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罪悪感

男side


  八百屋に入ると、中には長期保存できそうなカップ麺や非常食が並んでいた。

そしてその奥には、還暦を迎えたくらいの爺がいた。


 「ご、強奪に来たのか......」


 手に包丁を持っていることに臆することもなく、俺は口を開いた。


 「俺は腹が減ってるだけだ、飯分けてくれねえか?」


 もちろんその言葉を信用していない様子で、俺に向かって包丁を向けたままだった。


 「どうすれば信頼してくれるんだ。」

 「......」


 返答に困った爺は包丁を下げて、頭を下げた。


 「いやはや、こんな世界になってしまってから信頼ができなくてな、妻も強盗にやられてしまった......」


 寂しそうに俯いていつ爺には目もくれず、俺は棚に並んでいる食料を見ていた。

お湯が必要なカップ麺、電子レンジで温める必要がある冷凍食料などもあったが、俺はその奥にあった非常食に目をやった。


 「ちなみに知ってると思うが、外にいた奴らを倒したのは俺だ。」


 非常食を眺めながら俺はさりげなく爺に向かって話しかけた。

顔を見ていないのでどんな表情をしていたのかは知らないが、声で驚いているのは伝わった。


 「そうか、なら好きなものを好きなだけ持っていきなさい。」


 俺は言葉に甘えて非常食をすべてリュックに詰めて、顔を上げた。

その時に気づいた、彼の表情を。


 何もかもを失い、あきらめたその絶望の表情を見た。

何とも思わなかった俺の心に少し、傷がついた気がする


 「俺が終わらせてやる、こんな世界。」


 それだけ言って俺は店を出た。

俺にはこれ以上、あの爺の顔を見ることはできなかったからだ。



 真奈美side


 「真奈美おねえちゃん、おなかすいたよ......」


 少女ちゃんはだんだんと集中力がなくなってきているのか、目の焦点を合わせずうつろな目になってきていた。

うちが食料を持ってないことを後悔していると、優が声をかけてきた。


 「大丈夫よ、きっとあの人が食べ物をたくさん持ってきてくれるはず。」


 こんな絶望的な状況でも、優は冷静だった。

いや、冷静ではなかった。

彼女の声は、捨てるような、冷たい声だった。


 そっと、優を見る。

いつもと違う、どこか怒った顔をしていた。

その顔を見て私は言葉が出なくなり、下を向いてしまった。


 玄関の扉が開く音がして、うちは玄関を見る。

背中にリュックを背負った彼が帰ってきたのを見て、心から安堵した。


 「腹減ってんのか?死んだ顔してるぞ」


 リュックからすぐ食べられそうな非常食を出していく彼は、どこか申し訳なさそうな顔をしているようにも思えた。

そのまま見つめていると、睨まれてしまったのですぐに視線を非常食に移す。


 「すごい、こんなにたくさん!」


 少女ちゃんが乾パンを持ち上げて振っていた。

しっかり中身がある音がして、さっきまでの顔とは打って変わって笑顔になった


 「よし、また倒れる前に食っちまおうか。みんなこっち集まれ。」


 彼が手招きしたので横に来て、私は三角座りをする。

その隣には優が来て、私はそれだけで幸せな気持ちになった。

今すぐに抱き着きたい欲を抑えて、私たちは手を合わせて、声をそろえていった。

今日で一番、幸せな言葉を


 ――いただきます。――


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