終わりのオープニング-1
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過去回想から始まる物語はあまり好きじゃないんだが。
終わってしまった以上、語るべきは過去しかないので致し方ない。
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妹の顔はいつだって今見ているかのように思い出せる。
今はもう、色んな意味で昔のように触れ合うことはできない。
だったらもっと優しくしてやれば良かったという意味のない後悔ばかりがよぎる。
きっと俺は良い兄ではなかったのだろう。
だから守らなければ。
忙しい父、そして亡き母の代わりに、この世界の脅威の何もかもから。
平和を脅かす悪意の化け物が、日常のすぐ側に潜んでいると知ってしまったから。
幸か不幸か、そのための力を手に入れたのだから。
そしていま俺は……。
俺は……。
(考え事かい、シンシア?)
「やめろ、お前まで俺をその名前で呼ぶんじゃねぇ」
何故かいま俺は、魔法少女をやっている。
どうしてこうなった……。
(あれ、あのギフテッドたちの前でそう名乗ってただろう?)
「本名を名乗るわけないだろうが。偽名に決まってるだろ」
(なんだ、てっきりその姿を受け入れてシンジローの名を捨てたのかと思ってたよ)
「んなわけあるか、俺は男だっての」
どこにでもいるような中肉中背の平均値男だった姿は見る影もない。
短い髪は長く艶やかに。
最低限ついていた筋肉は丸みを帯びた柔肌に。
平均程度あったはずの身長もかなり低くなった。
どこからどう見ても男には見えない、中学高校くらいの少女の見た目。
というかちょっと成長した妹にしか見えない。
こんな姿で進次郎と名乗っても要らない混乱を招くだけだろう。
ちなみにギフテッドとは魔法少女のことだ。
魔法少女たちは自分たちのことをあまりそう呼ばないが。
そして目の前で浮いて喋ってる謎の黒い毛玉が、魔法少女に魔法を与える精霊、ギフター。
要はマスコット的存在ってやつだな。
口も性格も悪そうだが、恐らくそんな悪い存在ではないだろう。
利用されてるだけかもしれないが、俺の命を救い、力を与えてくれたのだから。
(まあシンシアって名前の方が呼びやすいからそう呼ぶね)
「おい」
(あ、敵だよ。近い。D級程度の怪人たちが集まってる)
「チッ……まぁいいや、雑魚だな。行くぞクネヒト」
(何度も言ってるけど、使い過ぎないようにね)
「わかってるって。『コンバージョン: ルミナス/ヴェント』」
黒髪が黄と緑に光る。
視界が少し滲んで姿は幻に溶け、耳鳴りが僅かに響き背中を押す追い風となる。
少女の姿は、シスター服のような魔法少女の姿に。
シンシアと呼ばれる少女から、怪人に恐れられる【魔法少女シンフォニア】に。
さぁ、行こう。
――出陣だ。
・・・
この頃はまだ、真剣味が足りなかった。
非常識な魔法の力に、少し興奮して浮かれていたのかもしれない。
大人になり切れなかった元子供。
子供に戻ってしまった元大人。
歪みは最初からあったのだろう。
もっと良い解決策もあったのかもしれない。
でも、まぁ、きっと。
自分にしてはよくやった方なんじゃないかなとも思う。
・・・
いつ頃からだろうか。
メディアでは決して報道されないが、『怪人』という存在がまことしやかに噂されるようになったのは。
謎の災害。謎の事件。謎の行方不明者。
明らかに説明がつかない理不尽。まるで超常現象のような都市伝説。
ここ数年で増えた、超常現象としかいえないようなニュース。
それらを陰で操る謎の存在がいる。
そうした陰謀論のようにささやかれているのが『怪人』というもの。
噂は尾ひれをつけ、衣をまとい、闇雲に肥大化しては世間を静かに巡り、……しかしどうせいつの間にかそれも語られなくなる。
いつかまた違う噂が生まれ、みんなの興味もそっちに流れ、古いおもちゃだった話は捨てられるだけだろう。
風化して忘れられていくだけ。よくある話だ。
こんなもの、結局ただの噂に過ぎない。
わけが分からなくても、それは自分の中の常識で説明がつかないというだけ。
世間はもっと大きな論理で動いていて、社会は自分のちっぽけな理解を超えて回っている。
考えても仕方ないことだ。
遠い場所の災害のように、現実味もなく、自分たちの生活には何の影響も与えない。
当事者にならない限りは、一時の娯楽として消費されるだけのもの。
どうせ、そんなもの。
最初に聞いた時もそう思った。
妹の通う中学校で話題となっているという、『怪人』の暗躍。
駅前の雑居ビルの爆発は『怪人』の仕業、らしい。
隣町では行方不明者が出た事件もある、らしい。
人知れず戦っている魔法少女がいる、らしい。
らしい、らしい。
根拠のない子供の伝言ゲーム。
ゲームかアニメかマンガのような、荒唐無稽な作り話。
そうだろう。そうに決まっている。そんなのあるわけがない。
少し興奮気味に喋る妹と、どのような会話をしたかもあまり覚えていない。
きっと、適当に相槌を返し、適当に盛り上げて、適当に丸め込んだ。
いつものこと。単なる世間話。
可愛らしい妹との会話は嫌いではないが、疲れているとたまに適当になってしまう。
新社会人としてやることが多い自分にとって、家族との語らいの優先順位が下がりつつあるのが悲しくなるが……。
……仕方ないことだ。これが、大人になるということだろう。
ただちょっと申し訳ない気持ちもある。
だから何か、お詫びに何かしないといけないな、とも考える。
また、明日。もしくは、次の休み。
今は余裕がないが、そのうち余裕ができたら向き合おう。
ちゃんと考えよう。あんまり後回しにしないようにしないとな。
そう、思っていたのに。
俺のリアルは、あまりにもあっさりとファンタジーに飲み込まれて、終わってしまったんだ。
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→【終わりのオープニング-2】
(次回6/20)




