表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/279

第64話 Anthem(アンセム)

舞台は、郊外のショッピングモールに設けられた特設ステージ。


そこに立っていたのは、六匹の蟻だった。

人間ではない。本物の蟻だ。

ステージ中央に設置された“可視拡大型モニタ”が、彼らの姿を数十倍に拡大して映し出している。


ユニット名は「A6(エーシックス)」。


国公認の“共生芸能プロジェクト”として立ち上がった、史上初の蟻によるアイドルグループだった。



---


音楽が流れ始める。

軽快なエレクトロポップのリズム。

スクリーンには、6匹の蟻が「ダンス」しているように映る。

正確には、うねるように歩き、止まり、交差し、回り込む──ただそれだけの動きだ。


だが、観客は熱狂していた。


> 「動きがかわいい〜!」

「このターン、フォーメーション神じゃない?」

「4番の子、今日キレてる!」




ペンライトを振る者、涙ぐむ者、タトゥーを入れている者までいた。


一方で、モールの隅でそれを観察していた青年・志賀しがは、ずっと首をかしげていた。


「……いや、全然音と合ってないよな?」


 


何曲か披露されたあと、会場では“応援メッセージ”の抽選読み上げが行われた。


ステージ上のスクリーンに「心をつなぐ共生のリズム」という文字が浮かび、 次の曲が始まる。


観客は総立ちだ。


だが、志賀の目には、それはただの“行列”にしか見えなかった。


蟻たちは音楽に合わせてなどおらず、それぞれが異なる方向に進み、何の脈絡もなく立ち止まり、時に衝突し、また引き返していく。


まるで何も感じていないように見えた。


志賀は思わず隣の女性に尋ねた。


「……あれって、ダンスに見えるんですか?」


彼女は目を丸くした。


「え、何言ってるの? ちゃんと感じ取らないと、失礼だよ?」


 


その晩、SNSでは“神公演”と絶賛されていた。


「個々の動きに意志があった」

「4番が3番のラインを越えた意味、深い」

「A6は今日も“人間を超えていた”」


しかし、志賀にはそれが「意味を読み込もうとする側の錯覚」にしか思えなかった。


「……俺がおかしいのか?」


 


数日後、テレビで特集が組まれた。


司会者が言った。


> 「彼らは、誰よりも人間らしいのかもしれませんね」




その言葉に、志賀はついにテレビを消した。


彼の頭には、ただあの映像が焼きついていた。


音に合わない六匹の蟻。

ただ、動いているだけの、何の意図もない運動。


でもそれを信じる者たちは確かにいた。

彼らは泣き、祈り、蟻たちに人生を投影していた。


——なぜか?


志賀は思った。


> 「“理解できない動き”こそ、人は一番“意味”を求めるのかもしれない。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ