賀崎は俺を警戒している」

「え?」


一瞬、ドキッとしてしまった。


「必要のない警戒だ」

「そんな事はないよ?信頼してる」


うん、嘘じゃない。信頼はしている。


「本当に?」


明智くんがこちらに体を向け、近づいてくる。


「えっと、明智くん?」


仰け反るのは、信頼とか警戒とかとは違うよ? 人としての普通の反応だ。


「なら何故離れようとする」

「それとこれは別に」

「これが、意味のない事だ」


覆い被さりながら来られると、迫られているように思えるのですが。意味の無いとはどういう意味なんでしょうかね?


「普通ならこういう状況は、身の危険を感じる。そうだな?」


私の腕を取り肩を押して、ソファーに倒される。


「それはそうですね」


緊張気味に答えてしまう。だって、あまりよろしくない体勢ですから。


「だが、俺相手なら気にする事はない」


真上にいる明智くんは、いつもの口調で冷静だ。代わりに私の方が焦っている。いや、これは焦らざるを得ないでしょ。


「いや、人にはパーソナルスペースと言うものが」

「俺に性的興奮が起きることはない」

「へ」


すごい単語に驚いてしまう。


「そういう風に育てられた」

「なんでそういう風に」


彼はそっと私の上から離れると、普通にソファーへ座った。


「父の所為らしい」

「なぜそこにお父さんが」


父親の命令なら、酷いぞ。私も体を起こして正座する。


「父のように勝手に恋をして、体の関係を持たないように」

「はぁ?」


なんだ、それは!


「当時、父が起こした騒動で大変だったらしい」

「でもだからって明智くんの人権無視だよ、酷い」

「決まっていた婚約者と大規模な宣伝を兼ねた結婚式を控えていた。そんな状態の時に恋をした二人を周囲は認めるわけにはいかなかった」


金持ちって怖い。


「と、言うわけで俺は伊賀崎にとって脅威になり得ない」

「そうですか」


なんとも気まずい。


「あ、なら氷室くんのゲーム代行って」

「実際にイベントを起こさず、噂話だけ流せば事実に近くなる」

「そういう意味だったのね」


つい明智くんの頭を撫でてしまう。こんなに若いのに苦労をたくさんしたんだろうな。


「ごめんね、いくら友人同士でも性的な関係に陥りやすい話を知っているから、構えてしまった」

「いや、正しい判断だ」


しかし、凄まじい告白を聞いてしまった。普通ならそういうのは精神的に問題とか起きないのかな? アイデンティティーとかプライドとか、成長とか。


「安心したか?」

「安心よりも明智くんの体の心配してしまうよ」

「俺はこれで良かったと思う」


もう一度私に近づくと、後ろから抱き寄せられる。


「下心なく伊賀崎を抱け……ハグ出来るからな」

「さいですか」


もう好きにしてくれと諦めながら彼の肩を叩く。


「伊賀崎」

「なに?」

「初めて人をハグしたいと言う欲求に答えてくれて、ありがとう」

「いいよいいよ。まぁ抱き心地は保証できませんが」

「そんな事は無いぞ?」


ははは、5組のファンクラブを前にそんな事はいえないぞ? 私は胸が無いからな。太らないように頑張りすぎたか…。


「伊賀崎は胸が無いと嘆いていたが、あると思う」

「はひ?」


まるで心を読まれたような気分になり、驚く。


「なんで胸の話に」

「前から伊賀崎が話しているじゃないか」


あ…そうでした。


「ごめん、そうだった。でもフォローをありがとう」

「胸が無いというのは、俺みたいなのを指すんじゃないのか?」

「いや、男の人と比べられても…」


ちょっとブルーになってしまうじゃないか!


「何かの本で読んだが、胸は下着で押し上げたり形を整えるのだろう?」

「明智くんどんな話を読んでんのよ」

「適当に片っ端から。暇なんだ」


……14歳が暇って、状況が悲しいよ!


「なら今度私と愛梨ちゃんと……」

「やっぱりこうすればいい」

「な」


後ろから明智くんが、大きな手で胸の形を整えてくれてました。


「伊賀崎は上の下着を着けないのか?」

「ストップ! ストップ……ちょっと手を離そうか」

「分かった」


すぐに手が離されると、大きなため息をついた。


「あまりそういう所は触られたくないな」

「……そうだったな。突然ですまん」


慌てる様子も無く、普通に詫びられる。


「でも少し驚いた。胸を触っても蕁麻疹が出なかった」

「蕁麻疹が出るの?」

「ああ。例の女が抱きついた時、全身に痒みが広がって気持ち悪かったし、その場で吐いた」


私をぬいぐるみの様に扱っているのに、不思議なものだ。


「伊賀崎は本当に人間なんだろうか……」

「おいおい」

「ああ、大丈夫だ。別に性的興奮はしていない」


なんだかそれは、『魅力無し』と言われている様で少し複雑だ。絶対明智くんには言わないけどね。


「私が男みたいに見えているからかも」


私を恋愛対象でない、性的相手になり得ない女子として見られているのなら上々だよ。準備が出来た愛梨ちゃんをそういう風に見てください。


「それはない。伊賀崎は女だ」

「複雑な気分になる言い方するね」

「それはどういう意味だ?」

「気にしないで。でもさ、私だけじゃ分からないかもよ?」

「何が?」

「性的興奮はこれから起きるかもしれないし、治っているかもしれない」

「ありえない」


どうしてそう思うのかな…。頑なだぞ。


「このままじゃ跡取りとして大変じゃない」


明智くんの周りの人は、彼がそういう体になった場合将来困ることに気が付かなかったのかな。子供が出来なかったら、次の跡取りに困るでしょうに。


「大丈夫だ。放棄してきたから」

「放棄って、跡取り辞めたの?」

「ああ。俺は無理だと祖父に頭を下げてきた」


お祖父ちゃんがいるんだ、ますます愛梨ちゃんの所と似通うな……。


「そっか。でもそれでお父さんと住めなくなったの?」


一人ぼっちで暮らす明智くんは、離れてホッとしたのかも。


「父とは一度も一緒に暮らしたことは無い」

「え」

「父には母と結婚するよりも前に好きな人が出来た。結婚してからもその人と一緒に住んでいる」


それって……。


「さっき話したお兄さんやお姉さんがいる例の女性?」

「そうだ。異母兄弟と言ったが本当は血の繋がりはない」


明智くんのお父さんは、子持ちの女性にぞっこんだったんだ。……どんだけ魅力のある人なんだろう。逆にあってみたい気もする。でもお母さんは? 明智くんのお母さんはどうなったのだろう……。あまり話題に触れないので、聞きにくい。


「伊賀崎」

「なに?」

「もう一度胸を触ってもいいか?」

「……駄目」

「そうか」


断ったら、代わりとばかりに頭を撫でてきた。一度明智くんとはお互いの境界線を話し合ったほうがいいのかもしれない。


「伊賀崎、胸は頬より柔らかいんだな」


咄嗟に裏拳をお見舞いしようとしたが、呆気なく避けられました。


「まだ脇が甘い。人に攻撃するときはもっと態勢に気をつけてから……」

「違う、違う、明智くんに裏拳したのは、変な事を言ったからツッコミしただけだよ」

「ツッコミ?」

「普通、胸の事を言われたら、攻撃するもんよ」

「そうなのか?」

「私はそうだと思ってて」

「分かった」


そういいつつも、きっと分かっていないと思う。私は明智くんの腕の中から脱出すると、彼に向かって正座する。こうなれば私の方から説教をしなければならない。


「そんなに触るんなら、更に警戒してしまうよ」

「なぜ」

「興奮しないからと、むやみに触るからだ! それは良くない」

「すまん」


謝る姿勢でなく、ソファーに寄りかかったままの体勢で言われても誠意が感じられんぞ!


「こんな調子だと、お風呂とかも一緒に入ろうとするんじゃないかって思っちゃうよ」

「伊賀崎となら平気だと思う」

「だから、私が良くない!」

「そうか。だがもともと一緒に入る機会は無いと思うが」

「それはそうだけど、例えよ、例え」

「今度温泉にでも行くか?」

「誘うなー!」


一般常識が無いのか不安になってきたぞ。大丈夫か、明智くん。君の社会スキルが心配だ。


「こんなに触れる人間がいる事に驚いているんだ」

「違う人にも触れるかもよ」

「簡単な接触なら我慢できるが、ずっと触れたままは無理だ」

「なんで」

「柔道の授業で吐きかけた」


……そういえば、男子は柔道があるんだったな。


「先生が肩に触れて話しかけてくるのも気持ち悪い」

「そうですか」


彼なりに苦労して寂しがっているのかもしれない。胸は触らせられないけど、なんとか対人恐怖症的な所を治せないだろうか……。こんなときに江里口くんがいたら、力になってくれたんだろうな。うう、江里口様お力を…。


「どこまで触ったら、伊賀崎を嫌悪するようになるか気になるが実験を控えるようにする」

「実験だったんかい!」


手刀でツッコミするけど、手で受け止められた。明智くんに攻撃なんて、寝ているときくらいじゃないと成功しないかも。


「伊賀崎、攻撃するなら……」

「攻撃じゃない、ツッコミだって」

「またか」

「そうさせてるのは、明智くんなんだから……」

「そうか?」

「ったく……二月に修学旅行あるけど、団体生活は大丈夫なの?」


うちの中学校は二年生の二月に修学旅行がある。行き先は京都・奈良か北海道・沖縄の三択らしい。江里口くんが笑いながら教えてくれた。京都なら一緒にお抹茶飲もうって言ってくれてたのに。…戻ってきた時の為に、お土産買っておくか?


「休む、と言いたいが伊賀崎は行くんだろう?」

「まぁね」

「なら俺も行く」

「クラスが違うから、一緒に行動できないよ」

「難しいな」


……出来れば私から離れて、中学生として旅行を満喫して欲しい。


「さすがにもう遅いから、そろそろ帰るよ」

「ああ、すまん」


お互いコートを持って部屋を出る。廊下に出たら電気が点灯し明るくなった。床も暖かく、寒くない。……ものすごく快適なのに、ものすごく寂しいのは、明智くん1人で住んでいるからなんだろうな。

廊下を歩いていると、明智くんが話しかけてきた。


「伊賀崎のお守りは、痴漢や変態が現れた時に反応するんだろう?」

「え、うん。そうだよ」


そっと胸元のお守りを触る。


「さっき俺が胸を触った時、反応したか?」

「え」

「少し気になってな」


そういえば何も反応しなかった。


「俺が触っても赤く光らなかったし、特に熱を放っているようにも感じなかった」

「そ、そういえば、そうだね」


もしかして、もしかしたら、そうなんだろうか。


「ちゃんと起動しているのか?それは」

「……明智くんに話したから、効果が消えたと言うの?」

「そういう物があると、伊賀崎が話していたから気になった」


だから私の胸を触ったのか。もう一度触ろうとしたのは、再確認したかったから?


「ならそう言ってよ。突然明智くんが変になっちゃったんじゃと思ったよ」

「俺の実験も兼ねているので、それだけじゃない」

「ついでかい!」


首にかけてある紐を手繰り寄せ、胸からお守りの入った袋を取り出す。


「それがお守りか」

「うん。痴漢や変態に遭ったら、温かく光るの」


中を覗き見るも、シルバーの細工と赤い不思議な形をした石にしか見えない。


「本当に効果が切れたのかな……あちゃー、修学旅行前に困る」


アウェーな土地だと、私に不利じゃないか。


「伊賀崎、すまん」

「え」


前を歩いていた明智くんが振り返ると、私の肩を掴み反転させられた。


「え、え、何?」


腕を捻られ、コートを落としてしまう。


「いた、痛いって、どうしたの明智くん!」


後ろから羽交い絞めされると、首筋を何かが這う。息が掛かるからその正体は分かっている。


「わ、わ、わ、ストップ!ストップ!」


ゾワリとしたので、彼へ必死に訴えた。耐えられない、止めてくれ!


「やはり光らない、か」


そう呟くと私の腕を解き、体を開放した。なんて事を!と思ったけど明智くんが私の前に行き、少し屈んでお守りを凝視する。


「あのね、いきなり驚くような事は止めてよ」

「痴漢や変態は宣言するのか?」

「……しない」

「だろう。でも危険だな、お守りの効果が切れたとは」

「さっきのは、明智くんなりの痴漢行為?」

「オリエンテーションの時に見た痴漢行為をそのまま真似た」

「あ……」


言われたから思い出し、その通りだと驚く。


「私、もう忘れてた。そんな事されたっけ」

「それはいい事だな。忘れたままでいい」


私の落としたコートを拾うと渡してくれた。


「一先ず家に送る」

「あ、うん」


無表情の明智くんの後をまた歩き始める。そっと彼の背を見つめながら、私は恐怖に慄いていた。彼は危険な人物になりつつある、と。なぜなら、あの犯人と同じ事をされたのに嫌じゃなかった。逆にドキドキして、顔が熱い。きっと頬も赤いだろう。


「……」


静かに深呼吸をして、心を静める。そう、公私を切り分けるんだ。私を消し、公を前に出す……これは仕事だと。今の私は仕事中、色恋沙汰には反応はしない。


「色々心配してくれて、ありがとう。お父さん」

「…ああ。気にするな」


私に好きな人は必要ない。しかも明智くんは家族を欲しがっていて、恋人には興味はないのだ。勘違いをしてはいけない。



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