魔法の杖
特段目立たない木の枝みたいな物に目を向ける。
ロナウドが持ってきた品物の中で異質な雰囲気を放っている。
「これは何かしら…?木の枝?棒切れ?」
ロナウドがにっこりと笑う。
なんだそのゾクリとするような笑みは…
「その棒切れに目がいくグリムヒルデ様はお目が高いですね?よかったら手にとってください」
「え、えぇ…」
グイグイと押し付けられロナウドの圧に負け、棒切れを手に取る。
するとどこからか風が発生したのか髪の毛が揺れるのを感じる。
でも、この広間は締め切っていて風吹くなんてことはない。
ただの棒切れのはずなのに、棒切れが光を発したような気がした。
ロナウドの方をチラッと見るが特に反応がないことから、さっきの光みたいなのは見えていないようだ。
なんだろう…ただの棒切れなはずなのに…
この棒切れを手放してはいけない、今ここで必ず手に入れなければという気持ちにさせられる。
「この棒切れ…いえ、品物。買わせてもらうわ!」
「……買うんですか?ほうほう…ただの棒切れですが…理由をお聞かせいただいてもいいですか?」
「そうね…明確な理由はないの。強いて言うなら私の勘よ。」
「勘……ですか?」
「案外当たるのよ?」
そうロナウドに自信満々に言いつつ、こっそり念話で鏡に「これ呪いの品とかじゃないよね!?」と尋ねる。
『なんだ?わかっていて買うんじゃないのか?これは魔法の杖だよ。しかも持ち手を選ぶ、最高級のな』
持ち手を選ぶ魔法の杖…?
なにそのめちゃくちゃファンタジーな物は!?
いや、魔法が存在してる時点で充分ファンタジーだけどね?
ファンタジーっぽい物が登場し過ぎてもうお腹いっぱいですわ。
まぁ、この魔法の杖は絶対買うけど。
「そうですか…私が持っていても使い道ないですし、これはお譲りしますよ!」
「え?いいの?」
「えぇ、私が持ってるより女王様が持っていた方が良いと私の勘も告げています」
「でも悪いわ…」
「何をおっしゃいますか!女王様は私のお得意様になる予感がしてるんです。そうなれば商人としての箔がつきますからね」
そう言うとロナウドは瓶底メガネをクイッとした。
「あら…そういうことなら遠慮なくいただくわ」
そう言えばジヴァに買ってあげる物は決まったけど…ユイに買ってあげる物は決まってなかったなと思い出したグリムヒルデはユイに似合いそうなアクセサリーを見繕うよう、ロナウドにお願いする。
「私の専属メイドになった記念に何か贈るわ。ユイは何がいい?」
ユイは目をパチパチと瞬かせる。
ユイって基本無表情なのに、こういう所があるから可愛いのよね。
「それは…なんでもかまわないのでしょうか?」
思わぬ食いつきだ。物欲とかないに等しく見えるのに。
「えぇ、何でもいいわよ。なにか欲しい物でもあるの?」
ユイはモジモジするとボソッと呟いた。
聞き取れずにもう1回聞き返す。
「…短剣が…ほしいのです」
まさかのチョイスである。
え?なに?私、殺される?
王家をも暗殺した伝説の集団の子孫であるユイに殺人予告されてる?
私、ユイになんかした?
いや、知らない間にしていたのかも…どうしよう〜!
『おい、トリップするでない。戻ってこい』
念話で鏡に意識を呼び戻される。
「グリムヒルデ様の敵は多く、いつ実力行使に出られるかわかりません。さっきだって…私は白雪姫様をお通ししてしまい…グリムヒルデ様の指示に添えませんでした…」
表情は変わってないが雰囲気でしゅんとしてるのが伝わってくる。
ユイは私を守りたいから短剣が欲しいと言ってくれてる?
『ユイにお主を害そうなどという悪意は感じぬ。その言葉の通りなのだろう』
「ユイ……気にしなくていいのよ。白雪姫は王族だし、無理やり追い出すわけにもいかなかったでしょう?でも気持ちは嬉しいわ…ロナウド、なにか持ってても不自然じゃない武器になるものってあるかしら?」
短剣などはメイドが持つのに余りにも物騒な武器すぎる。
せめてメイドが持ってても騎士に怪しまれない物を。
「うーん…それならこれとかどうですか?普段はペンダントなんですけど…こうやって十字架の真ん中部分を押すと刃が出るんです!」
飲んでいた紅茶吹き出す所を寸での所で気管支に紅茶が入り咽るだけで終わった。
なんていう物を持ってきてんのよ!この商人は!?
咽てゴホゴホしてるグリムヒルデの背中をジヴァが摩ってくれる。
「いやぁ〜、必要になるかわかんなかったですけど持ってくるものですねぇ」
ロナウドが瓶底メガネを押さえ、ニヤニヤしている。
なんだろう、この手で転がされている感は…
「この宝石のブローチとナイフになるペンダント、小瓶に入っている物は剥製用の薬以外は全部買うわ。あとこの古い本とダイヤモンドの腕時計も買うわ。合計でおいくら?」
「宝石のブローチが1万5000バニー、ナイフになるペンダントが2万4000バニー、変身薬と魅力薬が1万バニー。髪の美容液と蜂蜜のクリームが6000バニー。この古い本は世界に1冊しかないので少しお高めの5万バニー、ダイヤモンドの腕時計は65万バニーです。合計で77万1000バニーですね」
ロナウドは電卓も何も使わずにスラスラと値段を言うと、合計を弾き出した。
凄い…ニホンの計算式を知ってる私でもそんな早く答えが出なかったのに…
ユイが値段を聞くや否や、高速で金貨を数えて袋に詰めてゆく。
「あ、すみません。1つの袋だと心もとないので袋3つにわけてもらえますか?」
「かしこまりました。」
ユイは答えるが手は休めない。
手が早すぎて見えない!?やりおる!
「三袋、25万7000バニーずつ入っております。」
「ありがとうございます〜」
ロナウドは来た時同様、パンパンと手を叩くとゾロゾロと人がやってきて商品を片付けていく。
あっという間に商品が運び出され、大柄の男が金貨の入った袋を3つ担ぐと、ロナウドは恭しく頭を下げる。
「今日はたくさんの品物のお買い上げ、ありがとうございました。またのご利用、お待ちしております」
そして広間には私と、ジヴァとユイだけになった。
結構な金額になったな…その分戦利品もたくさんだ。
「これはあなた達の物よ。よかったら身につけてちょうだい」
「ありがとうございます、大事に使わせていただきます」
ユイは十字架のペンダントを受け取るとすぐに首にかける。
だがジヴァはなかなか、ブローチを受け取ろうとしない。
「本当に…私なんかがいただいてもいいのでしょうか?」
「ジヴァ、あなたの主である私が良いと言っているのよ。受け取りなさい」
「は、はいっ…ありがとうございます!」
ジヴァはおずおずとブローチを受け取るがつけようとしない。
「つけてあげるわ」
ジヴァに近づき、胸元にブローチをつける。
「大丈夫、盗もうとした奴。私が倒す」
ユイが胸を叩いてジヴァに言った。
あぁ、ユイは他のメイドから嫌がらせでブローチを取るかもと心配してたのか。
ジヴァは胸についたブローチを握りしめ、頭を下げた。
「大事に致します…!」
そんな2人の姿を見て、私は物を贈ってよかったと思ったのだった。
なんならグリムヒルデの人生で人に物を贈ったことって…ないわね。
今度父である辺境伯と母に贈り物を贈りましょう。
優しい心に反応するかのように杖が優しくチカチカと光ったのであった。




