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Re, DS  作者: SIOYAKI
第二章 迷わぬ者に悟りなし
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第21話

ギルドにて。


 石作の建物が並ぶ中、一際大きく目立つ建造物。白く塗られた壁は清潔感を、扉を潜って直ぐに広がる大広間は明るさを強く感じさせる。


 広間の中には壁ではなく透明なガラスで仕切られており、その内の一つは飲食用の区画であるのか。丸いテーブルが幾つか並び、給仕が慌ただしく行き交っていた。


『乾~杯っ!』


 耳を澄ませば、聞こえて来るのはそんな音。赤青黄色の信号機トリオが、酒杯を片手に終わった仕事を語らっている。


「いや~、やっと終わったぜ。森に5日も缶詰とか、全くやってられねぇよなぁ」


「ああ、全くだ。折角、罠師(マエストロ)に誘われたのに、大した進展なかったからねぇ」


 Dランク冒険者パーティ“トゥリコロール”。森林調査の依頼を受けたA級冒険者の罠師(マエストロ)に同行し、英雄の戦いの目撃者と成った者達。


 彼らは転移でこの町に戻った後、罠師と共に追加の調査依頼を受ける羽目になっていた。遭遇した魔物が企む何かの調査。翌々日の朝に起きた異常気象の調査も後から加わって、漸く一息吐いたのが今朝である。


 そこからこの町に帰って来て、ギルドへの報告が終わったのがつい先程。店を探す時間も惜しいと駆け込むように入ったギルドの食堂で、今現在は打ち上げ中だ。


「ゾラってば、割と真面目に狙ってたりすんの? あれ、多分社交辞令だから、勘違いしちゃ駄目だよ」


「そりゃ、旦那でも流石にゾラはなぁ。マジで狙ってんなら、俺らは旦那に忠告しねぇといけなくなるんだが」


「玉かち割られたいのかい、野郎ども」


 D級の彼らにとって今回の依頼は、身の丈を超える者であったと思えている。何せ冒険者ギルド最高ランクであるA級の罠師が、遅れを取るような魔物が出て来たのだ。


 その後の異常も大魔女事変を思わせる規模の出来事であり、明らかに何かヤバい事態が起きていたと察していた。鬼が出るか蛇が出るかと、調査の期間は生きた心地もしなかった程である。


 しかし彼らの抱いた恐怖に反して、調査は遅々として進まなかった。事態の元凶が居なくなっていたのだから、ある意味当然の話ではあるのだが。


 それでもせめて、安全が確保されていることだけは確認しなければならない。そうした理由もあって調査は止められず、交代要員が来るまで半泣きになりながら足を動かした訳だ。


「そう言えば、旦那と言えばさ。まだ現地で調査続けるんだろ。A級ってのも大変だよなぁ」


「結論は原因不明、で終わりそうだけどね。民心ってものがあるにしてもさ、よくやるよ」


「少なくともアタシらには無理そうだ。一週間以上、酒と女がない生活なんてさ」


「そりゃ確かに、って言いたいが。お前がその発言すんのは問題じゃね」


「酒も女もどうでも良いけど、実力不足は確かだね。まあ、僕らには関係のない、雲の上の話だよ」


 即座に動ける者が居なかったから、人手として動いていたD級の彼ら。より高ランクの冒険者が動けるようになれば、基本的にはお払い箱だ。


 それに意を唱えたり反発出来る程に現実を知らぬ訳ではなく、年の割には老成している面もある彼らはそんなものだと割り切っていた。寧ろ、それで済んで良かったとすら感じている。


 所詮D級。E級やF級のルーキーよりはマシだが、一流域のC級には届かないと言う程度。その程度で燻っているのだから、この扱いも妥当だろう。


「と、あれ、イベールの嬢ちゃんだぜ。連れてんのは、亜人の嬢ちゃんと、随分とまあ綺麗な子どもだなぁ」


「ほんっと、綺麗な子だねぇ。けどあそこまで綺麗だと、何と言うか現実感がないっていうか。ほんっと住む世界が違うなぁって思えてきて、手を出す気にはなれないもんだね」


「子どもだよ、そもそも手を出そうとするなよ。住む世界が違うって言えば、レランパーゴもそうだけどね。僕らの後輩なのに、もうB級。その内、A級にもなるだろうしさ」


「はは、したら酒の肴や閨での自慢話になるじゃねぇか。アイツは俺らが育てたって、さ。ほら、野営時のテントの張り方、教えたの俺よ」


「そりゃ確かに。旅先で催した時の出し方とか、着替える時のコツとか、教えてやったのはアタシだからねぇ」


「……ほんっと、大したこと教えてないね」


 透明なガラスの向こうを歩いている、白銀の鎧を着た少女を見付けてウルソンは手を振る。視線に気付いた少女は軽く手を振ってから、ギルドの受付の方へ。


 彼女の後ろに続く二人の人影、その内の一人にトゥリコロールの面々は一瞬視線を奪われる。白髪の少女と見紛う人物は、思わず感嘆の息を漏らしてしまう程に美しかった。


 A級に至る未来が約束されている白百合の少女騎士に、目を奪われる程に美しい子ども。同行している猫の亜人も、モデルのようなスタイルをした美人。生きる世界が違うなぁと、彼らは感心するのであった。




「はい、依頼品の納品、確かに確認しました」


 そんな風に思われているとも知らず、アンジュは袋より取り出した魔物をギルドの受付へと渡していた。


 白い長机の向こう側に座っていた受付嬢は、魔物を受け取ると数を数えながら捕獲用のケージへと入れていく。


 そうして規定数に達したのを確認した後、机の引き出しを開く。中には金貨や銀貨など、硬貨が複数並んでいる。


「今回の依頼報酬は、銀貨8枚です。いつも通り、半分は口座でお預かりしますか?」


「いや、今回は口座に入れなくて良い。だが、銀貨じゃなくて銅貨でくれ。袋四つに分けてな」


「……なるほど。では、一名分の登録料もそちらから引いておきますか?」


「ああ、それで頼む。登録料引いた方は、分かるように目印でも付けてくれ」


「はい、かしこまりました。少々、お待ちくださいませ」


 分かりましたと受付嬢は引き出しを閉め、立ち上がると一礼してから裏手の方へ。残されたアンジュの背後で興味深そうに周囲を見ていたヒビキは、ふと零すように口を開いた。


「綺麗だ、ね。思ってたの、少し、違う」


「ま、冒険者って基本日雇いの労働者だし。質が悪いイメージがあるのは分かるわ」


 所謂冒険者ギルドと言えば、場末の酒場のような騒々しさがある場所をイメージする物だろう。荒くれ者や腕自慢が管を巻いたり、新人に絡んだりしている印象もあるか。


 そんなイメージと異なって、コートフォールの冒険者ギルドは解放感や清潔感を有していた。

 大手企業の受付や、大きな職安施設。そんな例えが相応しい程に、しっかりとした団体だと思えて来る。


「否定はしねぇよ。実際、中央のギルドは結構酷い所が多いらしいからな」


「そう、なの?」


「あー、うん。そうね。私が知ってるのは中央でもあんま多くないけど、一番マシだったポート・シャリティエのギルドでも場末の酒場感あったわ。喧嘩売ってくるチンピラとか結構居たし」


「その点、北はかなり真面だぜ。本場の西方ほどじゃねぇけど、設備も充実してるからな」


 とは言えそれも、北方大陸だからこそと言えるもの。国家同士の仲が悪い中央では、ギルドも余り強く干渉することが出来ないのだ。その為、人員の質も低い。


 対して領主が開明的なこともあり、ギルドとの協力も率先して行っているのがこの町だ。

 そうした事情もあって、北方支部はそれなり以上の敷地を有する。ギルド全体の中でも、五指に入るであろう規模なのだ。


「中央だと酒場のマスターがギルド長やってたりして個人店みたいな感じだったけど、こっちはしっかり部門ごとに分かれてるように見えるわよね。奥にはどんな設備があるの?」


「大きなもんだと訓練場と書庫だな。診療所や宿泊施設もあるが、その辺は最低限って感じ。他には娯楽関係の施設が少しと、総合相談窓口ってのもあったか確か。どれも多少費用が掛かるが、ギルドに所属してれば誰でも利用出来るぜ」


「一杯、だ、ね」


「相談窓口って、そんなの需要あるんだ」


「そりゃ、不安や悩みを抱える冒険者も一定数はいるからな。今の戦い方が自分にあってるのか、とか。高ランク冒険者を目指すにはどんな仕事を受けるのが良いのか、とか。ソロじゃなくて固定パーティを作りたいけど信頼出来る仲間をどう探せば良いのか、とか。そういった相談にも対応していて、結構助かってる奴は多いんだぜ」


『へー』


 冒険者ギルドとは言っても、実際に未開の地を冒険する者などごく一部だけ。更に言えば低ランクの冒険者が魔物退治や荒事の代行を行うことも、割合としては実は少ない。


 構成員の大半は、ギルドの後ろ盾を求めて登録しているだけだ。何せ金さえ払えば、資格を得られるのが冒険者ギルド。身分証として、実に使い勝手が良い。


 雇用主の側からしても、構成員が不利益を齎せばある程度はギルドが補填してくれると言う保証がある。土地によっては、雇用条件にギルド証を要求する者もいるくらいだ。


 犯罪行為を犯せば、ギルド側が調査員や処罰の人員を派遣して対処してくれる。そうした仕組みが出来ているから、西や北では生活に密着した組織となっているのである。


「お待たせしました、レランパーゴ様。こちら、報酬の銅貨800枚です。登録料の10枚を抜いた物は、口の部分にギルドの認印を押してあります」


 そうこう話をしている内に、受付嬢が戻って来る。ぴっちりとした制服を着た若い女が、手にしていた四つの革袋。感謝を告げてそれを受け取ったアンジュは、内の二つをヒビキとミュシャに手渡した。


「ありがとよ。んじゃ、ヒビキとミュシャ。こっちがヒビキの分で、こっちがミュシャの分な」


「おおー、ありがたく! さっすがBランク、お大尽にゃん」


「……良い、の?」


 即座に受け取り、懐に収める猫娘。その太々しいに対して、印の付いた袋を渡されたヒビキは少し戸惑う。受け取って良いのだろうか、と視線を向ければアンジュは笑って返した。


「ああ、良いぜ。受け取っとけ。面の厚い駄猫程になれとは言わねぇが、胸張って受け取って良いんだぜ。お前もしっかり、仕事をしたんだからよ」


「お仕事で、お金、貰ったの、僕、初めて」


 渡された革袋を両手で包んで、じっと見詰めながらに呟く。そんな少年の白い髪を撫でてから、その小さな背をアンジュは軽く叩いた。


「おう、良かったな。それと他にも受け取るもんがあるからよ、受付の方に行っときな」


「? 分か、った」


 促されて、ヒビキは首を傾げながらも受付に向かう。その背を眺めるアンジュに向かって、彼女の意図を読み取ったミュシャは感謝を告げた。


「ほんっと助かるわ。登録料まで出して貰っちゃって、お姉さんでも少し申し訳なく感じるかも」


「少しかよ。ま、良いけどな。後輩に手を貸してやるのは、北の冒険者としては当然のこと。気に病むなら、お前らも後輩が出来たら手を貸してやれば良い」


「ヒビキに伝えておくわね!」


「お前はやらねぇのかよ!? 駄目親父とタメ張るレベルで駄目発言だぜ、おい!?」


 時間にすれば一日にも満たない付き合いだが、思ったよりも仲良くなっている少女達。そんなやり取りを背にしたまま、ぼんやりとしているヒビキに受付嬢は笑顔を作って小さな板を手渡した。


「ヒビキ様。こちらをお受け取りください」


「これ、何?」


「仮登録用の物ですが、ギルドの認定証になります」


 材質は、プラスチックであろうか。周囲の建造物と比べれば技術がかけ離れていると感じるのは、小さな金属片が組み込まれているから。


 形は現代のクレジットカードや免許証などを思わせる小さな板を、ヒビキは持ち上げ明かりに照らす。薄っすらと透き通って見える透かしに、少年はキラキラと目を輝かせた。


「ギルド、証。これ、僕の」


「はい。本登録用の物は、この後に写真撮影と必要書類への記入をして頂いた後に、数日程で完成しますので仮登録証と交換で受け取れます。撮影は今この場で行ってもよろしいですか?」


「ん。大丈、夫」


「では、失礼しますね。公的な身分証明にもなりますので、自然な表情でお願いします」


 そんな少年の子どもらしい態度に微笑みながら、受付嬢は小型のカメラを取り出す。現代でも使えるであろうデジタルカメラを目にして、ヒビキはその目を丸くした。


「カメラ、あるん、だ」


「西方の製品ですよ。最新モデルに比べると、二世代程型落ちしていますけどね」


 西方大陸は、最も技術が進んだ大陸だ。他の大陸と比較すればその技術は、百年は先を行っているとも言われている。その謳い文句は、実は過小評価である。


 中央や北方などの科学技術は、中世ヨーロッパと同程度。産業革命以前の段階だと言うのに対し、西方ではコンピュータやネットワーク技術なども普及しているのだ。


 町にはコンクリートの高層建築が並び、各町を結ぶ列車には超電導現象を利用した技術が使われ、音速を超える戦闘機やミサイルなども存在する。一部の技術は、西暦2000年代でも再現出来ない程である。


 その技術格差は、1000年分以上の開きがある。そうでありながらも軍事的には中央の方が勝っているのは、魔術や精霊術といった魔導技術の有無だけでなく、英雄と呼ばれる異常な個人の存在故だ。


 超音速で飛翔する戦闘機やミサイルを、空中で容易く捕縛し跳ね返すのが英雄級。空将を始めとした中央大陸の英傑達は、千年の技術差を軽々と覆す。そうした個が産まれ易いのが中央で、逆に殆ど産まれないのが西方である。


 三将軍の二人に、六大師団長。十三使徒の大半も中央の出身者。それだけの厚みを有する中央に対し、西方に属する英雄級の実力者は灰被りの猟犬一人だけ。A級冒険者は頭一つは下がってしまう。


 そしてその猟犬以前に、英雄と呼ばれた人物が西方に居た記録はない。少なくとも数百年は遡っても、それらしき偉人は見付からないのだ。技術格差が開き続けた理由の一つには、そんな事情も関係しているのだろう。


「それと、こちらの書類に記入を。提出は本日中でなくとも問題ありませんが、遅れると本登録証の発行も遅れますのでご注意を」


「分か、った」


 写真撮影を終えてから、ヒビキは渡された書類を手に頷く。そうして手元に目を落とせば、其処に記されていたのはヒビキの知らない言語である。


「読め、ない」


「代読や代筆も有料で承っておりますが、如何されますか?」


「ミュシャ、に、聞いてみる」


「書庫の隣にある会場では、各国公用語の講習なども執り行っております。必要でしたら、私ども受付までお声がけください」


「ん。その、時は、お願い、する」


「ええ、お待ちしております」


 丁寧な応対をしてくれた受付嬢に感謝を告げて、ヒビキは身を翻す。雑談を交わしていた少女らの下へと駆け寄ると、両手で書類を押し付けた。


「ミュシャ、読んで」


「ん、了解。あー、これ西方語版じゃん。中央語の注釈も付いてるけど、読めない人多いんじゃない?」


「そりゃ、ギルド本部は西方の所属だからな。公式書類はどうしても、西方語が主体になるんだよ。お前が登録したギルドはそうじゃなかったのか?」


「酒場の店長が、ざっつに渡してきた書類は中央語だったわ。実際に書いてくれたのは先生だったから、細かい所までは見てないけど」


 西方語は慣れてないと愚痴りながら、書類を読み進めていくミュシャ。細かな所まで確認しているのは、彼女の性格故にであるか。


「ふーん。登録名って、本名じゃなくても良いのね。ヒビキ、何て名前で登録するかにゃん?」


「僕、タツミヤ・ヒビキ=アジ・ダハーカ」


「……アジ・ダハーカの部分は隠そうね。後、家名がタツミヤで、名前の方がヒビキなのよね」


「ん」


「なら、登録名はヒビキ・タツミヤの方が良さそうかな。逆順だと、東国出身だって誤解されそうだし」


 受付の直ぐ近くにある記入スペースへと移り、立て掛けてあるペンを手に取る。ボールペンだと驚いているヒビキの前で、ミュシャが書類に必要事項を記入していく。


 記入する項目が多いのか、或いは注意事項や注釈が多いのか。筆を進めては直ぐに止まると言う行為を繰り返すミュシャに、それを横で見ていたアンジュが手を出し言った。


「おい、書類貸せ。時間掛かりそうだし、先にサインだけしとく」


「んー、あー、はい」


 言われてミュシャが書類を渡し、そこにサラサラと慣れた手付きでアンジュが文字を書き加える。

 何を書いているのか分からぬヒビキでも、ミュシャが書いている字と違うと言うことだけは分かった。


「へー、書く方は中央語でも良いのね」


「名前のサインはともかく、推薦文の方は出来れば西方語の方が受けは良いんだがな。読むならともかく、辞書もなしに西方語での文章なんて書けねぇよ」


 ヒビキには分かる由もないが、彼女らが記した文字は嘗ての世界にもあった言語だ。この世界で使われている文字は、精霊王達の元になった遺伝子データに由来している言語である。


 中央語と呼ばれているのは、クロエの遺伝子パターンがフランス人のものであったがために選ばれたフランス語。西方語と呼ばれているのは、同じ理由でスペイン系のマリナに由来するスペイン語。残る南方と東方もまた、彼女らの遺伝子情報に関わる文字が使われている。


 そんな前時代の残り香に嘗て中学生だった少年が気付ける筈もなく、ヒビキは小首を傾げて問うことしか出来なかった。


「なんて、書いてある、の?」


「この者の能力がEプラスランクに該当することを保証します。アンジュ・イベール=レランパーゴって書いてあるわね」


「いー、ぷらす」


「実力的にはDランクだが、色々不安要素があるので試験免除はなしって評価な。駄猫は仕事してねぇから、プラス評価なし。後でEランクへの推薦書だけは出しといてやるよ」


 与えられた評価はE級上位。実力だけならもっと上も狙えるだろうが、彼らの危うさを考えるとこの辺りが妥当だろう。アンジュはそう、結論付けていた。


「駄猫という不名誉なあだ名に怒れば良いのか、何だかんだ言いつつ手助けしてくれる気遣いに感謝すれば良いのか。悩ませてくれるわね、ツンデレまな板」


「誰がまな板だぁっ!? テメェがデカ過ぎんだよ、駄猫じゃなくて駄牛か糞がっ!?」


 そんな少女から書類を受け取ったミュシャは、割と本気で対応に悩みながらそんな言葉を口にする。胸囲もほぼAに等しいB級な少女は、彼我の戦力差に怒りの叫びを上げる。


 ジト目になって睨み付けるアンジュに対し、胸元を強調しながら嗤うミュシャ。一瞬険悪な空気が漂うが、困ったようにオロオロとするヒビキの姿に、少女らは互いに息を吐いて切り替えた。


「因みにイベールって家名、もしかして?」


「あー、気になるよな。まぁ、隠してる訳じゃねぇけど、あんま触れないでくれると助かる」


「了解。嫌だって言うなら、気にしないでおくわ」


「……いや、嫌って訳じゃねぇんだが。色々と複雑でな」


 言った言葉に少しの苦味を感じながら、アンジュは金糸の髪を雑に掻く。そっか、とだけミュシャは返し、ヒビキは分かっていない表情で首を傾げた。


「んじゃ、私はそろそろ行くわ。機会があれば、またな」


「ええ、また。今日は本当、助かったわ」


「ばいばい、アンジュ」


 そうして、話を終えた彼らは別れる。綺麗な笑顔で見送るミュシャと、無表情のまま手を振るヒビキ。

 そんな彼らに軽く手を振り返してから、アンジュ・イベールはその場を立ち去ったのだった。





【TIPS】

各国の言語は、大陸ごとに異なる。北と中央がフランス語。西がスペイン語で南がロシア語。東は中国語を使用している。理由は本文中にもあるように、精霊王たちの元となったデータの出身地から。


当時残っていた最も古いデータを漁り、集まった遺伝子情報から受精卵を生成。胎児になる前にそれを加工したのが、クロエを始めとする原初の亜人たちである。

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