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第59話 ちいさなモデル

最初の動画は、10秒ほどのクリップだった。

再生ボタンを押すと、そこには──


白いレースの布切れを背にまとった蟻が、机の上を歩いていた。


「#今日のありちゃん」

「#コーデは私のお下がり!」

「#共生ってこういうこと!」


投稿者は20代女性・モデル志望のインフルエンサー、mio(@mio__eco)。

フォロワーは1万程度だったが、その動画は48時間で300万回再生を突破した。


  コメント欄はすぐに二分された。


「かわいい……人間と蟻が一緒におしゃれって未来的すぎる」

「うちの子(蟻)にも服作ってみます!」

「こういう形で“種の尊重”が広がるのいいね!」




だが同時に、批判も殺到した。


「蟻の自由を奪ってるだけ。かわいそう」

「それ、本人(蟻)は喜んでるって証拠あるの?」

「“人間に合わせてあげてる”って上から目線だよね」



mioはすぐに続編を投稿した。


──蟻の“ありちゃん”は、専用の温室で飼育されており、選ばれた時だけ衣装を身にまとう。

布は軽量素材、粘着剤は不使用、すべて“取り外し可能なマジックテープ”で留めているという。


「ちゃんと、本人が嫌がるときは着せてません」

「うちの子たち、すごく活き活きしてます」



しかし、それを見た蟻行動研究者の一人が、こう警鐘を鳴らした。


「一見無害に見えるが、蟻のフェロモン通信は極めて繊細です。 体表を覆うことで群れとの意思疎通が阻害される可能性があります」



これを受けて、SNSでは一斉に“#フェロモンハラスメント”というタグがトレンド入り。 やがて、国の共生庁までもが見解を発表する事態となった。


「現在のところ、“個蟻に対する衣類着用”に明確な法的規制はない。 ただし、本人(蟻)の明示的な同意が確認できない場合、今後は“共生倫理審査”の対象とする可能性があります」



そんな中、mioは最後の投稿を行った。


「私は“蟻と人間が並んで生きる”ってことを見せたかっただけなんです。 でも、それが誰かを傷つけたなら、ごめんなさい。」



動画には、服を脱いだ“ありちゃん”が、仲間の蟻たちと一緒に砂の上を歩く姿が映っていた。


静かに、何かを話すように。


──その後、mioのアカウントは更新を止めた。


けれど、ある都市郊外の保育園では、今日も子どもたちが布の切れ端を使って「蟻のおしゃれごっこ」を楽しんでいる。


「これ、うちの蟻ちゃんのドレス!」

「ちゃんと脱がせてあげるから大丈夫だよね」


——その行為が本当に“共生”かどうか。

それは、誰にもまだ、わからない。

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