大河要3
江里口くんの眼鏡のお蔭で、平和な日常を手に入れつつあります。
1人で買い物にも出かけられるようになりました。現に今、駅前のアイスクリーム屋さんでクレープを堪能しています。美味しいです、幸せです、ありがとう、江里口くん! もう彼を現人神にして信仰したいくらいに、感謝してます。
前日、お礼を兼ねて小物を入れる袋三つとハンカチ二枚をプレゼントしました。シンプルな絞り袋と綿のハンカチです。プレゼントに少し驚かれたが、喜んでくれたので私も嬉しかった。これでポケットの中身を片付け出来ますね。……してますよね?
本日もお守りはほんのり冷たく、服の下で静かに存在している。
あの警告お知らせ地獄から開放されたので、私自身余裕が出てきた。落ち着いてきたので、やっと私は自身のゲームの方に力を入れられる。
氷室くんのゲームの方が強く世界に影響を与えているのは、和田くんの存在があるからなのかもしれない。
まぁ飽くまで私の考えですが……。あちらの登場人物でゲーム詳細を知っている人が、私も入れて3人。いや、氷室くんを外して2人かな?
その点こちらは、『恋メロ』の事は私以外誰も知りません。ならばどうすれば、こちらのゲーム範囲を広げることが出来るのか……。それはもっとゲーム関係者との仲を深めて、氷室くんのゲーム色を薄くする事だと思ったんですよ。
そうなればきっと神様(製作者側)もそうせざるを得ないと。
その為に一度見た水原くん、見たこと無い南里瑞貴さんと地場結人くんと親しくならなければ。……力んでますが、案は全くありません。出来れば参謀に江里口くんをお誘いしたいのですが、無理です。私が恥ずかしいから、絶対無理です。
私が主人公の恋愛ゲームがあると告げるなんて、想像だけで悶え死にそう。
「氷室くんだけではなく、私もゲームの主人公なの!」
「恋愛シミュレーションゲームで、私が色んな男の人をあの手この手で落としていくんだ」
「監禁陵辱系よりも恋愛ゲーム、それって平和で素敵じゃない? 一緒に恋を応援しよう!」
言えるはずも無い。
しかも私の方は、ゲームかもしれない? という曖昧な状態なのですから。
江里口くんに相談すれば、きっと可能性を判断してくれると思う。でもね、でもね、もし「違うよ? 夢でも見たんだね」と返された日には引きこもりになれる自信があります。もう江里口くんの前にも出れない。ううん、きっと誰にも会いたくない。
氷室くんはよく告白できたなぁ……監禁陵辱系ゲームの話を。勇気あると今なら称えれるよ。ここはやはり、仲間であろう要に頼らないといけない? いや、それも難しい。
彼を避け、頼りたくない点が二つあるから。
まず1つは、『巻き込みたくない』。
幼少の頃から知っているだけに、私の我が儘に尽き合わせたくない。情報収集能力に特化しすぎて、変な能力の開花を避けたい。もっと自分の時間を大切にして、のびのびと頑張って人生を謳歌して欲しい。サッカーを頑張っているので、そちらに力を注いで欲しいです。
そしてもう1つ。これが一番の問題。私のゲームの『エンディング』。
誰にも見向きされず、告白されなかった場合、彼が私を迎えに来る。そして、プロポーズめいた事を告げるのです……って、なんでそんな事に!!
彼の貴重な青春時代を邪魔し、彼の時間を私に使わせるだけでも眩暈がして倒れそうなのに、将来さえも巻き込むかと思うと死んでお詫びしなければならないレベルだ。
主人公はどこまで幼馴染を縛り付ければ、気が済むんでしょうかね、本当に。
もしかしたら、要はみんなに振られてしまった可哀想なお姉ちゃんに、上手く協力出来なかった責任を感じたのかもしれない。責任感の強い子ですから……本当に、不憫な子。
そっと要から離れていくべきなのですが、それを止めて彼を導く事に決めました。それは前回の、スタンガン事件です。
お隣に住んでいる以上、係わり合いを避けるのは不自然であり、私の悩みや相談で彼の資質が変化していく様を見てしまった。これは本当に危険です、ある意味育成関連のゲームを感じます。
私が望んで、無茶な人生を歩みかねない幼馴染。それだけは駄目だ……ですので、彼の人生が幸先良いものにすべく、頑張る予定です。
そして、最後には素敵な彼女が出来るように応援だ。要の隣には、私よりも可憐で良い子が似合う。彼はもう1人の弟に近いので、馨同様に幸せにしなければ。2人の弟に誓う、お姉ちゃん頑張るわね。
私は食べ終わったクレープの紙を丸めて、ゴミ箱へ投棄した。
ご馳走様です、江里口くん。君のお蔭で美味しく過ごせてます。
見た目が変われば、気持ちが大きく変わるような気がする。
それは自分が自分で無いような気がするから? 江里口くんから貰った眼鏡を掛けた私は、学校へ来ている。中学校のサッカー部の他校試合を見になんだけど……日曜まで部活って凄い! 帰宅部の私には信じられない。
その貴重な日曜に私が学校へ来た目的は、水原くん。
高校には爽やかスポーツ少年になる予定の、水原翔太くんを見に来ました。数ヶ月前にすれ違った彼は、そろそろ身長が伸びて女子から注目を集め始めているでしょうかね。
今まで自分の事で手一杯だった私は、やっと情報収集に力を入れることが出来る。だから直に見にきました。二年中盤ですがまだ高校まで時間がある。仲良くなるの、間に合います?
サッカーの試合を見に来ている女子を見渡しますが、彼女がいません。彼女というのは水原くんの事を好きになる、私の友人、一条遥ちゃんです。遥ちゃんはどこかな? それともまだ和田くんにご執心だったりするのかな?
バレンタインに和田くんへチョコを渡しに行ったのですが、女子に囲まれていて手渡すのがやっとだったらしいです。
他の女子の前で渡すなんて、恐かっただろうにと聞けば、一列に並んで順番に渡していたのでそうでもなかったそうな。あまりのモテ具合に泣いて諦める彼女を慰めましたが……和田くんの無双状態に驚きですよ。こんなに女子にモテているのに、男子のやっかみが無いのが、更に恐い。高校ではどうなるんだろう?
うちのゲームの登場人物たちもなかなかイケメン揃い。しかもイケメンなだけじゃない、その上で、才能に財力に頭脳にスポーツにワイルドに……。人気はどう流れていくのか、今から楽しみ。
ただ、和田くんはイケメンか? と言えば違うと言える。なのにモテる。これは強敵かもしれない。和田くんは何か特別なフェロモンでも出しているのかなぁ……。
「ふむ」
それはまぁ、置いといて。
最近、遥ちゃんが明るくなってきたので、絶対今度こそ水原くんに惚れたと見込んで試合に来たのですが……いませんね。日曜日に遊ぼうと聞いたら、恥ずかしげに用事があると答えたから、応援だと思ったのに空振りかも、残念だわ。
サッカーの試合が開始されても、見当たらない。仕方無いから、帰るか。
「大河!」
聞き覚えのある名に、振り返る。ボールを受け止め、走り出した人物に驚いた。
「要?」
サッカークラブに所属しているはずのお隣さんが、部活の試合に。なんで出てるの?
部活と両立が出来ないので、入れないと話していたのを覚えてる。なのに学校の試合で見かけるなんて……要のプレイは、素人目にも上手く見えた。こうして見ていると、スタンガンを作成するなんて信じられない。ついつい試合終了まで見てしまった。
「し、しまった……」
せっかく便利な変身アイテムを手に入れたのに、無為な日曜を過ごしてしまった! いや、幼馴染の活躍を見れたので良かったじゃないか……。がっくり落ち込み、帰ろうと校門へむかうと遥ちゃんが! やっぱり学校に来てたんだ。他に三人のお友達と一緒だ。
「今日も素敵だったね」
「試合カッコ良かった!」
「もう少ししたら先輩引退だ……悲しいよぉ」
興奮して話し合っている。試合の話をしているから、私が見つけきれなかっただけか。でもどこにいたんだろう? ゆっくりとすれ違いながら、耳を傾ける。
「でも遥は水原一筋なんだよね」
「止めてよ、もう!」
「可愛いなぁ、告白しちゃえよ、上手く行くって」
水原とな? それは水原翔太だよね? 攻略対象者だよね? 同姓の別人じゃないよね? 聞きたいのを必死に堪える。
「今日も頑張ってたよね、少し見直しちゃった」
「だめぇ、水原くんを好きにならないで!」
「まさか、私は部長一筋だもん」
ガールズトーク、いいなぁ。私も入れて欲しい。でも水原くんって活躍してた? 試合では見なかったのでベンチだったのでは? と思ったんだけど。
「小さいのにコートでボールを拾う姿は、健気に見えたよ」
「お兄ちゃんの中に弟が1人に見えるから、恋愛対象になりにくい」
「そんな」
「あいつ、遥より背が低いじゃん」
「成長期だから、きっと背は伸びるわ」
「伸びるといいわね」
「?????」
何かおかしい気がする。でも立ち止まって聞けないから、通り過ぎるしかない。ああ、なんだろう、この眼鏡が姿を消す眼鏡だったらいいのに。
……いや、なんかそれだと倫理的に危険な使い方になりそうだから、これでいい、うん多分。監禁陵辱系の道具にされちゃいやだ。
それにしてももう少しヒントが欲しい、水原くんはサッカー部ではないの? コートっていってたから、バレーかテニスかバスケか……。あれえ?
「本当に、バレーが上手だよね」
バレーか! 立ち止まり、つい振り向いてしまった。すると遥ちゃんたちがこちらに気付く。不審な目を向けられたが、焦らずもう一度校庭へ向かう。忘れ物、そう、私は忘れ物に気が付いて戻っている……それだけ。無表情ですれ違えば、また話し始めた。
遥ちゃん、私ともガールズトークしてよ……寂しいわ。
もしかしたら、登校友達なだけで親しい友人と勘違いしているのは私だけなのかもしれない。うわー、凹むわ。
「おっと」
「きゃっ」
誰かと肩がぶつかった。
「大丈夫?」
「……ちょっと考え事してた、ごめんね」
眼鏡が落ちないように抑えながら、謝れば絶句して固まる。
「どうしたの? 痛かった? 大丈夫?」
心配は嬉しいし、こちらも悪かったので気にしないで欲しい。そして立ち去ってくれないかな……要。よりによってどうして要とぶつかるのよ、私。
「気にしないで、大丈夫です」
「でも……」
バレませんように、気付かれませんように、早く向こうへ行きますように。私の必死の願いを、彼は無視するようにジッとこちらを見る。あんまり見つめないで、恐い恐いよー、江里口くん、江里えもん助けてー!
心の声を上げるけど、万能の友人が現れることはない。
それはそうだよね、日曜だもん、学校にいないよ。
「……あの、何か?」
ジロジロ見られて、逃げ出したかったが、懸命に耐える。下手に覚えられるより、普通に分かれたほうが記憶に残らない、はず。
「さっきサッカーの試合見てたよね。他校の人?」
「あ、あの、急いでますので」
もう駄目だ。試合してても見かけたのなら、もう遅い。三十六計逃げるが勝ちだ、私は走って逃げだした。ごめんねと叫ぶ彼を置いて。
かって知ったる自身の学校。奥の校舎の柱に隠れてから、上下左右周りを見回してから眼鏡を取った。……下を見る必要は無いけど、念の為に。
「あー、驚いた」
心臓が激しく主張している。あんな真面目で畏まった要を見るのは初めてだ。変身が解けなかったところを見ると、伊賀崎花音だとはバレなかったんだよね?
まぁ普通見破るなんて出来ないとは思うんだけど、要だからなぁ……貴重なアイテムの効果を消されたくない。見た目まったく違う人間にしか見えないから大丈夫だとは思うんだけど、念の為に。油断は出来ない。
柱に寄りかかって座り込むと、思いっきり息を吐きだす。
「疲れた」
そして驚いた。水原くんはバレー部に所属していたとは。そして、遥ちゃんは彼の事を好きになった。それはゲームの通りに。
……でも高校でサッカー部に入るのに、中学校ではバレー部とは如何に。何があったのだろう? それとも公式通りなの? これは。
水原くんはサッカーが大好きで、高校のサッカー部にいるの? 現実だから色々あるとスルーしていいのか、探った方がいいのか。探るにしても、どう探ればいいの?
来年に控えた宇留間さん誘拐事件も調べないといけないのに。
「ちょっと待て」
超絶お金持ちのお嬢様との接触って、どうすればいいのかな……。
「悩むわー」
もう一度大きな溜息をつく。
「どうしたの?」
「手に負えないことが多すぎて、どうしようかと考えてるの」
聞きなれた声なので答えてから顔を上げ、そこで固まる。
「か、要。どうしてココにいるの?」
柱の横から覗き込むようにお隣さんがいた。校舎の奥だよ? 校庭から離れているこの場所にいるなんて、何故? ですよ。すると、キョロキョロしながら答えた。
「サッカー部の助っ人で」
中学校の部活でも助っ人ってあるんだ。
「そう……」
「で、何が手に負えないの?」
気もそぞろに聞かれてもね。
「それよりどうしたの? さっきからキョロキョロして」
「いや、ちょっと人とぶつかってさ、こっちに走っていったから」
一瞬、ビクつきそうになった。危なかったよ! すぐに眼鏡を取って助かったかも。要が追いかけてきてたの、全く気付かなかった。
「当たり屋?」
「いや、違う。怯えてたから気になって……しかも校舎の奥に向かったっポイから、外部の人なら出口が分からなかったのかなって……」
そうか、もっと普通にすればよかったのか! なるほど、今度は気をつけよう。
「花音はどうしてここに?」
さて、どうしよう。どう答えるか……。ふと、江里口くんの声が頭に響く。
『伊賀崎さんもいろいろ選択を気をつけてね』
大丈夫、要は私の味方だから。
「バレー部の試合を見に来たの」
言葉さえ気をつければ、大丈夫よ。彼を上手く導いて巻き込まない、これが大事なんだから。
「要は友人が多いよね、バレー部に知り合いっている?」




