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恋愛ゲーム、ですよね?  作者: 雪屋なぎ
中学生 編
22/503

氷室瑛太


 最近、毎朝チョコを食べているから?

 額にふきでものが!!

 中学生だから、まだ『にきび』と呼んでもいいかな……。


 バレンタインが近づくにつれ、遥ちゃんの手作りチョコ入りタッパーの数が増えていく。

 今朝はトリュフにチョコクッキーにキャラメル入りチョコ等々。

 遥ちゃん、毎日は辛いよ。しかも明智くんは食べないので、必然的に全部私へ。これは、もう覚悟を決めてカロリーについて、勉強すべき?


 和田くんへの接触は、難航。

 なぜなら、女子の壁が厚いのだ。休み時間になっても、給食の時間になっても複数の女子が側に! なんなんですか、あの男は! ハーレム状態にしか見えない。

 明智くんも和田くんがトイレに立つ時や、独りになる瞬間を狙っているけど、なかなかどうして……。協力も何もできない悔しさに、心が荒みそう。

 しかも休み時間に和田くんを見つめていると、こちらに微笑まれました。


 ひぃいい、なんかフェロモン飛ばしてない? 引きつる笑顔を返して、すぐに目を離したけど。


 某一撃必殺スナイパー気分で見つめていたので、睨んでいなかったか不安なんだけど、微笑んでくれたので大丈夫?

 でもどうしよう……誕生日すら調べられなかった!

 このままじゃ何の成果も出ない。


「花音ちゃん」

「ん?」


 氷室くんが私の机に来て、しゃがみ込む。

 下の名前を呼ばれたので、えー……と思ったけど、公式的に命の恩人なので我慢スルーだ。


「何かな、氷室くん」

「そこは、瑛太くんか、瑛太って呼んでよ」


 はっはっは、何を言っているのか理解できません。

 黙っていると、上目遣いで怒っちゃいやん、と茶化してきた。


「和田に興味あるの?」

「ないよ?」


 真剣な顔になったので、少し驚く。


「だって熱い視線を送ってたじゃない」

「ちょっと事情があってね」

「事情?」

「だめ。口外できないの、大事な約束」

「うーん、花音ちゃんが好きなわけじゃないんだね」

「へ?」


 怪訝な顔をしてしまった。


「うん、なら良かった」


 何が良かったのか……。


「お願いだから、あいつと二人きりにはならないでね」

「それってどんな状況よ」


 氷室くんが唸る。


「一緒に歩くとか、同じ部屋にとか」

「ありえない状況をあげられてもねぇ……」


 親しくもない和田くんとそういう状況になるなんて、想像すらつかない。話した事も数えるくらいしかないと言うのに。


「和田はあの話に関係あるのか?」


 突然明智くんが話に入ってきた。あの話ってなに?


「まぁね、俺のライバル的存在っていう奴かな?」

「確定なのか?」

「奴の過去は知らないから、行動を起こしているかどうかは分からない」


 キミら、私に見えない話を交わさないでよ。ちょっと寂しいぞ?


「もし行動を起こしているなら、シンパの女子にも気をつけた方がいい」

「シンパって宗教か何かしてるの?」


 一生懸命会話に参加してみる。私にも詳しく教えて欲しいな。


「……ああ、ある意味それ近いかも」


 氷室くんが眉を顰めるのはじめて見た。

 そこまで避けたい相手なの!?

 もう一度和田くんを見れば、口の端だけ上げた例のアルカイックスマイルでこちらを見ていた。そして私と目が合う。その表情にゾッとしてしまった。

 目を離せないでいると、氷室くんが立ち上がる事で遮ってくれた。

 その瞬間、ホッと体の緊張が緩む。


「また目を合わせてたでしょ? 駄目だよ、花音ちゃん」

「伊賀崎、大丈夫か?」

「明智も気を付けてくれよ。本気で動かれたら」


 身の危険を感じた私は、氷室くんの制服を掴む。


「か、花音ちゃん?」


 驚く彼に、睨みながら口の端を上げた。


「私、氷室くんと色々お話したいわぁ」

「いやん、積極的~」


 茶化して逃げる気?


「お昼休み楽しみにしてるからね、逃げちゃ嫌よ?」


 氷室くんは困った顔をして明智くんに視線を投げる。その視線を追いかければ、眼鏡を中指であげて頷く明智くんがいた。男同士の理解していると言わんばかりのコンタクトは、なんだか妖しいぞ? なんちゃって。


「伊賀崎に混乱されては困るから、俺がまとめておく。それでいいな? 氷室」

「オーケー」


 不穏な空気が漂っていると思うのは、情報が少ないからだ……と思う。遥ちゃんも関係あるんだから、知らない話は無い方がいい。


「じゃ、あとでね」


 氷室くんが席に戻る、先生が教室に入ってきたからだ。その後は大人しく授業を受けた。

 お昼休みになると明智くんに伴われて体育館側の外階段に向う。

 給食を早く食べていつでも出る準備をするつもりだったけど、さすがは男子。二人はもっと早かった……少し悔しい。

 だが消化の悪い食べ方は推奨できないな、気をつけた方がいい、と負け惜しみしてみる。

 私の完食を待っている間、どこに行こうか話し合ってくれて、ココになった。どうも人に聞かれるのを避けたいらしい。

 内緒話だからソコになった理由は分かる、誰も寒い外階段には来ないだろう。

 でも私も寒いぞ。太陽の光のおかげで少しはましだが、まだまだ春の気配が遠くかなり寒い。もう少しマシな場所って無いのかなぁ。


「さすがに寒いわねぇ」

「花音ちゃん、また今度にしない?」


 氷室くんが体を擦りながら、教室へ戻ろうと提案してくる。


「和田くんの話がまだよ」

「明智、どう話すんだよ。花音ちゃん守るんだろ?」


 1人寒くなさそうな明智くんが顎に手を沿えて、考えている。

 守るって、まだそう思ってるんだ。確かに毎日一緒に走って、一緒に登下校しているけど。近くに住んでいる友達だから一緒にいるんじゃないの?

 明智くんにとって私は友達でなく、守る為の義理的な関係なのかな? それだとなんだか寂しいぞ。


「伊賀崎、俺は一条に協力できなくなった」


 最初に遥ちゃんの話ですか……まぁ、関係しているからそうだよね。


「それはさっきの会話でなんとなーく予測がついてたよ」


 もしかしたら新興宗教の教祖かもしれない和田くんに、彼女を近づけさせたくない。遥ちゃんがハーレム要員になるのは嫌だ。

 だから協力できない事に私も賛成だ。


「それよりも近づいちゃいけない、って言われる方が気になる」

「花音ちゃんはもう分かってるんじゃないの?」

「え」

「視線、離せなかっただろ?」

「う……まぁ」


 氷室くんはハァと溜息をつくとM字型に座り込んだ。


「花音ちゃん、スキルアップしよう」

「なんですと?」


 彼はすくっと立ち上がると、私の顎を掴んでジッと見られた。氷室くんは私より身長が高いので、少し上を向かされる。なに? この体勢は!


「や、や……」


 驚きと恥ずかしさで動けなくなりかけたが、にきびを思い出して暴れた。額にあるのを見られたくないと、慌ててしまう。


「止めろ、氷室。セクハラにしか見えない」

「酷いっ! 俺は真剣だお?」


 氷室くんの腕を片手で叩き落し、明智くんが私の前に立ちはだかってくれた。

 被害者ぶっているが、叩かれた手を摩る姿がわざとらしく真剣に見えない。


「痛いって……これは対策なのにー」

「対策?」


 じろじろ見られることがなんの対策になるんだ! 恥ずかしい。


「花音ちゃんが綺麗になれば、和田は魅了しにくくなるんだ」

「魅了!?」


 彼は吸血鬼か何かなの? あのゲームにファンタジー要素ってあったっけ? 混乱してしまう。


「まずは、眉を整えて、毎朝化粧水と乳液で肌を整えて、日焼け止めも塗るといいよ」


 氷室くんって一体何者なのよ、って彼を見れば肌が綺麗だ。中学生は肌のトラブルが多いというのに……もしや、ちゃんと手入れをしているの!?


「髪もそうだねぇ、洗わないトリートメントで整えよう!」


 明るく提案されていくが、それって本当に対策ですか? 疑いのまなざしで見ていたら、破顔一笑された。


「花音ちゃんって可愛いんだからさ、すぐに効果現れるよ」


 簡単に言ってくれるけど、肌が綺麗で顔が整っている彼に言われたくない。


「あ、ありがとう」


 乾いた笑みを返せば、氷室くんが少し怒る。


「卑下しない。本命がいるから我慢してるけど、花音ちゃんが俺を思ってくれるなら、いつでも受け止める覚悟はあるよ」


 真顔になられた途端、頬が熱くなった。


「何よ、その上から目線は!」

「あ、つい、ごめん、ごめんって花音ちゃん」


 頭を抱えて逃げる氷室くんの背を数回叩いた。失礼すぎるぞ、君は。


「それに、花音ちゃんって呼ばないでよ、伊賀崎でお願いします」

「あー、やっぱりまだ早かった? 残念」


 困った顔で笑われると、やはりドキッとしてしまう。なんなのよ、これは。


「何が残念なの? やっぱりまだ何か隠してない?」

「それ以上知りたかったら、俺を好きになってよ。そのときに言うから」


 自分でも分かるほど顔が赤くなったと思う。頬がすごく熱いもの。


「絶対来ないわ」

「言うと思った」


 ぷっと失笑する彼にムカつく、けど不快な怒りじゃない。


「早くにきび、治そうね」

「!!!!」


 やっぱり見られてた! 教室に戻る頃には、寒さなんて全く感じなかった。むしろ熱い。

 でも、なんで氷室くんにこんな態度をとってしまうんだろう。不思議に思いながらも、頬の熱がなかなかおさまらなかった。



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