発明家ロレックス
次に名乗りあげたのは、きっちりと七三分けをした髪型の青年であった。
今まで見てきた商人の中で1番若そうな印象を受ける。
「はじめまして、女王様に挨拶申し上げます。ロレックスです。僕が…いや、私が女王様にお見せしたいものはズバリ、発明品です!」
「ほう?発明品…とな?」
「はい!そうです!こちらが僕の発明品!望遠鏡でございます!なんとこの筒を覗くと100kmも先の景色が見れるんです!魔石で動かしているので魔法がなくても使えます!」
そういうとロレックスはさぁさぁと望遠鏡を渡してくる。
このロレックスという商人は研究者気質なのかも。
発明品?と尋ねた瞬間、目がキラリと光りさっきまでアワアワしてたのが嘘のようにハキハキと話し出したから。
あるある。好きなものをわかって欲しくてマシンガントークする気持ち。
そして間違って僕と言い、私と言い直してるのを見るあたり、営業し慣れてないと見た。
普段は営業担当みたいな人が商品を勧めるんだろうけど、何故か来させられたみたいね?
まぁ、そんなことはどうでもいいわ!
この世界で遠くが見れる望遠鏡は女王グリムヒルデの記憶を漁るがない。
つまりはこの世界の文明より進んでる品物なのだ!
私は望遠鏡を受け取り、覗いてみる。
広間の中だもの、壁しか見えないでしょうけど…
そう思いながら覗くと望遠鏡からは信じられないような光景が広がっている。
遠い村…かしら?ボロっちい木の家に薪割りをしてる人が見える。
そしてその薪割りをしているの頭の上には、あるはずの無いものがついている。
それは……ケ・モ・耳・!!
獣人が!獣人が!ケモ耳がついてる人間がいる!
ファンタジーじゃん!ファンタジーでしかない光景だよ!
その周りには薪割りをしている人の子供と思われるケモ耳のついた子供が元気にくるくると走り回っている。
すごい和やかな雰囲気だ。可愛い!尊い!
ニホンの記憶を持つグリムヒルデは猫や犬などの可愛い動物が大好きで、獣人などが出てくる小説、ゲーム、アニメ、漫画が大好きだった。
え?え?どういうこと?
この望遠鏡は天国とか理想郷を映し出す魔法の望遠鏡なの?
やばい!すごい!もうありがとうございます!良いものを見せて頂いて…尊死っ!
『おい、落ち着けグリムヒルデよ。この望遠鏡は透視能力のある魔法石を用いて作られているため障害物を透視し、この光景が見れるのであろう。つまりはこの光景は100kmも離れた村に存在する』
そんなすごいものあるの?あるわ!今ここに!
「どうでしょうか、女王様」
ロレックスが少し不安そうな目でグリムヒルデに問いかける。
ニホンで大好きだった獣人がいるだなんて!
それを知れたのも嬉しいし、これがあれば退屈しなさそうだわ。
尊いが見れる!ありがとう神様仏様ロレックス様!絶対買う!何がなんでも買う!
『すごいわ、ロレックス!見たことの無いようなものがたくさん見える!これ買うわ!』
「本当ですか!?ありがとうございます!!」
ロレックスはホッと胸を撫で下ろすと、嬉しそうに笑った。
さてここからが問題だ。こんな画期的な発明品が安いはずがない。
私は緊張を押し殺しロレックスに問う。
「これはいくらかしら?」
だが、そう聞くとロレックスは途端に考え込んでしまった。
自分の発明品はガラクタばかりだと言われ、買い叩かれることがほとんどで、どんな値段をつけていいのかわからないとロレックスは言う。
ロレックスにまかせていたら日が暮れるだろうと思った私はロレックスにこう提案する。
「なら、私の言い値で売ってちょうだい」
ロレックスは一瞬悩むような素振りをするが、うんうんと頷くと、
「え、えぇ…わかりました。女王様なら正当な価格で買い取ってくださるでしょうから」
と望遠鏡を私の前に差し出す。
私はにっこり笑うと、ロレックスに60万ボニーで買い取ると言った。
「ろ、ろろろ60万ボニーですか!?今までで1番高い!」
ロレックスは開いた口が塞がらないとでも言うようにアワアワと汗をハンカチで拭いたり、ネクタイをいじったりしている。
「あなたはきっとこれからもっと凄い発明をして商売をする、そんな人だと思っているわ。これは正当な報酬よ。あなたの発明、楽しみに待っているわ」
その言葉を聞いたロレックスは泣き崩れた。
「ありがどゔございまずぅっ!ごぎだいにぞえるようがんばりまず!」
ロレックスは鼻をスビズビしている。
あまりにもズビズビしてるのでハンカチを差し出す。
「ロレックス。ハンカチはお使いになるかしら?」
「え、えぇ!?あ、いや汚しちゃいますし…その畏れ多いでず!…ズビッ」
「あら、知らないの?ロレックス。ハンカチは汚すためにあるのよ!」
そういうとロレックスの顔にハンカチを押し付ける。
慌ててロレックスはグリムヒルデからのハンカチを受け取り鼻水を拭う。
「そのハンカチはあなたにあげるわ」
そんなこんなしていると、ユイの金貨の計測が終わったようだ。
「こちら60万ボニーになります」
ユイが測りで数えた60万ボニーをロレックスに渡す。
「はい、ありがとう…ズビッ…ございます!」
それを泣きながら両手で受け取ると、一礼しロレックスは広間から退室した。
発明家だから力持ちなのだろうか?
いや、関係あるのかな?それ?
発明家で商人である彼なら、ニホンの記憶を持つ私の知識も有効に活用してくれるだろうし、要チェックね。
グリムヒルデは頭の中の重要人リスト3人目にロレックスを追加した。
1番目はメイドのジヴァ、2番目はユイである。
ニホンの記憶を持つ私でさえ、こんな物は初めて見た!
でもこの望遠鏡、100km先の人を容易にストーカーできる物だから使うのは気をつけなきゃね。
あと管理も…大きいし、目立つから打出の小槌で小さくして隠しておこうかしら?
メ白雪姫側のメイドに触らせないためにも。
最後に残った商人は初めの商人の宝石を鑑定した胡散臭そうな男だった。
瓶底メガネも相まって何を考えてるのかわからない。
でも所作は完璧だ。
どこの貴族にお呼ばれしたって、文句はつけられないだろう。
まぁ、瓶底メガネとその変な柄物の羽織りさえ着てなければだけど。
さて、この商人は何を見せてくれるのだろうか?
食器?羽根扇子?宝石?世にも不思議な品物?画期的な発明品かしら?
彼が品物を見せてくれてもその前に良い品物を見てしまったから、買う気が起きるかどうか…
まぁ、見てから決めましょう。
胡散臭い商人の男が恭しく床に片膝をついて、お辞儀をする。
その仕草はとても美しく、何故か心を惹かれた。
「月のように気高く美しい女王、グリムヒルデ様にご挨拶申し上げます。わたくしの名前はロナウド、以後お見知りおきを」
そう言うとロナウドはフッと笑ったように見えた。
実際には笑っていないのかもしれない…でも私はそのように見えたのだ。
それが見間違えか、目の錯覚か、本当に笑ったのか。
魔法の鏡のみぞ知る。
『ほほぅ…これまた曲者だな…さて、この者の存在はグリムヒルデの人生にとって吉と出るか凶と出るか。見守るとするか。普段からグリムヒルデには扱き使われているからな、これくらい意趣返しをしてもいいだろう。くふふふっ…』
グリムヒルデが持つ手鏡が怪しくキラリと光ったのであった。




