水原翔太
聞いて後悔した。いるに決まっている、要は本当に友人が多いから。
「バレー部の友達? いなくもないかな」
少し妬んでしまいそう。そうか、やはりバレー部にも知り合いがいるのか……顔が広いんだね、やっぱり。私もたくさん友達が欲しい。
そう言えば小学校の時の友人と遊ばなくなったな。最近色々な目に遭っていたから、かなり疎遠になっている。久しぶりに連絡して、遊ぼうかな?
いやいや、目的を忘れちゃいけない。私には重大な使命があるんだ。ただでさえ氷室くんのゲームの所為で、色々と立て込んでいるのに巻き込みそうな約束は出来ないよね。
「要は本当に顔が広いね」
「こんなの普通だよ、普通」
あんまり普通を強調しないで。……私が普通じゃないみたいじゃないか、落ち込むぞ。心のHPがなくなる前に、話を進めなきゃ多分撃沈してしまう。
「二年生の水原くんを知ってる?」
「あー、あの背の低い」
知ってるんだ? 同級生でも無いのに。でも背が低いって……先輩なのに容赦ないな、少しは控えめに言おうよ。運動部関連って上下関係大事なはず、絶対に気をつけたほうがいい。注意しようと思ったら、カウンターを食らった。
「好きになったの? 明智はどうするの?」
久しぶりに彼の名前を聞いたから、驚く。話題にも出なかったから、すっかり記憶の奥の人になりつつあったり……いや、恩は忘れてないですよ? ええ、ほんとに。
でもまた『明智』ですか……一応年上なのだから、敬称をつけようよ。
「明智くんは関係ないから……」
「寂しいから?」
いない人の話をしてどうする。しかも私は遠恋中ってですか!? おかしいな、そういう誤解は随分前に解いたはずなんだけど……まぁいっか。私の事は置いといて、先ずは遥ちゃんの為にも情報収集をしなくては。
「私のさ、友達が気になってるみたいだから、知っておきたいの」
要がジロリとこちらを伺う。やましい気持ちは無いので、もちろん平気だ。宣言だってしてもいい。
「なによ、疑うの?」
「いや、花音の友人なら一条さんか頼元さんだろ?」
「!?」
君は何者なんだ? 何故に私の数少ない友人を知っているんだ。恐るべき情報収集能力、もしかしたら既に彼は、手遅れなところに行ってしまったんじゃないのか!? 驚く私に彼は軽く笑った。
「何だよ、これぐらい知ってるよ」
「もっと友達はいるわよ、小学校の時の友人だって」
最近かーなーり、疎遠だけど。
「そいつらは違う、花音の友達なんかじゃない」
きっぱりと言われた。情報通の要に言われると、凹むよ……だって確定だから。そうか、中学校に入ってから遊ばなくなったのは、そういう事だからなのか……。
私は友人のつもりだったけど、彼女らはそうじゃなく、クラスメイトだった……それだけの話。心に強い痛み(ダメージ)が、……なんだろう目の奥が痛む。
「水原を好きになりそうなのは、一条さんだろうな」
「うぐっ!!」
ダメージを受けている場合じゃなかった。君は勘も冴えているのか!! 彼女の話を君にしたこと無いのに、ここまで読むなんて。もう何か特別な能力でも備えているのでは?
江里口くんを知っているだけに、疑ってしまう。
「そんな目で見ないでよ。一条さんって恋するのが好きそうだから、なんとなくだよ」
なにぃいい、そんな目で遥ちゃんを見てたのか、少しムカつくぞ。すごくいい子なのに。
「花音、そんな顔しないでよ、分かった、調べとくから、ね」
そこまで顔に出したわけではないが、彼に宥められた。なんだか私の方が年下みたいな扱いを受けてる様な? 気のせい?
「俺、もう一度サッカー部に戻らなきゃ、また後で」
すぐさま校庭に向かって走り出した。なんだか逃げられた……? まぁいいか、また眼鏡を掛けて帰らなきゃいけないし。
「誰も見ませんように……」
私は更に注意して柱と木の間で眼鏡を掛けた。
本当にすごく便利な眼鏡だ。ちらりと足元を見れば、欲しいなと思っていた靴を履いている。少し足を動かすと、走りやすそう。やっぱり欲しいな、この靴。
でも服装すら思いのままなのは、助かる。中身が変わっても、服が変わっていなかったらさすがに怪しいもんね。ただ、私が知っている服にしか変身できない。
今、ジーパンにシャツというシンプルな服なのは、私が考えるのを放棄したからだ。……靴だけに意識を向けすぎたかも。これからおしゃれに気をつけないといけないのにね。
今の私は、流行パラメータが「0」の様な気がする。チート機能が欲しいよ……。誰かに頼めない頼みを考えながら、家に帰った。
家でのんびり馨をあやしていると、玄関から要の声が聞こえた。
「花音いる?」
「居間にいるよ~」
返事をすれば、洗面所に向かう。よし、ちゃんと今回も手洗いうがいをしてくれている。教育が行き届いてお姉ちゃん嬉しいよ。
「馨、お隣の要お兄ちゃんが来ましたよー」
一生懸命ハイハイをしながら弟がにんまりと笑う。おーおー、よだれがすごい。柔らかいガーゼで口元を拭けば、嫌がって顔を背けた。
「ハロー、馨。んで、水原の情報聞いてきたよ」
手を洗ってきた要が側に座る。
早い! ……そういや学校にはバレー部もいたからたまたま聞けたのかな?
「両親、兄、弟、妹の家族構成で」
「……え?」
「なんと親は元リーグの有力選手で、次期海堂グループのバレー実業団監督の予定らしいんだ」
「……」
「兄は有名なバレーボール強豪校の寮住いで、弟は小学3年生、妹は1年生」
「あ……あの、要さん」
「あ、そうそう、身長は148cmで、体重は38kg。血液型はA型」
馨がおもちゃを掴む。寝転がり、足を上げる姿は可愛すぎてたまらない。
「恋愛遍歴は皆無に近いと思うよ。バレーボール命でそれどころじゃないみたい」
そう、それよ。そういうのが聞きたかったの。なのに何故に家族構成? 本当に探偵になったようで、恐いぞ。そして、それをどうやって調べたのか不安になる。犯罪には手を出してないよね? 書類か何か盗み見とかじゃないよね? 聞いたのは私だから、私がやらせた事になる。
うう、恐いけど責任は私が取らなくては。
「お兄さんは片思いの彼女がいるらしくて、メンタルに弱いのが悩みの種かも」
「いや、家族の事はいいから」
何故に彼のお兄さんの恋愛情報まで……このままでは弟や妹の事まで語りそう。もしやそれを手助けすれば、更に水原くんのより詳しい情報がとかじゃないですよね?
「えっと、その……水原くんはバレーが好きなの? 例えば他の……そう、サッカーとかは興味ないのかな?」
私が聞きたいのは、水原くんの話だ。彼自身の事だけでいい。
「あると思うよ」
何故気持ちを知っているんだ!、と聞きたい。要はチート能力者なの!? ああ、ツッコミしたい。
「なんでそう思うの?」
「だって、小学校の間は俺のいるクラブに所属してたもん」
なんでその事を教えてくれなかったの!? いや、話してないから教えてもらえるはずは無いけどね。
「そうなの?」
「うん、足腰を鍛える為って言ってたけど、楽しそうだったし」
「楽しそうなら、何で辞めたの?」
ならば高校でサッカーを始めたのは、バレーよりもサッカーがしたかったからなのか。
「バレーの為」
「バレーの為?」
「そう、中学からはバレー一本で頑張らなきゃいけない、って話を聞いたことがあるから」
親が、親がバレー選手だったから、バレーを強制でやらされているのかも。
でも高校で方向転換とは……親と喧嘩になってないかな。
「可哀想だね」
そんな、あの爽やかイケメン水原くんに、そんな暗い過去があったのか。本格的に攻略していないので、事情を知らなかった。
「そうでもないよ?」
「へ?」
要が馨を抱き上げる。
「水原は一生懸命バレーに打ち込んでいるし、将来実業団入りを目指してるよ」
「???」
どうしよう、ゲームと辻褄があわない。
「だってサッカー好きだったんでしょ?」
「まぁ、好きだったと思う」
「それを親に止めさせられて、無理やりバレーを」
「違う、違う、バレーの為のサッカーをしていたんだよ」
なんじゃそら?
「たださ、サッカーが上手かったから、もう少し続けないかと親も言ってくれたらしいけど、水原が辞めると決めたんだ」
「?????」
なら何故高校でサッカー部に?
「水原くんは本当にバレーが好きなの?」
「夢を語る目に嘘は見えなかったよ」
って本人に聞いてきたんかい!
「……もう知り合いって言うより、友人だったりするのか……な?」
さり気に聞いてみれば、肯定の言葉が返ってくる。
「まぁね。小学生の時、一緒にサッカーしてたし家に遊びにも行ったよ」
なんだか疲れた。酷く遠い回り道をしたような気分になるのは何故でしょう。いや、先程の心配が消えただけ、うん、よし! 犯罪ルートでの情報収拾じゃなかったんだから、よかったと思おう。
家にまで遊びに行く仲ならば、友達だよね。うんうん、それなら家族を知っていてもおかしくない。
「今聞いた話を遥ちゃんにしてもいい?」
「いいと思うよ」
要は馨を抱えたまま、部屋を歩き回る。弟の喜ぶ声に、私も嬉しくなって笑う。結構情報収集が簡単に終わったので、気が抜けた。
少ししてお父さんとお母さんが帰ってくると、彼は帰っていった。なんだ、このままなら要も普通に過ごしていけるかも。
でも、考えを改めさせられるのは布団に入ったときだった。
身長と体重はどこから? 血液型って男子もよく聞くもんなの? 学校の書類か何かを見たのではなかろうか?
気になり眠れなくなったのは、言うまでもない。
「……要は、もう寝てるか」
そっとカーテンの隙間からお隣を見れば、真っ暗。明日の朝、私は彼に聞ける? どこで知ったのって……。
午前様まで悩み続けたけど、翌朝杞憂だったことを思い知らされた。単純に普通に聞いたそうです。
要をそういう風に仕立てていこうとしているのは、自分ではないだろうか……。新たな悩みの種に、まだまだこれから苦労しそうだ。




