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恋愛ゲーム、ですよね?  作者: 雪屋なぎ
中学生 編
21/503

和田大樹


 名前:和田大樹

 備考:第三中学校1年2組35番

    彼が気になる女子はクラスメイトでも数人はいると考えられる。


 私が知っている和田くん情報だ。

 身長はそんなに高くはない。一緒に女子と歩いている所を見ても、ほんの少し周りより高いくらい。顔は特徴を挙げにくく、目立つ黒子・特徴なし。特にイケメンと言うわけでもない。中学生にイケメンという表現を使うものかどうかは分からないけれど……可もなく不可もなく、そんな顔だと思う。

 小学校は私とは違うので、どんな子供だったのかは知らない。ただ、健康診断やオリエンテーション、色んなイベントで女子が彼の周りにいてハーレム状態をよく見る。

 朝の登校で遥ちゃんにカミングアウトされたので、彼を注意深く見るようになったけど。和田くんが好きだなんて……どこで何があったのよ、遥ちゃん!

 水原くんもどうしたんだか……1年生だから、まだ目立ってないのかな?

 彼女はるかちゃんの予想しなかった言葉で頭が真っ白になり、動揺して詳しい話が聞けなかったのは痛かった。


 今日も彼女は部活があるので、一緒に帰れない。だから何故彼を好きになったのかわからないし、聞くことも出来ない。違うクラスなのにどんな接点が? 

 気になっていても立ってもいられない!! もう和田くんに問いただしたい気持ちになりそうで、恐いなぁ。

 休み時間の時にちらりと和田くんを観察してみると、相変わらず女子に囲まれて笑っている。

 おのれ~、私がこんなに苦悩しているのに彼は終始笑顔で女子に囲まれてるなんて、なんて幸せそうなんだ。

 でも和田くんの他の表情を知らないな。真剣な顔や怒っている顔、悲しんでいる顔を見たことがない。親しくないからそうなのかもしれないけど。

 彼の表情を見てみれば、いつも同じ笑み? を浮かべている。それで温厚な人物に見える。いつも微笑んでいるように見える顔、アルカイックスマイルだったりして。


「伊賀崎」


 名前を呼ばれて彼から視線を逸らす。


「何? 明智くん」

「あまり見つめるな。こちらが関心を持っている事が知られるぞ」


 そうでした。私、めちゃくちゃ観察してた。

 彼に見つからないようにと言った先から、怪しい行動を……今日はよく観察してしまったので、あからさま過ぎたかも。

 学校の残り時間は大人しくすることにした。


 和田くんに対する正直な感想を明智くんから聞きたいが、下校の時でいいかな。私は前を向いて次の授業の準備に取り掛かった。

 ちなみに席替えはいまだに行われていない。

 先生が必要ないと判断した為だ。

 冬は廊下側が寒くなるので、南側の窓側が羨ましかったりする。いいなぁ、お日様の光。ぽかぽかして温かくて……家の弟へ思考が飛んでしまう。

 最近は首が据わってきて、私でも安定して抱っこできる。抱きしめるとミルクの匂いがして柔らかくてふにふにしてて、小さな手でしっかりと服を掴むんだ。

 もうこれは天使だ、うちには天使がいる。オムツ交換は大変だけどね。


 下校の時、私は気になって先に靴箱に行くと3組の前に来た。

 水原翔太くんの存在を確認する為に。入学式に名前は確認できたけど、本人を見ていなかったんだよね。他のクラスを覗いたり聞いたりする事って難しい。

 水原くん本人にとって私の存在が希薄でなければならないので、気軽に近づかない。直接見たいのは、私の記憶に間違いがあるのかもしれないと思ったからだ。

 この世界がゲームの世界に少しだけ似通っているのか、世界そのものなのか、その判断材料としても知っておきたかった。


「伊賀崎?」


 自分の靴箱へ行かない私に、明智くんはどうしたと傍に来る。


「ごめん、明智くん。少し気になる事があって……」


 話せない事情をどう説明しようか考えていると、後ろから誰かに怒られた。


「どけよ、邪魔」

「ごめんなさい」


 すぐ謝り、場所を開ける。


「いいよ、別に」


 私の横を通り過ぎた人物は、私より背が低かった。学校指定の体操服を着ている。恐らく今から部活に行くんだろな。小さな男の子は靴を履き替えると、そのまま走っていった。


「……ん?」


 私がその彼を見送っていると、明智くんが知り合いかと訊ねてくる。が、私はそれどころじゃない。走り去った彼の靴箱の名前を見て、もう一度走り去った先を見た。

 明智くんに、知ってる人ですとはもちろん言えない。あの小さな人が三年後サッカーで女子を騒がせる人です、とも。

 爽やか照れ屋の水原くんは、高校デビューだったのか……。それともモテるようになってから爽やかさが形成されたのかな?

 先程すれ違った彼は『部活を真面目に頑張る少年』だ。

 坊主頭なので、高校の時の彼と印象が合わない。ゲームの通りに成長していくのかな、違うのかな。イラストを曖昧に覚えているだけなので、自信がない。


「伊賀崎? 早く帰って弟に会わなくていいのか?」

「そうよね、帰らなきゃ」


 私はこの問題を先送りすることにした。

 水原くんはきっとこれから成長して身長が伸びていく。そしたら遥ちゃんも……うーん、いつの試合で一目惚れしたんだろう? 2年生になってからかな。和田くんを好きなのは今だけで、水原くんが目立ってきたら変わるのだろうか?

 靴を履き替えながら考え込んでいると、明智くんが肩を叩く。


「歩きながら考えよう。早く帰るに越したことはない」

「ごめん、そうだよね」


 驚く事がたくさんあったから、家に帰って天使に癒されよう。校門を通り過ぎると、私は明智くんに『和田くん』の印象を聞いてみた。


「明智くん、正直な話、和田くんの事はどう思う?」

「どうとは?」


 質問の意図が分からなかったようだ。


「人となりをどう見る?」

「普通に見える」


 普通か……それだけで片付けられるかなぁ。


「何か気になる点でもあるのか?」

「いや、うーん、和田くんってモテるよね」

「そうか?」


 気付いていないの? あのハーレム状態を。


「休み時間は女子に囲まれていたり、班を決める時だって女子が言い争ってたり」

「それは席の所為だったり、人数的に合わせやすかったり、友達だったからとは判断できないのか?」


 そう言われれば、そうとも受け取れる。

 あまりに女子に囲まれ、楽しげに過ごす和田くんに嫉妬したのかな。羨ましさから敵視して苦手と思い込んでいたのかもしれない。


「それに和田が告白されたり、誰かと付き合っているという話も聞かない」


 明智くんの的確な指摘に落ち込んでしまう。

 ハーレム状態と判断していた自分はなんて不純なんだ。女友達がたまたま多かっただけに過ぎない彼を色眼鏡で見てた。

 朝、動揺してて良かったと思う。

 遥ちゃんが水原くんを好きじゃない、よく知らない和田を好きになっていたのがショックだったから、彼女の気持ちを否定してしまう所だった。


「遥ちゃんが好きになったんだから、きっといい人だよね」

「それは早計だと思う」

「え」

「人となりは、やはり直に話さなくては」

「まぁ……そうだよね」


 人が肯定した途端、切り返すなんて。明智くんは何がいいたいんだ。いや、憶測で会話してても先に進まないよね。

 交流ってやっぱり大事。


「伊賀崎の、和田への第一印象は嫌いだったのか?」


 突然に振られて和田くんを思い浮かべる。今度は色眼鏡を付けずに。


「なんだろう、嫌い……じゃないけど好きでもない、かな」


 この言い方は、すっきりしない。なんと表現していいのか分からないので、これ以外言いようがないんだけどね。


「そうか。頼元にも意見を聞けたらいいのだが」


 席が私よりも近いので、少しは実のある話が出来そう。


「登下校以外、和田の事は話さないと約束したから無理だな」


 が、すぐに却下。そうでした、彼女に約束したんでした。遥ちゃんの信用を失いたくないので、しょうがない。


「そうだ、明智くんの直感はどうなの?」

「様子見」

「様子見?」

「噂や人からの情報で判断しないようにしている」


 ん? 何か矛盾を感じる。


「私や愛梨ちゃんの意見を参考にしたいのに?」

「それで相関図が分かる」

「?」


 漫画や小説でよく見るあの図か!


「本人の確認だけだと、のちに失敗する可能性が高い。周りの人間との関係や背景にも気を配らないと見えるものも見えなくなる」

「……」


 たかだか中学生の初恋にそこまで? いや、遥ちゃんにとっては今の恋心が大事なんだから、簡単に考えるのは失礼だと理解している。でも協力の形があまりに壮大すぎて、彼を遠く感じてしまう。

 心の距離が遠いよ、帰ってきて明智くん。探偵にでもなるつもりなのかい?


「えっと、良い人だといいね」

「ああ」

「でも同じクラスメイトなのに和田くんをあまり良く知らないのは、きっと席替えがなかったからじゃないかな…」

「……」


 この前遥ちゃんに話したら、驚かれた。

 席替えしていないのは2組だけ。2学期まではうちのクラスも頑張って席替え要望をあげていたんだけど、もう3学期なので、みんな今更と諦めている。

 先生がのらりくらりと手を替え品を替えて席替えから逃げ切ったのは、呆れるを通り越してお見事と言わざるを得ない。


「一先ずは……明日の朝に遥ちゃんから詳しい話を聞いて、和田くんと親しくなるか」

「待て」


 突然、止められた。


「和田に接触するのは俺がやる」

「どうして?」

「……敵を作りかねない」

「敵?」

「そうだ、敵だ」

「誰に?」

「伊賀崎に」

「私に?」


 何故に私が? 和田くんと話すだけで敵を? ああ、そうか。


「女子に人気の和田くんだもん、私が近づく事によって他の女子が嫌がる可能性があるのか」

「ああ」


 髪も短くおしゃれもしていない私が近づくのも嫌がる……恋ってばすごいね。でも、親しくなる為に話しかけなくていいのは助かる。

 多分、彼と話すと疲れそうな気がするから。


「なんでこうなったんだろう」

「さぁな」


 律儀に応えてくれる明智くんに感謝しつつ、帰宅を急いだ。





「馨~、ただいま!」


 玄関からこっそり居間を覗けば、起きているようだったので声を掛ける。こちらを少し見た! かも。


「待っててね」


 急いで服を着替えて、うがい手洗いをする。除菌をちゃんとしないとね。


「お姉ちゃん、帰ってきたよ~」

「花音、おかえりなさい」

「ただいま、お母さん」


 居間の一角に布団が敷かれて、その上に弟と母親が寝転んでいる。私も弟の隣に寝転べば、こちらへ視線を動かしてくれた。


「馨は今日も可愛いねぇ」


 名前は馨に決まった。お父さんが意味をたくさん語っていたが、可愛い弟に集中していたので、よく覚えていない。

 あふぅと手を振る姿を見て、カメラを! と探してしまう。


「なんて君は可愛いんだ、お姉ちゃんは幸せだよ~」

「じゃあ花音、またよろしくね」

「は~い」


 宿題を弟の隣でするのが日課となりつつある。時々声を出すので、その度に手が止まり微笑んで見てしまう。通常より時間が掛かるけど、至福の時だ。


 充電している、そんな気持ちになる。


 水原くんと遥ちゃんの関係はこれからどうなるんだろう。高校でサッカー部マネージャーか、体育コマンドで知り合う水原くんに、係わって変な事にならないだろうか。それともイベントは変わっていくのだろうか。

 最近、なんで私がゲームの主人公らしき人物なのか、考えている。いやいや、恋愛イベント1つも起きていないんだから、勘違いかもしれないんだからね!?


「ゲームかぁ……」


 よく考えてみたら、自分を好きになるフラグって恐いと思う。

 人気者の水原くんや超お金持ちの海堂の御曹司、コンクール常連の土田くんとか天才バイオリニスト天ヶ瀬司とか……そういう華やかな方々を彼氏に望むのは恐ろしい。現実だったら好意を持たれる事なんて、絶対にありえない。

 かなりの理由付けがないと信じられないよ。


「うー」


 弟の声でハッとした。いけない、ネガティブの海にダイブしてた。


「馨、ごめんね、早く宿題を済ませるから待っててね」


 そう語りかけると、笑ってくれたような気がする。今日はもうストップ、ゲームの事は考えない。目の前の幸せに集中しよう。急いで宿題のプリントを片付ける。

 全ては馨と絵本を読む為に。



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